LA - テニス

07-08 PC短編
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---音楽を鳴らす



「丸井くん、コレあげるよ〜」
「ブンちゃんはこのお菓子食べるかな?」
朝から放課後まで、どこかを歩けば食べ物を貰ってくる。
お菓子、お菓子と喜んではホイホイと女の子についていく。
そんな姿を見ては、溜め息をつくばかり。
「あ、志月〜」
飴を2個ほど頬張った丸井くんは、まるでハムスターのようだった。



花から花へ、移りゆくけど…



「何だよ、人の顔見て溜め息つくなよ〜」
「別にそんなわけじゃ…」
なんて、ホントは図星なんだけど。
読み掛けていた本に栞を挟んで、彼に苦笑い。
そこで冗談で言葉を返せるほど、私たちは仲良くはない。
丸井くんにとっては、ただのクラスメイト。
何かをくれるわけでもない、ただのクラスメイト。
「欲しいなら1個くらいやるよ?」
甘い蜜を求めて、花から花へと移って行く。
丸井くんの行動は、まるで蝶のように鮮やかなモノ。
花たちは皆、必死で丸井くんを呼び込んでいるのだろう。
だけど、彼にはその意図は伝わらない。
「別にいいよ」
「そんなコト言って、ホントは欲しいんだろぃ?」
無邪気に笑って、残酷な仕打ちを繰り返す。
それでも、皆は必死になって…同じコトを繰り返す。
食物連鎖の悪循環、私はそう呼んでいる。
「折角、丸井くんが貰ったんだから…自分で食べて?」

"物くれる人、俺好きだぜ?"
そう宣言した日から、皆は丸井くんへと貢いでいく。
丸井くんが一番、興味を示したモノを持っていったコが彼女へ――…
誰もがそんなコトを考えて、動いていく。

「コレ、くれた子はさ。丸井くんに食べて貰いたいんだよ」
想いを含む、甘い甘いお菓子たち。
平気な顔をして食べて、何も気にした様子もない。
「そうなのかな?」
「じゃないと、あげないと思うよ?」
悪意なんかのそういうのがないから、余計にタチが悪いのかもしれない。
無邪気な顔をした残酷者。それでも…
「そうか…わかった」
何か悟るものがあったらしく、彼は足早に席へと戻っていく。
私の言いたい事が伝わったのかな?

読みかけていた本が私を呼んでいる気がした。
だから、それ以上の観察は止めて、本に目を移した。

「志月」

バラバラバラ…
キラキラと光る、リボン型のモノたち。
少しずつ落ちてくるモノに本の文字は遮られた。
「それ、俺が買ったヤツだから」
「え?」
本の上に降って来た、綺麗な包み紙の飴たち。
顔を上げれば、飴の袋を逆さにしている丸井くんの姿。
少しだけ怒っているような、難しい顔してる。
「これだったら、食べてくれるだろ?」
沢山の引っくり返された飴玉、戸惑った私。
丸井くんは飴の入っていた袋をクシャクシャと丸めて…
手荒にポケットに突っ込んだら、一つだけ手に取る。
「食べて?」
「えっと…頂くけど…」
わざわざ差し出された飴を受け取って、包み紙を開ける。
甘い甘い香りが周囲に広がって…

「やっぱ、ダメ」

手に握られたままの飴玉。
だけど、口の中に広がる甘い果物の味。
1個は苺の味、1個はミルクの味…
「な、に?」
「俺も鈍い方だけど、志月も鈍い」
手に持っていた私の飴は丸井くんが食べた。
包み紙だけ、私の手の中に残って…

「志月は俺からのだけ食べて?」

よくわからない言葉と甘い飴だけ残して、彼はそれ以上何も言わなかった。



◆Thank you for material offer TAM Music Factory
恋する僕等、亜弥さんへ捧げます。


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