LA - テニス

02-05 携帯連載
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「……し……侑士!」




-ナミダ- 04




ハッとなって前向いたら、櫻が心配そうな顔してこっちを見とることにようやく気付いた。
せや、あれからちゃんと授業受けて…気付いたら昼休みになっとって。ほんで約束通り櫻んとこ行って一緒に弁当食べよったんや。
何やってんねん。折角彼女とラブラブで弁当食べよるんに…何でボッサーしよるんやろ俺。

「すまん。ボーッとしとったわ」
「珍しいね。侑士がボーッとするなんて」
「授業、寝とったからやろか」
「あー寝ぼけてるんだ」

くすくす彼女に笑われて俺は苦笑いや。確かにさっきまでの授業もボーッと受けて寝ぼけた状態かもしれへんけど…
これはあんまりやんな。こーんな可愛い彼女の前でとか、なあ…有り得へんやろ。
とか、苦笑しながら…それでも頭ん中、どっかの片隅ではさっき浮かんだ白昼夢みたいなビジョン思い出しとる。

あの時、同時に浮かんだ二人の顔が…今も辛そうな顔をしとるようで。
何や、落ち着かへんねや。胸を絞められたような…まだ訳分からん感情が俺の中に残っとって。

「…あ、せや」

あーもうあかん。ごっちゃ考える必要あれへんから転換や転換。話題作ろ。
何も俺は悪いことしてへんのに急に浮かんだ二人の表情で罪悪感みたいなの抱く必要もあれへんわけやし。
今はこうして可愛い彼女と一緒や。しかも俺の気に入っとる笑顔でおるんや。胸ん中のごっちゃりとかどうでもええやん。
頭ん中の二人を掻き消すかのよに不意に思うたことを口に出した自分。せやけど…


「生理ってしんどいんか?」


「え…?」と櫻が呟いた時、どうしてやろか「しまった」て思う自分がおった。
不意に思うたことが…結局ゆいと共通点を持つようなことで、それは嫌でも彼女にも分かることで。
お互いに曇る表情、お互いに一瞬失くした言葉。変に全身に悪寒が走る、上から下まで粟立つ感覚。

「あ、いやな、ちょい興味あっただけやねんから。別に変態ちゃうで?」
「……変態だなんて思わないよ。だけど唐突だったから」
「あー…」

赤色の点滅、鳴り響く警報が俺の全てに伝達されてく。
何でなん?別に…ええやん。この話題が何処を発信源にしとっても…ええやんな?何があかんの?
また胸ん中がごっちゃり。掻き乱されてどんどん色を変えてくような、色んなもんが交じり合って不純なもんになってくような。
やめーや。よう分からんもんで乱さんといて。変な気分になって呼吸もよう出来ひんくなりそうや。

「な、何となくや。何となく知りとうて。ほら、俺一応医者希望やし…」

あくまで興味本位、あくまで好奇心と探究心。
俺は女やないわけでその辺のこととかさっぱりで、分からんからこそ何か知ってみたいっちゅう感覚で――…
何やろ。何でこんな言い訳がましいこと考えとるんやろか。別に、別に、深い意味も何も、あれへんやろに。

「それって――…」

ちっちゃい声、俺に届くか届かないかの声で櫻が何か呟いたけど聞き逃した。
「え?」て言うたんに…彼女は口を開くこともせんとただ俺を見とるだけ。もう一回、言うてくれへんのやろか。
中途半端に耳にした言葉が俺の中で大きなものとなって付着し、それが妙に重みとなる。

「今、何て言うたん?」
「……ううん。何でもない」

櫻は笑うた。それもこの話をする前とは全然ちゃう、花にも満たないちっちゃな微笑み。
なあ、そないな顔せんで?酷く胸が痛む。今のは…分かっとる、確実に俺の所為でそないな顔しとるんよ、な。
でも…どないしてええんか、言葉が出えへん。櫻へ、掛ける言葉が全く見つからん。

「で、答えだけど――…」


生理は人それぞれ個人差があるの。重い子は重いし平気な子は平気だし。
でも貧血には皆なり気味にはなるんじゃないかな?重い子に至っては動けなくなるらしいし。
キツいのはキツいけど…どうしようも出来ないよね。内臓握られたような感覚とか紛らすこと出来ないし。


「あ…因みに私は平気な方」

一生懸命、説明してくれたんに…耳に入ってまた耳を素通りして言葉が消えてった。
何か言葉を返さなあかん、て分かっとって言葉に詰まる。返事に困るとか、何のために聞いたんか分からへん。

「……そないなんや」
「そうだよ。大変なんだから」

ちっちゃな笑いを見せたまま、この空気を感じときながら普通に話してくれたんは…ちょお痛い気持ちになった。


「少しは勉強になった?侑士教授」


何なん、この気持ち。俺をめちゃくちゃにするくらいのこの感情。


「んー…男の俺にはさっぱりな世界やけどな」


分からへん…こんな訳分からん気持ちになっとる自分。
確かにあの時、何か言うたはずやのにその一言を口にせえへんでちっちゃく微笑んだままの彼女。

――果てしないまでに、微妙な感覚。


「……侑士」
「ん?」

今度はハッキリ俺を呼ぶ声が聞こえたさかい返事をする。
取り乱してへん。平然を装った俺に櫻は柔らかく笑うとるけど…それがまた痛い気持ちにさせる、とか。
軽く俺の肩を叩いて気持ち落ち着かせようてしよるんか?肩に触れられた櫻の手がほんのり温かくて…冷たい。

「元気、出しなよ?」
「俺は…元気やで?」



――嘘吐き。



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