LA - テニス

07-08 PC短編
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「志月…何をしている?」
「……見てわからない?」
降りしきる雨の中、彼女は両手を広げていた。
天を仰いで、気持ち良さそうに…



梅雨の終わりに



「風邪をひくと思うんだが…」
「まぁ、そう捉えられても仕方ないわね」
周りの目を察して気にした様子もなく、彼女は濡れ続けている。
色とりどりの傘が行き交う中、彼女だけは…
「変なヤツだ、なんて思ってる?」
「多少は、な」
「手塚くんは正直者ね」
髪から水滴が伝って、頬を流れて地へ…
立ち止まって声を掛けた俺が、傘を差している俺が、
どこか間違った世界の住人のような、そんな気さえした。
水の滴る、自然体の彼女を目の前にすると…
「なぜ、そんなコトをしているんだ?」
彼女にとっては愚問かもしれない。
だが、俺には理解不能な動き。
少しだけ…興味があった。
「もうすぐ梅雨明けなんだってね。知ってた?」
「ああ。ニュースでそんなコトを言ってたな」
「だからよ」
優しく微笑んで、また天を仰ぐ。
まるで…雨を乞うために舞う神女のよう。
幻想的な、行為にすら見え始めていた。
「みんな、雨っていうと嫌わない?」
「そうだな…時には喜ぶ人もいるがな」
「そうね。下らない理由で喜ぶ人もいるね」
ポツリ、ポツリ、と。
雨は次第に弱まって、少しずつ天気が変わりつつある。

「そんなちっぽけな理由じゃなくて、もっと…」

水を与えられない木々に生命を。
人々のため、よく育った食物を。
人に、生き物に、地球に…
平等に与えられた生きるための術を。
例え、アスファルトで固められた地であっても…

「せめて一人くらいは…好きでやってもいいんじゃないかな?」

不思議なことを言う女性。
誰もがきっと、そう思うことだろう。
だけど…誰もが忘れかけたこと。

「そう考えることが出来れば…雨もさほど悪くはないのかもしれんな」
「あれ?私、イイコト言わなかった?」
移行したばかりの夏の制服姿の彼女。
少しずつ、夕方になるにつれて風は冷たくなっていく。
「…とりあえず、風邪をひくだろうから」
今日は使えなかったジャージを彼女の肩へ…
少しだけ、驚いた表情をしていたから告げた。

「もう少し…人目を気にした方がいい」

雨はやがて上がり、少しずつ移動する灰色の雲は
視界の向こう、遠くへと移動していた。



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