LA - テニス

07-08 PC短編
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---音楽を鳴らす

ちょっと晴れすぎた空



異常気象だと言われているせいか、空は青く、空気は暖かさが残っている。
まるで夏のような気候で、冬服に移行した制服の腕をまくって歩く。
ちょっと晴れすぎた空だから感傷的にもなれない気分。
泣きたい気持ちも確かにあって、だけどこの青空に涙は見せれない。
今日が曇りだったり、雨だったりしたならば…ドン底まで落ち込めただろうに。

「で、何で付いて来るわけ?」
「泣く顔見たさに付いて来とるだけじゃけ。まぁ、気にすんな」
「悪趣味にも程があるわよ」

首を捻ってやりたいくらいだけど、今日はちょっと加減知らずとなりそうだから止めた。
冗談じゃなく堪えているのは確かで、ただ泣くには勿体無いくらいの天気だから…
白紙となった放課後の予定をトボトボと適当にフラついてみる。
それは背後に変なモンが付いて来ていたとしても、別にいっかーくらいの感覚で。

「泣かんのか?」
「天気いいからね」
「じゃったらヤケ食いとかせんのか?」
「そんなコトしたら太るじゃん」

イチイチうるさい背後霊だこと…暇なのはわかるけど、ちょっと邪魔。
今、ガンガンに輝いている太陽くらいに邪魔で、本当に感傷的にもなれやしない。
そこそこ普通に泣いて、落ち込んで…だけど食事をして寝れば明日が来る。
明日になれば少しだけ落ち着いて、しばらくすれば笑える。そんな時間を過ごしたい。
それなのに…ホント、どこまで付いて来るつもりなのか?

「まだ付いて来るわけ?」
「おぅ。まだ泣いとらんじゃろ?目的達成しとらん」
「あーもう、帰ったら泣く泣く。だから、それでいいでしょ?」

誰もが通る道で、このままゴールインするなんて思っていなかった。
わかっていて、だけどあまりにも急で、急すぎて予想ですらついていけなかった。
あーそうなるかも。なんて予測も出来ないままに白紙となった予定がキツい。
スケジュール帳を買い直すにはハンパな時期で、一つずつ予定を消すのもしんどい。

「それはようないのぅ」
「めんどいなぁ…そんなだから彼女出来ないんだよ」
「別に。俺は俺が好き勝手したくなる彼女しかいらんけんのぅ」
「理解不能。だったら捜してきなよ。ハイ、ばいばい。」

後ろ手に手を振っても、背後にある気配は消えないし、足音も聞こえる。
ちょっと鼻歌なんか歌いながら、まだ付いてくるみたいだから…走った。

「なんじゃ、駆けっこがしたかったんか」

敵うはずもない駆けっこ。明らかに後ろの足音はスキップになってる。
懸命に走って走って、当てもなく真っ直ぐに走って、曲がって走って、グルグルグルグル…
響く足音はそれでも途切れずに、私の息の方が途切れていく。
それでも真っ直ぐ真っ直ぐ、何処か遠くへと逃げるが如く走って…立ち止まった。

「はぁはぁ…」
「体力不足じゃのぅ。ウォーキング始めんしゃい」
「うるさい。も、付いて来るな…ッ」

心臓はバクバクと音を立て、その動きを主張している。パワー切れだと。
汗が額から流れて、息切れしてダウンしてしまった自分が少し情けない。
隣で笑う仁王は汗一つ掻かずに、息切れもなく笑っているし。

「俺が後ろにおったら、泣かんですむじゃろ?」
「ホント、アンタが邪魔でね。泣きたくても泣けないわ」
「下らん男のために泣かせられんぜよ。いくら泣き顔が見とうてもな」

背後にあるぬくもりと淡い香水の香りと、サラサラ掛かる仁王の髪と。
少しだけ圧し掛かる仁王の重みに、一歩も動けない状況下。
バクバクと鳴り響く心臓の音が…何かに反応を示しているかのよう。
走ったから、懸命に逃げるために走ったから、耳元で大きく響いているだけだと思いたい。
じゃないと泣けない。じゃないと感傷的にもなれない。

「ホントに泣きたいんは俺の方じゃ。いつまでも引きずらせんぜよ」

ちょっと晴れすぎた空の下、泣くことの出来ない私を捕まえて何になる?
俯いた私の顔の横、並んだ仁王の顔があって…頬に唇が触れた。

「泣かせられんじゃろ。他のヤツのためなんかに」

揺れ動いた自分が情けなくて、零れる涙を抑えられなくて…
俯いたまま実感した。サヨナラという言葉を。
そして、耳元で小さく響いた仁王の告げた言葉を。

「目標達成まで追い掛けるぜよ」



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