LA - テニス

2008-2011
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知らない方が良かった、
なんて知った後に思っても仕方がなかった。






「バーカ」
「……それが慰めの言葉だとしたらブン殴るよ」
「慰めなわけないだろ」

日吉は思いっきり真面目な顔でもう一度、同じように馬鹿と言った。

馬鹿と言えば馬鹿だよ。大馬鹿かもしれない。
大事な幼馴染みでずっと好きだった人の背中をわざわざ押したのは私だもの。
押さずに流すことだって出来たのに押したんだもの。日吉に馬鹿と言われても仕方ない。

もう一度、馬鹿と言った日吉に向かって私は溜め息しか出ない。

「何だってわざわざ自滅したんだ?」
「色々あるのよ」
「どうせ、あの馬鹿がオロオロ泣き付いたんだろ」
「……泣き付いちゃないけどデッカイ体で情けなくってね」

幼馴染みとして、と言えば今度は日吉が溜め息を吐いた。

デッカイ体を持った幼馴染みは優男で何処かフェミニストで私にも優しかった。
分け隔てなく平等に、がモットーかと思いきや、こないだ不意にこう切り出した。
「好きな人が出来たんだ。どうしよう」と。

どうしようもクソもあるか!というのが幼馴染みとしての私の意見で…
私自身はといえば…ただただショックで心は呆けてた。いや、折れてたと言ってもいい。
そのデッカイ体の幼馴染みでフェミニストな優男が単純に好きだったから。

「やっぱ泣き付いてんじゃねえか」
「まあ、そこはどっちでもいいじゃん」

日吉の溜め息返しに更に溜め息で返せば、日吉もまた溜め息を吐いた。

好きだった。でも、それはもう今更になってしまった。
だから折れた心のまま背中を押した。好きな人の、背中であっても。
「言って来い!情けないわね」と。

「ねえ」
「何だ?」
「日吉だったらどうしてた?」

窓の外を眺めながら日吉に尋ねれば「知るかよ」と答えた。

「私はさ、考えたんだ」

私は、他人だ。だけど運良く私は身近に居る他人で幼馴染みで友達だ。
相手が「どうしよう」と相談を持ち掛けるほどに近い位置に私は居た。
それが全てだと言うのであれば…ショックでも、それでいいと折れた心で思ったんだ。

「友達くらいでいいって」
「好きなのに、か?」
「そう。それに言ってたらそれすら終わってたっしょ?」

ギクシャク。今更そうなったらもっと悲しい。

「友達のままなら肩並べて歩けるよ。幼馴染みだからね」
「……それでいいのかよ」
「それくらいでいいのよ」

日吉はまた溜め息を吐いて「馬鹿だ」と、何処か切なそうに呟いた。



110613
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