LA - テニス

07-08 PC短編
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何かあれば必ず泣く。それは人間らしい感情なのかもしれない。
泣いて、泣いて…ただ泣いた後には必ず笑おうとする姿を幾度となく見て来た。
見てるだけ、気付かれたら無理にアイツは笑うだろう。だから、声は掛けない。
そうやって過ごして来た。幾度となく、何度となく…それにはもう俺が飽きた頃だった。


「まだ泣いてたのかよ」
「のわ!景吾!」

自宅付近、むしろ俺の家の敷地内の公園。
コイツは許可なく、だけど顔パスで入って来てはいつもこうしてやがる。
涙の線を隠すことなく、今はただ驚いた様子でかなり間抜け面さらして…
もうちょっと違うリアクションでもあるかと思えば、ま…俺たちの仲だ。こんなモンか?
恥らうこともない、恥ずかしいこともない、隠すこともない…そんな仲。
俺的にはこの関係は好ましくもなければ嬉しくもない。そこそこの特権はあっても喜ばしくもない。

「メーメーメーメー良く泣くもんだ」
「ちょっと…私はヤギじゃないわよ!」
「意外と元気あるようじゃねぇか」

所詮、その程度なんだと突きつけられているようで、前進もしなければ後退もしない。
ガラにもなく俺だけがマジで、俺だけがこんな気持ち抱えて…馬鹿みてえだろ?
誰かも知らねえ、どいつかも知らねえ奴のために泣いてる姿はもう沢山だ。
頬を伝う涙を拭いながら、相変わらずの間抜け面を見てたら溜息が出ちまった。
聞かなくてもわかる。コイツが泣いている理由はただ一つしかない。

「ったく…見る目養えよ、ゆい」

お前には、ちゃんと俺って存在がいるだろ?
もうずっと前から…ちゃんと傍に居るのにどうして気付かない?
見る目を養うどころか、毎回毎回スカクジみたいなのばかり見つけやがって…

「違うもん。その時はちゃんと…」
「お前…前からそう言ってばっかだな」
「何よ、私の見る目がナイって言ってんの?」

何処まで鈍感なのか、そんなことまで俺に言わせたいのか?
むしろ…そこから先の言葉まで付けてくれてやる。有難く思えよ?

「…いい加減、前を見ろよ。俺がいるだろ?」
「な、何よ急に…」
「お前、完全に馬鹿じゃねえのか?」
「何さ、馬鹿は景吾の方でしょ!意味わかんないこと言って!」

ああ…何処までも鈍感なんだな。コイツは。
言葉で言っても通じねえなら別の方法でわからせてやるよ。

「そろそろ気付け、バーカ!」

馬鹿馬鹿言えば、逆にお前が馬鹿だと言い返された。
気付けと言えば、もっと早くに伝えないからだと逆ギレされた。
ただ、その体を抱き締めた時だけは特に仕返す余裕もなく、小さく呟いた。
「コレは反則でしょ、馬鹿景吾」と。



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