LA - テニス

07-08 PC短編
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---音楽を鳴らす

穏やかなる午後の昼下がり。思わず昼寝がしたくなるくらい良い天気。
明日から期末テストだから早く帰れて幸せ…と言いたいところだけど。
私の横にはムッツリとした表情のキノコが並んでいる。

「……何でこんなトコで勉強しないといけないけ?」
「また自習の時みたく騒がれたら敵いませんからね。安全策です」


下克上(げこくじょう)
意味:下位の者が上位の者を政治的、軍事的に打倒して身分秩序を侵す行為をさす。


ああ、根に持つ男はヤダヤダ。いくら私でもTPOはわきまえますよ。
ただ…激情に駆られた日には暴走くらいしますけどね!



若、下克上日誌 〜Act.4〜



教室での居残りは禁止された。図書館へは日吉が拒否した。
お陰様でこの良い天気の中、適当な公園にて参考書を広げる。
またまたテーブルベンチがあったから良いものの…悪条件も悪条件。
子供がウロウロしてるし、マセた小学生なんかは私たちをアベック扱い。
参考書広げた私たちのどこがカップルじゃい!と叫ぶのはやめた。
ガキ相手に大人げないっていうのもあるし、日吉からの説教も受けたくないし。

それにしても良い天気。勉強なんてせずにウロウロしたい。
本日のお言葉…"気分転換は最高の勉強なり"
ああ、その心が日吉に伝わるならば…こんなトコで参考書は広げないわよね。

「……はぁ」
「志月、溜め息なんてつく暇はないぞ」
「へいへい。謹んでご指導させて頂きますよ」





――雑踏に 紛れる声を 気にしつつ 数学一筋 指導すかな…

うーん…我ながら素敵な短歌だけども字あまりですな。
日吉に理論的に説明を繰り返し、なかなか納得しなくて往生中。
何たってこうも理解に苦しむかな…スパッと割り切ればいいものの。
大体、この問題だったらこの公式!程度に覚えてくれ。

「だーかーら!もうツベコベ言わずに公式覚えて全部当てはめろ!」
「そんなコトしてたら時間がいくらあっても足りないだろうが!」
「んなの勘でやるんだよ、勘で!」

結局はこの有様。理論的な説明をしようとも彼は理解しない。
一体、どう言えば理解するんだ?アンタは…
ガチガチ理論で国語的な説明なんかで数学が理解出来ると思うなよ。
数学に必要なのは一瞬の閃き!驚かんばかりの勘!素質さ!

「もう、アンタ素質なし!数学の才能なし!」
「数学に才能なんて…」
「頭の柔軟性を付けてから出直せ!」
「ばッ……明日から期末だぞッ?」
「知るかい。公式のカンペでも作っとけ!」

ああ…日吉の言うとおり、公共施設へと行かなくて良かったかも。
こんなに大騒ぎしたら、その施設への入室禁止が確定するトコだったわ。
現在のところ、ギャラリーは公園で遊ぶガキたちのみ…あ、保護者もか。
って、ヒソヒソするな!私たちは痴情のもつれで騒いでるわけじゃないわよ!

「大体ね、数学ってのは公式に当てはめて解くだけ。ただそれだけ!」
「その公式が山ほどあれば、どうして良いかもわかんねぇだろが!」
「一時間近くも時間があるんだから地道に当てはめときゃどうにでもなるわ、ボケ!」
「だから!そんなコトしてたら時間がいくらあっても足りないだろうが!」



――エンドレスリピート。



「ら、埒が明かないわね…」
「お前の説明のせいだろ…」

まだ言うか!お前の理解能力のなさが悪い。それが欠けてるのが悪いに決まってる。
言っても伝わらない、説明しても理解出来ない、そうくるならば…もう実践しかない。
私が毎回作っている"自分が先生になった気持ちで問題を考える"戦法での問題集をね!

「仕方ないわね…とっておきの問題集を解かせてあげるわよ」
「……何だ、コレ」
「自作問題集よ。作るのに3日は掛かったわ」

大学ノートに自筆で書いた、見事にエレガントな自作問題集。
それを広げて日吉の前にドンッ!心なしか木製のテーブルが少し傾き、揺れた。
自作だから字は汚いし、付け加えの文章吹き出しもあるし…問題集ってカンジではないけどね。
それでも頑張って作って解いてしてんのよ、毎回ね!どうよ、素晴らしい心意気だろが!

「もうツベコベ言っても無駄!とりあえずは私とコレを解け」
「……読みづら」
「うっさいわね。サッサと解いて、答え合わせてみりゃいいのよ!」

勢いに気圧されたか、日吉は自作問題を自分のノートに問題を写して解き始める。
私は私で別のノートに問題を写して、その問題を解き始めた。



――40分が経過。



「……なぁ、志月」
「何よ、エリンギ」
「……この問題、お前が作ったんだよな」
「そうよ。ヤマ張って、先生の気持ちになって作ったのよ」
「だったら、正式な答えがわかんねぇんじゃないか?」

うーん…そう言われれば、確かにそうとも言えなくもない気がするわね…
私も日吉も問題が解き終わった頃、確認する段階になって浮上したこの問題。
うーん…何て説明をかましたら良いのだろうか?

「私と答えが合ってれば…それが正解なのよ」

少し陽の暮れ出した空の下、夏に吹く風のように爽やかな笑顔を浮かべて一言。
同じように爽やかな顔をして納得してくれる、くらい日吉が穏やかだったならば…

「んなモン、アテになるか!」
「んだと!私が作った問題だぞ?私が答えを間違うか!」
「間違わない保障がドコにあんだ!」
「公式をズパー当てはめてりゃ間違わんわ、ボケが!」

ダンダンッとお互いがテーブルを叩き合うから、ガタガタとテーブルが揺れる。
周りにいた小学生たちは保護者に連れられて帰路に付いて行く…
"ママ…"と子供、"見ちゃダメよ"と母親。って、こんなトコで変な会話なんざしてません!
てか、もう何なのよ、コレ!第三者からすれば、まるっきり変なカップル扱いじゃないですか!
どうすんのよ、コレが原因で警察に通報されて職務質問なんて遭ったら!日吉のせいだからね。

「兎に角、答え合わせて解説するから!」
「それがアテにならねぇって言ってるだろ!」
「黙って答え合わせろ!」



奮起した私に怖いものなんか、本当にないのです。
ブツブツ文句を言いながらも日吉と私の解答は始まる。一つずつ一つずつ…
不思議なことに全ての解答が同じで、逆にそれがお互いに納得出来ないモノがあって…
明日はついにテスト。納得がいかないまま、迎えることとなるのです。




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