LA - テニス

07-08 PC短編
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---音楽を鳴らす



飾り気のない板チョコを貰って一ヶ月。
周りの冷やかしに遭って…宍戸からのアタックを受けて…
少し恥ずかしくて、少し嬉しいような短い期間。
もう終止符を打つ時…



せよ、乙女



「……風邪?」
朝から気合いだけは人一倍入れて来たっていうのに…
今日に限って宍戸氏はお休み?
私の気合いはどうすんのよッ。
「せや。ホラ、昨日雨降ったやん?」
「うん」
「そん中で後輩の練習見とったんや。せやから…」
「風邪ひいた、ってこと?」
「そういうことや」
何となく…宍戸らしい。
「告白の返事かいな?」
にやにや笑う忍足。
わかってるくせに嫌味な…
それでよく女の子にモテるわね。
「ホワイトデー、お返ししてないのが宍戸だけなのよ」
「家、教えたろか?」



――教えてもらいましたとも。

駅前にあるフルーツケーキを購入して…
お見舞いがてらに行きますとも。
忍足から住所と地図と…
何かのプリントの裏に書いてもらって。

「…この辺…?」

住宅街の先、一軒家の並ぶ場所。
左右をキョロキョロ、表札を確認しながら…

「んー…」
「……ゆいッ」

左右だけじゃなくて前後も確認。
だけど、声の持ち主は見当たらなくて…

「ココだ、バーカ」

声のする右斜め上の方角。
顔を上げてみれば、私服姿の宍戸の姿。

「あ、いた」

此方からも宍戸の姿を確認。
その直後に姿が消えたかと思えば…

「何やってんだよッ」

どうやら慌てて降りてきた様子。
あなたに会いにきたので、別に逃げたりしないんだけど。

「お見舞いに来たよ」
「……おぅ」
「フルーツケーキ、これが見舞い品ね」
「と…とりあえず…入れよ」

目に見えてわかる。動揺してるって。
何だろう。やっぱり…乙女だなぁ。

「お邪魔します」

とりあえず、案内されるがまま。
遠慮もなく上がって来ました宍戸の部屋。少し殺風景な…

「風邪らしいね」
「…あぁ」
「平気?」
「…それなりに」

乙女ちっかー宍戸とでも名付けた方がいいのかな?
とにかく、ぎこちない。言動の一つ一つに。

「お返し、持って来た」

もしかして、私の方があっさりしすぎ?
宍戸が私より乙女だから…逆に安心してしまう。

「普通にクッキーなんだけど…」
「…サンキュ」
「で、返事なんだけど…」

言おうとした瞬間、止められた、宍戸の手で…
宍戸を見れば小さく首を振っていたから…無意識に頷いてた。

「ゆいが好きだ。だから…付き合ってくれ」

自分から、言いたかったんだね。
あの時の言い方が気に入らなかった、そう顔に書いてある。

「……私でよければ」

伸ばされた手。
勢いよく引き寄せられて…

「……わッ」

ムードも何もなくなって倒れ込んだ。
風邪で弱った宍戸の体の上へ。

「…宍戸、平気?」
「……」
「重いから…」

"退くね"と、そう言うはずだったのに…

「ん…ッ」

遠慮も躊躇いもなく触れた唇。
強く抱き締められて、動けなくて…唇も奪われたまま。
抵抗することもなく、むしろ、私も宍戸に触れた。

「……長かった」
「え?」
「返事を貰うまでの一ヶ月が」
「…そうだろうね」

宍戸の体の上、まだ抱き締められたままの私。
制服の裾が少し気になる。スカートも…気になる。

「宍戸」
「…名前で呼べよ。もう彼氏だろ?」
「じゃあ…亮」

言い慣れない、呼び慣れない宍戸の名前。
それが少し歯痒くて…

「スカート捲れたから…ちょっと離して」

慌てて手を離した真っ赤な宍戸。
制服の乱れを直して…

「……志月?」

今度は私から彼へ。
思いっきり、受け止めてくれると信じて飛び込む。

「一ヶ月」
「は…?」
「一ヶ月で好きになったよ」

顔を宍戸の胸で隠して、ホントのことを口にする。
宍戸と同じくらい抱き締めて、肌でお互いの気持ちを認識する。

「名前で呼ぶんでしょ?」
「……ゆい」
「それでヨシ」

二人で笑って、また唇が近づく。
無意識に何度も何度も、確かめるかのようにキスを繰り返す。
床に落ちたクッキーとフルーツケーキの惨劇。
それに気付くことなどなくて…

「…我慢の限界」
「ちょ…それは…ッ」
「俺は乙女じゃねぇから」

乙女が狼に変わって…襲いかかる。



◆Thank you for material offer 遠来未来


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