LA - テニス

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最近、やけにスキンシップが頻繁になって来た気がするのは私だけだろうか…
無駄に髪を触られたり、頭を撫でられたり。不意打ちで手も握られたこともあった。ホンのちょいだけど。
その度に私の眉間にはシワが寄って、物凄い顔をしているはずなのに動じることもない。
そんなアイツの能天気さ、鈍感さ、イタイまでの前向きさ、脳内の平和さ、馬鹿さ加減を羨ましく思う。




Unbalance  -アンバランス-




「……あのさ」
「んー?何やねん」
「ぶっちゃけさ…ウザいんだけど」

暑いからわざわざ束ねて上げてる髪で遊ぶなよ。形崩れたらまた結び直す必要も出て来るじゃん。
私はアンタと違ってそこそこ身だしなみとか気にするタイプ。モサモサしてるのは嫌なんだけど。
いやね、確かに私の髪は剛毛で犬の尻尾とか馬の尻尾とか…とりあえず、尻尾っぽい毛並みよ?
無駄に触られたりすることも多くて、だけどそれをやるのが女の子の友達だから許せるだけで…

「誰の許可取って気安く触ってんのよ」
「志月の髪に触んのて許可いるん?」
「そこ、突っ込むトコ違う」
「ゆいサンてば昼間から大胆やなー」
「……勝手な解釈すんな、キモ眼鏡」

そもそも今投げ掛けた疑問自体が間違ってるんだよ、伊達眼鏡め。要は触るなって言いたいんだよ。
触られる度に毛先が首筋撫でて気持ち悪いし、下手したら鳥肌も立つんだよ。
そうなったら身震いして気持ち悪さ倍増するってことに気付け。むしろ、今すぐに解しろよ。
やっぱり持ち上げるだけじゃなくてまとめるべきだったか?お団子…出来るほど伸びちゃいないけど。

「キモ眼鏡て酷いわ」
「だから、言ってる傍から髪触んな」

こんなヤツ、キモ眼鏡で十分だわ。昼間から下世話すぎる下ネタ吐くな。それを私に擦るな。
本当に中学生…私と同じ年か?気持ち悪いくらいにオヤジ入ってるだろ。
この間、クラスメイトに「好みのタイプは?」って聞かれた時、瞬時に「足の綺麗な子」とか吐くし。
そのままの言葉が校内新聞に出てたぞ?それも否定することなく、それで終了だけどさ。
コイツはアレだ…「好きな下着の色は?」って聞かれたら「白に決まってるやん」とか言うんだよ。
その辺の変態オヤジと得て変わらないヤツだ。絶対、間違いなく。

「大体ね、女の髪を触るヤツは女好きって決まってるんだよ」
「俺が男好きでも問題やろ」
「だから、そこに突っ込んで欲しいわけでは…」
「いややわ。その辺は今夜、俺気張って――…」

――殴ってもいいですか?むしろ、すでに殴ってしまいましたが。

「AVの見過ぎ」
「痛いやん!暴力反対!」
「……もういい、お前死ね。地球に害を及ぼす」

敵だね、ここまで来れば若いOLにセクハラを働く上司と何一つ変わりはない。
今のうちに芽を摘んでおかないと将来的にコイツは害を及ぼしかねないわ。更生余地ナシ。
コイツがセクハラで捕まった日には傍聴席で裁判を見るか、証言台に立つか…
今から決めておこう…よし、証言台に立ってありのままを話してやることにしよう。有罪になれ。

「そんな言わんと、俺と志月の仲やん」
「誰がアンタとコンビ組んだ?」
「ジョークやんか。あんなん言えるんは志月だけやし…」
「……私の言葉は無視か?」

もはや、色々と噛み合わないので会話する余地もなし。
何だってこんなのが私に寄って来るかな…こんな時に限って岳人も遠目に私たちを見てるだけ。
コイツの相方はアンタでしょ?さっさと撤去してよ。相当ウザいんだけど、この眼鏡。
そう目で訴えてはみるものの…岳人は全然動く気配すらない。むしろ笑って手振ってる。

「……あの向日葵息子め」
「ん?俺かいな」
「……アンタの何処が向日葵だよ」

例えられる花すらないだろ。例えられた花に失礼だし、可哀想だわ。
岳人は苗字からしても雰囲気からしても立派な向日葵。少々暑苦しい向日葵だけど。
アンタはそんな爽やかさもないから向日葵なんかじゃない。むしろ、ドクダミ…

「俺は立派な向日葵やで?」
「……寝言、戯言は他で言ってよ」
「いやいやいや、これホンマの話」

ヤバイ…暑苦しい談話になって来たわ。逃げたい。だけど、この眼鏡が物凄く邪魔。
何で私の行く先を邪魔する位置にいるんだか。他人より図体デカいんだから隅に寄れ、隅に。
一体、何食ったらこれだけデカくなれるんだか…高校生どころか、大学生って言っても通るでしょ。
こんなんだったら、学生証を日々持ち歩かないと学割利かないわね。カラオケとか行っても。
……ま、そんなのどうでもいいんだけど。

「俺なー志月っちゅう太陽に向かって一生懸命伸びとる。届くように、近づけるように…
これって立派な向日葵やと思わへん?健気やて思わへん?ほら、やっぱ俺は向日葵やん!なあ!」

自己主張する自称向日葵に健気もクソもありません。
しかも、やや説明調で熱弁されても説得力もありません。

「何や感想ナシか?」
「何を言えと?」
「ええんやでー俺に惚れても」
「……沸いてるんの?」

我ながら変なモノに好かれてしまったと思う。
それも相当タチの悪い、冗談としか思えないような胡散臭い男。下ネタ、セクハラ、オヤジ。
見た目と頭の回転が売りで、そこだけは認めざるを得ないような…アンバランスな男。
ホント、黙ってたら少しはマトモで女子生徒がキャーキャー言う理由はわかるのに…

「ん?何や、ホンマに惚れたか?」
「……AVの見過ぎ」
「阿呆!今のはラブ・ロマンスの流れやろ!」

だけど、思う。
意外とこんな会話もこんな雰囲気も、嫌いじゃないってこと。
過剰なスキンシップはさておいても、気兼ねなく話せるのはこの忍足侑士だけ。
気軽に殴れて気軽に文句を言えるのも、この忍足侑士という眼鏡野郎だけ。
それって私も忍足みたく、胡散臭い感情を持ち合わせてるから、かな?



御題配布元 リライト 組込課題・台詞「AVの見過ぎ」


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