陰陽師

□「七夕ノ巻」
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博雅「なあ晴明
明日は七夕だな」

博雅はぼんやりと
空を見ている


晴明「そうだな」


博雅は杯を置き
晴明を見る


博雅「七夕と言えばお前は知っておるか?
天の国に哀れな男女がいることを」


晴明「天の国」

博雅は再び空をぼんやりと見る

博雅「ああ、
互いに好き合うその男女はな
年に一度の七夕の日のみに
逢う事を許された可哀想な二人なのだ」


晴明「うむ」


博雅「なあ晴明
愛しい人に
年に一度しか逢えぬ定めとは
なんとも酷い仕打ちだとは思わぬか?
互いに好いておっても
決して幸せではないではないのだ
俺には到底耐えられぬ」


切なげに話す博雅
晴明は博雅を見る


晴明「考えようでは
そうとは言い切れぬぞ」


博雅「どう考えると言うのだ」

博雅は晴明を見る


晴明「年に一度だとしても
二人は逢えることを許されておるのだ
つまりは幸せでもあるのだ」

博雅「う、うむ、
そうなのだろうが」


晴明「この世には
愛しい人にすら
永久に逢えぬ者もいるのだぞ?」

博雅「永久に?
お前にはいるのか?
永久に逢えぬそういう人が」

博雅は覗き込む様に
晴明を見る


晴明「さあな」


晴明は笑みを浮かべて
空を見ながら酒を飲む


博雅「晴明!」


晴明「博雅、空を見よ
雲が天を覆い隠している」


博雅「なにっ?!」


博雅は、晴明の言葉に驚き
空を大きく見上げる


博雅「なんということだ
これは大変だぞ!」

声を張り上げる博雅


晴明「どうした?」


博雅「哀しき二人の定めの物語には
決してあってはならぬのだことなのだ」

晴明「あってはならぬ?」

博雅「雨が降ってしまうと
天の川が洪水を起こしてしまうではないか!
川を渡れねば二人は逢えないのだ
どうするのだ!」


晴明「俺に言われてもどうにもならん」


博雅「なあ晴明
明日の天候はどうなのだ
お前は知っておるのだろう?」


晴明「今、教えずとも
明日になれば分かることだ」


博雅「なっ!晴明!
お前はまたそう意地悪を言うのか!」

晴明「意地悪ではない
今、知ったとしても
詮ないことだ」


博雅「おい!
まさか雨が降るのか?
そうなのだな?」


晴明「博雅、」


博雅「晴明!だめだ!
雨はだめなのだ!!
彦星と織姫が哀れではないか!
年に一度しか逢えぬ二人に
更なる追い打ちを
お前は浴びせると言うのか!
それではあまりにも無慈悲であろう!」


晴明「博雅。
俺が天候を支配している訳ではないぞ
俺に当たるな」


博雅「むむむ、
つい力が入ってしまった
なあ晴明
何とか出来ぬものか?
お前は陰陽師であろう!」



晴明「博雅、、、
陰陽術は天候を読んでも
変える事は出来ぬ」


博雅「いや、お前なら
明日一日の天候ぐらい
朝飯前であろう!」


晴明「無茶を言うな」


博雅「頼む!晴明
後生の頼みだ!」


晴明「ふぅー。
少しは落ち着け
俺は明日、雨が降るとは
一言も発してはおらんぞ?」


博雅「え?そうだったか?」


晴明「お前が勝手に
雨だ雨だと盛り上がっていただけだ」


博雅「な、なら明日はどうなる?」


晴明「・・・」


博雅「晴明!教えてくれ
気になって、
今宵は寝れぬではないか!」


晴明「ふふ、案ずるな
俺が祈祷して
明日の天候を変える必要はない」

博雅「ん?
はっきり言ってくれ」



晴明「明日は晴れるさ」


博雅「はぁ……
そうか…、そうか…、
うむ、明日は晴れるか」


晴明「ああ…」


二人は今宵の
曇り空を見つめている





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