LA - テニス

07-08 PC短編
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戦略があるとすれば仕掛けを四方八方、何処までも撒き散らして彼女が動き出すのを待つだけ。
突っ込んでいくのみ、そんな神風のような戦略では自分の身が持たないことを知っている。
彼女がそれで動き出すとも思えなければ、そこで堕ちてゆくとも思えない。
だから仕掛ける。彼女が自らの手で引っ掛かるように、彼女が自ら敗北するように。
でなければ…俺がきっと堕ちていくだろう。今よりもっと深いところへ、足も届かない場所へと。



HOME AWAY



授業中と読書している時、そして図書室に設置されたパソコンを扱う時に掛けられた眼鏡。
女の子は結構、眼鏡を嫌うというのに彼女はそんな様子もなく過ごしている。
さすがに体育がある時はコンタクトを着用しているらしいけど…その姿はまだ拝んだことがない。
時折、眼鏡を外して眉間を押さえるという仕草が見られる。度が合っていないと見た。

「志月サン」
「ん?何か用?」
「疲れ目用の目薬貸したろか?」
「持ってるからいい。それに他人の目薬は使っちゃダメだと思う」
「ほなら、今度一緒に眼鏡買いに行かへん?デートのついでに」
「気が向いたらね」

彼女は適当な言葉を俺にぶつけて、また読みかけの本に目を落とす。
いつも見ている、というアピール。気に掛けている、というアピール。休日も一緒に居たい、というアピール。
とりあえず撒いた仕掛けは全て空振りで、全て不発のままに流れ去っていく。
少し変化があれば冷静にそこを突くことも出来るのだけど、その変化は一つもない。
"打てば響く"とは言えども、それは俺が欲しい反応とは違って、俺もまた更なる"響き"も出せない。
そんな状況を楽しんでいないと言えば嘘になるだろうけども、また冷静に策を練る必要は出てくる。
彼女が策にハマってくれるような…そんな陳腐で安易な策を。



「俺からすれば、お前変だよ。変変!」
「そうか?」
「だってお前、志月が好きでチョッカイ出してるんだろ?」

どうやら俺は、オコチャマ岳ちゃんでも理解出来るくらいのアピールをしているらしかった。
陳腐で安易な策。第三者がこんなにも反応しているのに、彼女だけは反応しない。
だからこそ燃えるものがある、と言えば岳ちゃんは溜め息をついて首を振った。

「何考えてるのかわかんねぇ」
「わからんでもええねんて」

そう。この胸の内にあるモノを理解してもらおうなんて俺自身が思っていないのだから。
相手が残した反応がもし、俺の求めるものと違えば、それは俺が求めるものではなくなってしまう。
だから確信的な反応が欲しいから仕掛けて仕掛けて仕掛けて…だけど彼女は反応しない。
それがまた俺の中で確実に大きなモノとなって突き抜けていく。異常なくらいに。

「好きやから、譲られんモンがあるんや」


――相手の出方を見て動いていく。HOME AWAYの世界。


「そういや今読んどる本」
「この本なら図書室にもあるけど?」
「映画になったとるらしいで」
「え、それホント?」

……響いた。
表情にも変化がある。大きな目が更に大きくなって…どうやら知らなかった様子。
偶然に知ったネタを持ち出した甲斐があったのかもしれない。

「チケット、持っとったら一緒に行ってくれるかいな」

響いた反応があったから、更に仕掛ける…今日一番のAWAY。




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