LA - テニス

2008-2011
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「私、日吉のこと好きだよ」
そう告げたのは何でもない普通の日の昼休み。
どうしてなのかは不明だけど、窓から見えた天気が異様に心地良くて爽やかで。
ただそれだけのことで片想い3年に終止符を打つべく、私は告げていた。



告白日和



結構、長い間面食らった様子で呆然としてる日吉の姿を私はただただ見つめていた。
答えがどうとかいう以前に、今の日吉が結構面白くて堪らなかったりするね。今までに見たことない顔してるし。
多分、こんな風に告白されるとか夢にも思ってなかったんだと思う。私だって突拍子もないなーって思うし。
でも言いたくなったんだ。何となく、今じゃないとダメな気もしたから言ったんだと思う。人間の不思議な第六感。

「おーい、聞こえてるー?」

呆然としてる日吉も好きだなーなんて。告白後に新たに知る新事実。
確かに長いこと仲良き友達はしてたと思う。今年に限ってはクラスメイトの大役も果たしてる。
あくまで私の中では…の話ではあるけども日吉だってそう思ってくれてるんじゃないか…なんて思ったりもするわけで。
その殻をブチ割るべく放たれた私の一言をどう受け止めるのだろうか。告げた後に思うこと。

「日吉?ひーよーし!」

おお、完全にフリーズしちゃったみたい。凍結するようなことは告げてないとは思うんですが…
私はちゃんと知ってるんだよ?少なくとも日吉がモテる男で、突拍子もないところからラブレターを貰ってること。
待ち伏せなんかされて告白されていること。バレンタインなんかになるとチョコを沢山貰っていること。
皆、結構雰囲気を作って頑張ってるなーなんて思いながらも私は参戦しないことを何度となく決め込んでた。
だってそうでしょう?日吉は一度たりとも首を縦に振ることはなかったのだから。そのことですら、私は知ってたんだ。

「……ッ!」
「おーようやく息を吹き返したか…」

流石にフリーズ状態だと呼吸が出来なかったのか日吉復活。だけど、まだ呆然とした表情は変わらない。
面白いくらいに目を見開いて…穴が空きそうなくらいに私の顔をマジマジ見るのはいいんですが…ちと怖いですよ?

「ちょっと顔面白いわよ」
「なッ…志月…お、お前からかって!」
「いや、告白は本気だけど?」

首を縦に振らないと知りながら何故、今になって急に言いたくなったのかは分からない。
雰囲気だってなくて、ただスルリと言葉が零れたんだ。自分でも理由なんか分からないままに。
「今日は天気いいねー」くらいの勢い。「明日の体育は嫌じゃない?」くらいの勢いで。
でも、告げた言葉は嘘偽りなどなくて、さっぱりとあっさりとするくらいストレートな私の気持ち。
飾りようもない、取り繕うこともない、今まで真っ直ぐに持ち続けた素直な日吉への想い。

「……マジかよ」
「うん。でも何気に突拍子もなくてストレートすぎた気はする」
「……ストレートすぎだろ」

でも、一番分かりやすかった告白だと思う。これもまたあくまで自分の中ではの話。
「ずっと貴方だけを見ていました」なんて言えば、日吉は「ストーカーか?」って言うと思う。
「入学した時から気になっていました」なんて言えば、日吉は「髪型が、とか言わないよな?」って言うと思う。
それくらい仲は普通に良くて、付属したものを付ければ付けるほどに嫌味なんかが返って来そうなくらい。
そう考えれば…日吉は私のこと、そういう対象で見たことがないようにも思える。
だからこそ、仲良くやって来れたんじゃないか…って、今更だけどそのことに気付いた。また新たな発見。

「だって好きなんだ、日吉のこと」
「……それはよ」

うん。日吉も私と負けず劣らずでストレートだと思った。
「恋愛感情とかじゃなくて好きってことなんだろ?」なんて、バッサリ返して来ましたよ。
これは否定しておかないといけない。心外だわ。そう思ったけど…次の言葉がうまいこと見つからない。
よくよく考えてみよう。それはつまり…恋愛感情なく「好き」だって、日吉は言ってるみたい、だよね…?

「やっぱ、そうなんだろ?」

あー私は阿呆だわ。今更になって首を横に振られるのが怖くなったみたい。
思ったより慎重に考えるべきだったんだと今更後悔しても遅い。遅いけど…日吉の言葉を肯定は出来ない。
友達として好きなんじゃない。ちゃんと異性として好きなんだ、って私は分かってる。曲げられない。

「……違うよ」

あーま、いっか。例え、日吉が首を横に振ったって縁は切れないわけだし。
元々、首を縦に振らせるために告白したんじゃない。ただ、急に言いたくなっただけだし?
意外と楽天家なんだろうか私。ちょっとテイションが上がって来たわ。
で、また困惑し始めてる日吉の顔を見てたら、更にテイション上がって来たかも。

「恋愛感情を持って日吉が好きなのさ」
「……なのさ、ってお前な」
「問題があるなら言いなよ。何言われても私にとっては問題外さ!」

おーガンガン上がって来た気がする。
別にいいじゃん。日吉がどう思ってたって私は日吉が好きなわけでそれ以上に何もない。
報われなければ存分に日吉を好きになって…そして新たな出会いを見つけ出せたならそれでいいじゃん。
おうおう、私って意外と変わった人なんだわ。それもまた新たな発見。
ねえ、日吉を好きになったことで自分のことが色々と分かったなんて、日吉は知らないでしょう?

「……変なヤツ」

うん。それは否定しないよ。首を縦に振れば日吉は笑ってた。
口元を押さえて、思いっきり笑えなくて俯いて笑う日吉もやっぱり私は好きだと思った。

告白することで何かが変わる。自分が一歩前へと進むような気がする。
例え…その答えが良かれとも悪かれとも、何かが変わるきっかけとなるような気がする。
うん。これは世紀の大発見だと思うよ。このネタで論文なんか書いちゃったら学会で発表ものかも。

「そんな能天気なお前、俺も好きだ」
「……は?」

一生懸命、組み立てようとしていた論文の文章は一気に消えた。
目の前で何とも言えない表情を浮かべて見つめる日吉の前で、フシューと音を立てて消えてしまった。




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