LA - テニス

TITLE SERIAL
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例の眼鏡が何故か、楽しそうに私の髪を結ってます…
コトの始まりは例の如く、この眼鏡が私の頭をグリグリ撫でた所為。束ねておいた髪をぐちゃぐちゃにした。
本当は祐希に直してもらう予定だったのに…しゃしゃり出た眼鏡の説得で祐希はあえなく彼氏の元へ。
今、私の見える範囲でイチャイチャしてる。そうなったら…わざわざ引き戻すことも出来ず。
鼻歌交じりで私の髪を結う眼鏡、さっさと終わらせて頂きたいです。




Rip Kissing  -リップ・キッシング-




私、アンタの人形になった覚えはない。中途半端に伸びた髪をブラッシングして、髪型を考案する眼鏡。
単にまとめてくれりゃいいのに、二つに結ぶだのポニーテイルにするだの…とにかく色々ウルサイ。
別に変なこだわりも何もないってのに、この男はイチイチ私に聞く。

「ゴムの色は何色がええ?」
「何でもいい」
「じゃ、匂い付――…」
「余計な下ネタ吐くな。殺すぞセクハラ眼鏡」

ボディに肘鉄。何たってこの男はイチイチその辺へと結び付けるんだろうか。
この顔、この声で下ネタセクハラはダメだろう。一部の女性は喜んだとしても私は無理。
何たって私に寄るかな…自称・向日葵男め。本家本元の向日葵息子・岳人に謝れ。

「ちょっとした冗談やのに…酷いわ」
「冗談で済むくらい軽いのにしな。次は容赦しないよ」
「……今の容赦あったんか?」

慈悲くらいはあったわ。でなきゃ素手では殴らないわよ。私くらいの素手じゃ凶器にもなりゃしない。
どうでもいいけど…髪を撫でるだけなら別にトコでやって。もうどのくらい髪触ってんのよ。

「結ばないんだったら自分でやるよ」

時間が勿体無いので、忍足の手からゴムを奪い取って適当に一つに束ねる。
もう少し横髪が伸びてたなら良かった。どうしても横髪だけがうまくまとまらずに残ってる。
それが結構邪魔だし、肌荒れの原因にもなるみたいで…本当に邪魔だし嫌。忍足レベルで。
いやいや、忍足レベルだなんて表現したら可哀想か。私の横髪が。

「そない低位置で、しかも手櫛で結んだらあかんて」
「アンタがチンタラするからこうしたんだけど?」
「あかんあかん。せやったら今度はちゃんと結ぶさかい」

何が気に入らないのか…むしろ、私がこれでイイって思ってるのにも関わらず、忍足は結ったばかりの髪を解く。
バラバラに広がった中途半端な長さの髪が本当にうっとおしい。これまた忍足レベルで。
短くしたらスッキリするんだろうけど、伸びた時に厄介だから伸ばしてるけど…途中なんて考えてなかった。
伸びるまでの過程がこんなにうっとおしいとは。ロングの子を尊敬するわ、ホント。

「……やっぱ切るかな」

短い方が私らしいって、祐希だったかな、岳人だったかな…それとも宍戸だったかな?
そう言ってたから半分くらいは意地になって伸ばしてたけど、それももう限界かも。
重いし、暑いし、邪魔だし。で、重いし、暑いし、邪魔だし……って、まだ?早く結ぶなら結んでよ忍足。
解くだけ解いておいて、結ばないんだったら自分で結ぶし。いっそ短く切っても――…

「切るんだけは許さへん!」
「おわ!い、いきなり何を…」
「ええか志月、この髪切ったら絶対あかんで!」
「いや…別にコレは私の髪だし。てか、忍足の了承なんかも必要ないし」

何を必死になって止めようとしてるんだろう、この眼鏡は。ロングヘアーフェチなのか?
いや、そんな話題は特に浮上してはないはずだけど、何たって人の髪を触りながら否定の言葉を吐く。
ダメだって言われても邪魔だしウザいしだし、許さないと言われても許されようなんて思ってないし。
いやいや、それ以前に私の髪だからどうしたって良いわけで、ああもう、マジでウザいわ眼鏡。
中途半端な髪を中途半端に持ち上げて、中途半端な高さで軽く結んで…

「コレ!コレやねん!」
「はあ?」
「この残った横髪!この束ねた髪の高さ!んで、コレやコレ!」

ああ…もう話聞きたくないんですけど。
アンタの性癖染みた趣味に付き合うつもりはないし、本当に。切実に。
だからすまん。もうしゃべんなくていいから。むしろ、黙っててくれ。

「自分、うなじ綺麗やさかい。バンバン出さんとな!」
「……却下」

何を言い出すかと思えば…何処まで親父みたいなことを言ってやがるんだ。
一般的な、ごく普通の中学男子生徒が、女子生徒のうなじを見てバンバン出せとか言うか?
……いやいや、忍足が普通ではないことは百も承知の話だったけどもさ。
本当にズレてるんだよね、忍足侑士という人間は。

「はあ…」
「何や溜め息かいな」
「誰のせいで溜め息ついてると思ってんの?」

この男…本当に何処まで本気なのか冗談なのか、全然理解出来たもんじゃない。
胡散臭ければ、信用も信頼も出来ないし、第一、コイツが一体何なのかもわかったもんじゃない。
考えれば考えるほどに首を傾げざるを得ない存在。それが忍足侑士というのであれば…
追求したいような、したくないような…何とも不思議な感覚。

「ゆーし!跡部が呼んでるぜー」

あ、岳人が忍足呼んでる。ちょっと助かったかもしれない…
よくよく考えたら、理解不能なのは忍足だけじゃないわ。岳人も微妙にわかんないトコあるし。
もっと理解も予測も何もかもが出来ないのが、俺様ジャイアニズム主義の跡部景吾。
類は友を呼ぶ…ってことだろうね。男子テニス部でまともなのが居た試しがないわ。

「ほら、岳人が呼んでる」
「岳人を使って跡部が呼んでる、やろ?」
「そんなのどうでもいいし」
「正しい日本語使わななー」

いやいやいや、そこは忍足には言われたくないな。アンタ、めちゃくちゃ方言出してるじゃん。
て…目の前にいる眼鏡、何故か変な行動を取ってる。

「……何?」
「ほれ、いってきますのちゅー」

――辞書で思いっきり、その顔面を殴ってやりました。

「うわ!」
「……あ」

その拍子でヤツの眼鏡が吹っ飛んで…見事にヒビなんか入っちゃいました。
眼鏡じゃなくて、本体を潰してやろうかと思ってたのに…失敗した。

「あーあ、どないしてくれるん」
「……すまん」
「弁償はええとしても一緒に買いに行ってくれるやろ?」
「嫌だね」
「ほなら弁償。コレ、3万した――…」
「わかった。付いて行く」

一般的な中学生が3万なんて大金、そうそう所持しているわけがない。
ただ一人、跡部景吾なら…間違いなく、無制限なカードなんかを持ってるかもしれないけど。
弁償という難関を避けるために取った選択肢…明らかに忍足がそう仕向けたと言える。
いつものように微笑んだ忍足、だけど眼鏡がないからハッキリわかることがあった。
この微笑みの裏には何かある…絶対に何かある、と。



御題配布元 リライト 組込課題・台詞「ほれ、いってきますのちゅー」


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