LA - テニス

07-08 PC短編
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繋がる幸せの下
"宍戸は奥手だから" と、忍足は笑ってただ肩を叩いて変な励ましをくれた。

がくちゃんも同じようなコトを言って、ゲラゲラ笑っていて…応援してくれたのかな?

ジロちゃんは "ドンマイ"と食べかけのスナック菓子をくれた。

別に大層な悩みを抱えているわけでもなく、大層な相談を持ち掛けたわけでもない。

ただ単に周りのカップルというモノを見て、自然に羨ましいと思ったことがあって…











「宍戸ッ」

「な、なんだよ急に…」

目の前を過ぎ行く同じ年くらいの学生さんのカップルを横目に。

真っ直ぐに降ろされた宍戸の手を見つめる。

私の荷物は左手に、宍戸の荷物は右手にあるんだからいいよね?

「手つなご?」

「はぁ?」

あからさまに驚いて、顔を紅潮させて…でも傷つくよ?

無意識なのか空いていたはずの手をバッと後ろに隠す行為は。

突拍子もないし、周りの空気に感化されているのはわかってるんだけど。

それでもね。いつもガラ空きになっている手が寂しいって言ってる。

「手、繋ぎたいの」

そりゃ…ちょっとは人目も気になるし、照れはすると思う。

だけど恥ずかしいことではないし、当たり前のように繋いで歩いている人もいる。

集団下校で仕方なく手を繋いで歩いている小学生から、仲良さげな老夫婦まで。

手のぬくもりを感じながら、幸せそうに微笑んで…歩いている。

「嫌なの?」

「嫌、とかじゃなくて、な?志月…」

カタコトな日本語を繋げてアタフタしている宍戸氏。

初めから私が押しに押して掴んだ恋だけど、受け入れた宍戸がちゃんといて。

言いたいこともハッキリ言い合って、今もこうして一緒にいる。

多少、私が強引にワガママをぶちまけているとしても、少しだけ汲んで欲しい。










「嫌なの?」

嫌なワケがねぇってのに気付け、って思うのは無理な話か。

コイツは思ってることをすぐに口にするから、俺は戸惑ってアタフタする。

いつもそうだ。俺が言いたかったことですら先に言って…

「嫌、とかじゃなくて、な?志月…」

不意打ちに言葉をぶつけて来るから、落ち着かない。

一緒に居れば居るほど、不甲斐ない俺の動悸は上がるばかり。

慣れなんか一向に来なくて、ずっとドキドキしっぱなしだ。

「ちょっ…心の準備ってモンが、な」

「…そんなのいるの?」

普通はいらないかもしれねぇ。だけど俺には必要。

ちょっとくらい気にするだろ?汗とか…な。

緊張すればするほど、手に汗掻くタイプだから余計に。

俺はもう小学生じゃねぇんだ。結構、勇気だって…

「わ、わかった。繋ごう」

自分の手の位置よりも少し下にある志月の手。

白くて細くて…綺麗な手をしてて、見れば見るほどにドキドキする。

俺なんかのゴツゴツした手じゃないから、どう触れていいのか…

「陽が暮れそう」

ポツンと呟いた声と同時に、白い手が動いて…ギュッ。

しなやかな指が俺の手に触れて、カチッと繋がれた。

俺なんかの手とは違う、柔らかな感覚が伝わる。

力いっぱい握っているんだろうけど、全然痛みを感じない。

これが女の子の…俺のずっと想っている彼女の手。










手を繋いでから、宍戸は真っ赤な顔をして歩いている。

ぎこちない手の繋ぎ方が、少しだけ可笑しく思えた。

きっと、彼女と手を繋ぐなんて初めてなんだろうな…って思えるほどに。










横目で見た志月は楽しそうに、歩いていた。

満足そうに、幸せそうに微笑んで…だけどハニかんだような表情。

それがまた可愛くて、今度は俺が少しだけ力を込めて握った。










繋ぐことで感じる幸せがあることに気付いた夕暮れ時。

私たちの後方からはしれっとテニス部員が見つめていたという。

翌日、彼は皆に冷やかされながらも時間を過ごして…

また私にせがまれて手を繋いで、家路へと戻ることでしょう。

こんな些細なことで得られる幸せを感じながら…






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