LA - テニス

07-08 PC短編
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---音楽を鳴らす


生命反応、アリ

夏も近づく頃、誰もがはしゃぐ夏休みがやって来る。
よくある計画を練って、遊び倒そうなんて思ったりもして。
課題は後回しの末に他人のを写したり…中学生活3度目の、最後の夏休み。


「ゆいは旅行の予定とかはあるのか?」
「んー…特にない、かな」
夏休み後は本腰入れて受験勉強が待ってる。
国光は良いとしても、私は少しは勉強なんかもしておかないといけない。
両親もそう思っているらしく、旅行の「りょ」の字も出ない。
約一ヵ月半、退屈と言えば退屈となりそうな夏休み。
「国光は?」
「俺も予定はない」
「そっか…」
片付いた国光の部屋、少しだけ入ったエアコン。
涼しい風が吹くなかで宿題なんかしている私たち。
これが室内デートだと言えば…少し寂しいモノがある。
別に嫌ではないんだけど。
「…ねぇ」
向かい合ったテーブル越し、国光は課題に噛り付いたまま。
神経質を窺わせるようなゴツゴツした指は、ずっと問題を解いているだけ。
私の手が休んでいても、頬杖をついて眺めていても、
国光の手だけは休むことはなく、ただただ動き続けている。
「ねぇってば」
「…何だ?」
下を向いたまま、相槌のような返事。
集中している時に話しかけるのは少しは申し訳ないとは思うけど、
適当に返事を返すのも、少し私に失礼だと思ってみたり。
「夏休み、時間あるよね?」
「…多分な」
「ちょっとだけ…遊びに行きたい、かも」
「…そうだな」
本当に話を聞いているのだろうか?
曖昧な返答で、適当な言葉。
「話、聞いてる?」
聞いてなくはないんだろうけど、課題を解く手は休まらない。
黙々と計算式を書いては答えを出していく。
真っ白で綺麗だったノートが国光の字で埋まっていく。
「ゆい」
「何?」
「とりあえず、終わらせてから話そう」

一に勉強、二にテニス、三四がなくて、五に私?
これが国光の優先順位。
わかっていることだけど、少しだけおもしろくない。

返事もせずに、私も課題へと噛り付いた。
真っ白のノートに課題を写して、問題を解いて…
頬杖をついたまま、首を傾けながらでも懸命に。


ようやく課題が終わる頃、国光はもう別のコトをしていた。
図書室で借りた本なんか読んでる。
読書なんか始めたら、それこそ話は出来ない状態に陥る。
兼ね備えた集中力はハンパじゃないから。

「ねぇ、課題終わったんだけど…」

反応ナシ。
むしろ、生態反応があるのかどうかも危うい。
瞬きはしているようだけど、ピクリとも動かない。
時折、ページをめくる動作はしても、また動かなくなる。

「……はぁ」

こんな国光を誰が止めることが出来るだろうか。
きっと…誰も止めることは出来ない。

「夏休み、少しだけ遊びに行きたいのね」
「何処に行きたいとかは、まだないんだけど…」
「やっぱり勉強ばかりもしたくないし」
「だから、国光と少しだけでイイから出掛けたいのね?」

一文一文、独り言のように言葉を紡いでみる。
だけど…やっぱり反応ナシ。

「手とか繋いで、デートとかしたいかな」



――反応アリ。



「課題が終わったなら、出掛けようか?」
「え?」
「それは夏休みじゃなくても、出来るだろう?」

分厚い本を閉じて、テーブルの上に置く。
同時に私の手を取って…

「アテもない散歩だが、今から行かないか?」

握られた手は暖かく、有無を言わさぬカンジ。
だから私も返事をする代わりに微笑んだ。
テーブルの上の教材たちに優しく見送られ、部屋を出た。



◆Thank you for material offer 煉獄庭園


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