LA - テニス

07-08 PC短編
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---音楽を鳴らす

本日、とてつもなく素敵に晴天なり。
ランダムに試験の席順が決められて、ポカポカの窓側で試験を受ける。
斜め前をチラリと見れば、試験中の敵であるエリンギの姿が映る。
例の必勝祈願か何かの鉛筆を数本並べ、その横にはきちんと鉛筆削り。そして…

「け、消しゴム忘れた…」


下克上(げこくじょう)
意味:下位の者が上位の者を政治的、軍事的に打倒して身分秩序を侵す行為をさす。

可哀想なエリンギに消しゴムを半分譲ろうとすれば…
"敵の情けは受けん!"とか言いつつも拝借して鉛筆の横に転がす。
その言葉と態度と行動は矛盾しているとは思いませんか?



若、下克上日誌 〜Act.5〜



期末テストは3日間掛けて行われる。教科は9科目。
主要5科目はさておき、保健体育だとか音楽だとか…どう勉強すればいいわけ?
毎回毎回そう思いつつも教科書を音読するのが私なんですけども。
エリンギ・日吉はどんな勉強をしたというのでしょう?
多分、意味も無くノートにカリカリして、用語なんかまとめてたりして。





――期末テスト 初日。

「調子はどうよ、エリンギくん」
「……」

自分でまとめたらしいノートを見たまま、私の存在は無視。
どうやら最後の最後まで足掻くらしく、その根性は見上げたもの。
意外に努力家のようだけど…敢えてそれが空回りにはならないか?なんて思うわけで。

「今更眺めても無駄じゃない?」
「……気が散るからアッチ行け」

かなりの勢いで負けず嫌いと見た。それは私も同じこと。
だけど、ホンの数分しかない休み時間。足掻けば覚えてたことまで忘れるとは思わないのかな?
私なら絶対しない!なんて思いつつも口にはせずにポンッと日吉の肩を叩く。

「まぁ…お互いに頑張ろう」

あまりの真剣さに立ち寄ることが出来ず、私は廊下へ。
休憩時間くらいリフレッシュしないと日吉と違ってタフじゃないからね。私は。

チラッと日吉の姿を見つつ、私はテストの合間の休憩を取っていた。





――期末テスト 2日目。

この日もこの日とて日吉は机から離れずに験勉しちゃってる。
鳳くんが何か声を掛けたのにも関わらず完全に無視しちゃって…

「今話しかけてもダメダメ」
「ですね…今更何を真剣に勉強する必要があるんでしょうね」
「そうそう。悪足掻きもイイトコだよね」

近くを通り掛った鳳くんに声を掛けて、聞こえるくらいに嫌味を言っても反応無し。
休み時間に集中力使っちゃったら、試験の時に絶対持たないと思う。

「日吉、志月さんと余程の賭けをしたんですね」
「今からでも鳳くんも参加する?私の条件はカフェテリアの高額メニュー2品驕りよ」

鳳くんの言う"余程の賭け"は所詮このレベル。
日吉の条件はまだ考え中みたいだけど…でもきっと日吉もこのレベル。
要は下らない条件の付いた賭けなんですよ。ホント。
もし、ここで鳳くんが参戦して私が一位になれば…二日連続で素敵なランチが!

「負ける気はしませんがイイです」
「遠慮しなくても」
「いえ…日吉が睨んでますから」

ふと、前方の席を見れば…あらやだ、ホントに睨んでいらっしゃる。
まだ参戦もしていない鳳くんにまで下克上したいのかしら…





――期末テスト 最終日。

今日で立派に試験から解放される…そんな喜ばしい日にも関わらず験勉するキノコ・日吉。
最終日になってもまだ足掻く気でいらっしゃるとは、敵ながら天晴れ。万歳三唱です。
いよいよ目元には大きなクマが出現しちゃって、その人相も顔つきも一段と悪い。

「最終日だね、日吉」
「……」
「総無視かい!今日、数学だからって…」

死んだ魚みたいな目のまま、何か悪いモンに魂を奪われたかのようになっちゃって…
日吉の言う"下克上"とやらは命懸けなんですな。私なら命は懸けられませんわ。
半ば狂ったかのように問題集をカツカツ解いては答え合わせ。それを繰り返す日吉。
ちょっと計算するスピードとか公式との結び付けが速くなっているような…
恐るべし努力家!自分の下克上のために全てを削る根性!見上げたものです。

「……アレ?」

だけど、何やら見覚えのある問題が並んでいるような気がする。
数学の問題だもの、そんなにたくさん例題も問題もあるわけではないけど…

「それ…私の考えた問題?」

間違いなく私が作ったモノで、明らかに前回日吉も解いていた問題たち。
数学は数をこなして解き方を理解するものだとは思うけど、ずっと解いてれば暗記になっちゃうよ。
そう指摘しようとすれば、ババッとそのノートは閉じられた。何を慌ててるんだか…

「お前、もう邪魔するな!」
「ハイハイ、すみませんでしたー」

何やら知られたくなかったことみたいで、いつもに増して激怒された私。
仕方なく日吉の席から離れて、最後の試験の時を待つことにした。





――全テスト終了。





終わってみれば意外とあっけないモノよね、テストって。
テスト前は無駄な自習が多いし、早く帰れるし、よく考えたら天国期間。
明日から通常通りの授業になるのかと思えば…少し憂鬱かも。

「呆けてるところを見るとヘマしたんでしょう?」

テスト終了後、普段通りの冷静さを取り戻したらしい日吉。
かなり清々しい表情でお出まし…だけど、目元はクマで黒いわよ。

「あら、エリンギってば試験が終わったら普通なのね」
「キノコ扱いしないで下さい」
「悪いけど、別にいつも通りに解いたわよ」

完全完璧にパーフェクト!なんてことは一切ないけど、あくまでいつも通りに解いたつもり。
余った時間はきちんと見直ししたし、小さなケアミスはないわよ。多分。
実力で大差がないもんだから相手のミスに期待したいのだろうけど甘いわよ!
私だって豪華なランチのため、出来る努力はしてるんだからね。

「結果が楽しみですね」
「私だって。日吉には負けてないんだから」

お互いに意地の張り合い、視線のぶつけ合いでバチバチと火花が散る。
そんななか、担任の教師から早くも採点の終わったテスト用紙が返還されていく。
教室中がワイワイする最中、私と日吉のテスト用紙は裏返されたままの状態。

「…全部が揃ったら、だ」
「望むとこよ、エリンギくん」

日吉のニヤリと笑った表情。自信があるのか、はたまた自信が喪失されているのか…
クマが濃く入ったその様子からは何一つとして読み取ることが出来ない。
とりあえず、私の答案はいつもと同じくらいの点数で可もなく不可もなくというトコ。
平均点より少し上くらいの答案を眺めながら、頬杖を付いてただ思う。
"どうせ変わらないくらいの点数になるんだろうけどね"



数日後、出揃ったテスト用紙を片手に日吉と向かうは人のいないだろう屋上。
笑っても泣いても全ては出揃い、不吉にも先行く日吉は少し笑っていた。
開票結果を待ちわびる選挙立候補者の気分でも味わっているのか、片目ダルマが必要だったか…
お互いの点数を公表する寸前、日吉との最終決着の時は刻々と迫っていた。




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