LA - テニス

07-08 PC短編
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目が合えば顔を真っ赤にするのは私ではなく、宍戸。
思わず、その表情を見て吹き出してしまう。

「…笑ってんじゃねぇよッ」
「何よ、宍戸が帰りに付き合えって行ったじゃない」

本当に乙女だと思う。
私以上に純情な…乙女ちゃん。



せよ、乙女



からかって遊んだら怒るから、これでストップ。
とりあえずはただ宍戸と並んで歩いて…

「で、どこに付き合ったらいいのよ」
「…別に…」
「へ?」

男のくせに声が小さい、ホントに小さすぎ。
いつもならもっと大きな声で話してるじゃない。

「ただお前と一緒に居たいだけだッ」

やっぱり可愛いと思う。
その辺にウヨウヨしている女の子なんかより断然。

「宍戸ってホントに乙女よね」
「うっせぇよッ」

また一層、顔を真っ赤にさせて…
少し高い位置にある宍戸の顔を見上げていた。
そこそこカッコいい…と思うんだけど…

「ねぇ…」

そう思ったから…何事も直球で聞いてみる。

「私のどこが好きなのよ」

飲み物なんて飲んでいないのに…
何かを喉に引っ掛けたらしく、宍戸は大きく咳き込んでいた。
呼吸困難気味に。

「…別にそんなにむせなくても…」
「いきなり、そんなコト聞くからだろッ」

宍戸の強気な態度は変わらない。
少なくとも、今は私の方が立場的に有利で…
少なくとも、今の宍戸は私のコトが好きらしくて…
それだけが事実として成り立っているのに。

「ねぇ、どうなの?」

他人事、みたいかもしれない。
でも、何となく実感が沸かないんだよ。
あの時も怒ったみたいに暴露してたから…

「そんなの…言葉で表せるかッ」
「…そうなんだ」

ちょっと残念な気がした。
あの宍戸に"俺が欲しいのは好きな子のだけだ"
そう言わせた女の子に興味があったから。
…いや、それは私のことだったんだけど。

「宍戸も変わってるよね」
「…俺からしてみればお前の方が変わってる」
「…そうかな?」

最初は…ビックリしたよ。
戸惑ったし、どうしたらイイのか考えた。
だけど、宍戸の態度は今までと同じ。
多少、冷やかしはあるけど…基本的には何も変わっていない。
それが自分の中の安心に繋がって…今があると思ってる。

「意識、されてないんだな…って思う」

……え?
少し寂しそうに笑う宍戸。
その表情が…少し、ホンの少し胸に刺さった。

「意識、してないわけじゃない…と思う」

無意識に口にした言葉。
言葉にしてからハッとしてしまうような…

「あの…別に、私は…」
「三年の春…廃部宣告出されただろ?弓道部」
「え…あ、うん」

唐突な宍戸の言葉に曖昧な私の返事。
去年の話でもう引退して、思い出としてしか残っていないモノ。
急にそれを引き出されて…

「諦めずに一人で活動してるお前を見て…好きになった」

立ち止まった足。
真っ直ぐ、真っ直ぐ見つめられて…

「袴を引きずって…前だけ見て走ってた志月を好きになった」

嬉しかった。必死で動く自分を認めてくれたコトに。
そんな私を見つめてくれていた宍戸に。

「ありがと」
「…ドウイタシマシテ…」
「…また顔赤くなってるよ、宍戸」

私からの照れ隠しな一言。
宍戸もまた負けずと私の顔を見つめて…

「うっせぇ、おめぇも赤いぜ……ゆい」

小さく呼んだ私の名前。

「別に遠慮がちに呼ばなくてもいいんじゃない?」
「…うっせぇ」
「ホント、乙女ちゃんだね」

それが自然と…嫌じゃない自分。

「…腹減ったッ。ちょっと何か食おうぜ」
「宍戸の奢りでね」
「俺を好きになったら…奢ってやるんだけどな」
「だったら今は割勘だね」

そう。今はまだ割勘しないと。

「…ホワイトデーまでまだまだ先だしね」

もう気付いたよね?
私も今…自分の気持ちに気付いたよ。

だから待ってて。




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