LA - テニス

07-08 PC短編
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---音楽を鳴らす



―― 志月は俺からのだけ食べて?

怒ったように告げた言葉。その後、彼はそのことについて告げない代わりに…
誰も見ていない時を見計らって、甘すぎる飴を私にくれるようになった。
毎日、毎日に近いと思う。それに私は何も出来ずに、ただただ時間だけが過ぎていった。



花から花へ、移りゆくけど… 2



昨日は苺ミルク、一昨日はチョコバナナ味の飴を口の中へと放り込まれた。
何を言うわけでもなく、何かを話している途中であったとしても、前触れもなく放られる。
心構えなんて一切出来ていない無防備な状態、その後に彼は無言で私から離れていって…
ただ、甘いものだけが残されていく。言葉なんてなくて、ただそれだけ。

"何で、こんなことをするのだろう?"
疑問に思いながらも口に出来ない自分が情けなかったりする。
"もしかしたら…そういうことなのかな?"
なんて、甘いことを考えながらも、それを告げる勇気のない自分が悔しかったりもする。

甘い蜜を求めて、花から花へと移って行く。丸井くんの行動は、まるで蝶のようなもの。
だから、これが単なる気まぐれに過ぎなくて、甘い蜜のお裾分けだったら…



「志月」

静かに声が響いて、振り返った先には少し怒ったような顔をした彼が居て…
あっという間に近づいて触れる。私には甘すぎる味が口の中に広がって――…

「……!」

なすがまま、なされるがままなんて、思い詰め始めた私には出来なかった。
意味も理由もわからないキスを何度も、毎日のように繰り返されるなんて…
彼が触れた瞬間、思いっきり顔を背けた。その反動でガチッという音が響いて。
視界にハッキリと驚いたような彼の表情が映って…それでも甘さを残した唇を手で覆った。
初めて、拒絶の行動を取った――…

「志月……」
「意味、わかんないよ」

私はあの日より前も今も、貴方が好きなことには変わりはないです。
だけど、あの日を境にどんどん、どんどん貴方のことがわからなくなってる。
嬉しかった反面、首を横に振って悩む時間も増えてきて…どんどんドツボに嵌まっていく。
泣きたいくらいに考えて、泣きたいくらいに切なくて。

「俺は…志月の方が意味がわかんねえ」
「え?」
「されるがまま、もうずっとそうだったじゃん」

否定は出来ない。彼の言うとおり、私は一度もそこに触れずに拒絶もせずにいた。
でも、そうじゃなくて、ちゃんとした意味を知りたい。その気持ちはいつも心にはあって…
今更であったとしても、意味なんかなかったとしても、無理やりでもいいから意味が欲しい。
そう、思ってしまったから。だから、だから――…

「やっと…聞く気になった?」

まだ少し怒った表情、決して穏やかではない口調だけど…不思議と抗えなかった。
"聞きたくない"って言えたかもしれない。何を告げられるのか、予測も付かないから怖くて。
だけど素直に彼の言葉に頷いて、彼の口から零れる音を拾い集める。

「……」

小さく、小さく零れた言葉は短く、でも何よりもシンプルなものだった。
私が欲しかった答えより短くとも同じもの、飴より甘くはないけども味のある言葉。

「……嘘、じゃないよね?」
「俺は嘘は言わねえ」
「冗談にもしないよね?」
「……そんなヤツに見えるのか?」

蝶のようにひらひら舞っては綺麗な花々へと身を寄せていく。
彼への勝手な想像は、今日限りで止めようと思う。
だって、彼はこんなにも真剣な顔をして話をしてくれているのだから…

「今日の放課後、時間空いてる?」
「あ…うん。空いてるけど…」
「ゆっくり話そうぜ。誤解、されてても困るから」

それだけハッキリと告げて背を向けた彼の背中を、私はただ眺めた。
私もまた、彼に告げなくてはいけない言葉を伝えられずにいることに不意に気付いた。
放課後がやけに待ち遠しくなったと同時に、急に鼓動が早まっていく。



嘘でも冗談でもない。意味も理由もあった行動。
自惚れても良かったんだね、なんて今だけ思っててもいいですか?
その代わりに、ならないかもしれないけど…今度は私から先に告げさせてもらうね?
彼のように何よりもシンプルな言葉で、真っ直ぐな想いを――…

―― 好きだから。



◆Thank you for material offer せつない屋…
恋する僕等、亜弥さんへ捧げます。


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