LA - テニス

07-08 PC短編
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---音楽を鳴らす

日吉があまりにも真面目に勉強を重ねるものだから、私にも火が付いた。
同じスタンスに立つために参考書を片手に握る。休み時間も惜しまず。
音楽の授業にまで参考書を持って行ったモンだから、太郎ちゃんに怒られて…
ああ。期末って音楽のテストもあったんだったわねーなんて。
音楽のテストって…何を勉強すればイイのか。今更ながらに悩む。

下克上(げこくじょう)
意味:下位の者が上位の者を政治的、軍事的に打倒して身分秩序を侵す行為をさす。


明日がついに期末テスト。誰もが焦り始めるという期間に突入していた。



若、下克上日誌 〜Act.3〜



手抜き授業がやたら増えたせいで、教室中が騒がしくなっていた。
試験勉強のための自習、自習、自習…みたいなカンジ。
先生って生徒に勉強を教えることによって給料貰うんでしょう?コレは問題だわ。
まぁ…お陰で好き勝手に勉強出来て助かりはするんだけどね。

シャーペンをくるくる回しながら数学の問題に立ち向かう。
あの先生から推測するに…理解不能な文章問題に応用をを掛けてくるとみた。
最初は簡単な問題で点数を稼がせといて、最後の方に配点の高い問題を出す。
それが必要以上に読解力を要する問題で苦戦してタイムアウトとなる。
うーん。素晴らしいまでのヤマ、これは当たる確立は高いわ。

「……志月」

だけど、期末って範囲が以上に広いもんだから何が問題となるか…
こんな時は"自分が先生になった気持ちで問題を考える"戦法が効果的とみた。
先生だって人間で考えていることは理解出来なくもない。そこを考慮して…

「志月!」
「わッ!ひ、日吉?」

目の前に参上したキノコヘアー日吉に心臓がバクバクする。
折角、集中して周りの音なんか聞こえないくらいまでの無我の境地にいたのに…
日吉…下らない用で声を掛けたんだったら、タダじゃ済まないよ?

「何か用?」
「あのな…このモンダイの…」
「え?シャキッ言いな。折角集中してたの邪魔したんだからさ」

日吉が片手に持って来たのは数学の参考書。ああ、確かこの教科が得意ではなかったんだっけ。
私に数学のテストで負けて下克上って言ってたくらいだし…てか、敵の情けを受ける気ですか?

「この問題の解説をわかりやすくして欲しい…んだが」

下克上はしても情けは受けるわけね。むしろ、私を踏み台にするつもりらしい。
別にそれはそれでいいけど…ちょっと下手に出て来た日吉が面白い。
きちんと礼節わきまえていらっしゃるのねーみたいな。

「仕方ないなぁ。数学が苦手なエリンギくんのため、人肌脱ぎましょう」
「……お願い、しま、す」

おっと、キノコ扱いしても怒らないですよ。さすが日吉。
現状に置かれた身の程をわきまえていらっしゃるじゃない。
兎にも角にも。こうして頼まれたからには説明説明。



――懸命に指導中。



「……志月」
「ん?なんだい、エリンギくん」
「お前の説明、全然意味がわかんねえよ!」

な、何ですとー!この私を捕まえといて意味がわからんとは…
そんなコト言われた私の方が意味がわかんないわよ。
完璧な説明じゃない。シンプルでわかりやすく!これが私の説明よ。

「"このテの問題が来たら、この公式をズパー当てはめる"なんて、説明になんねえよ!」
「だって、そうなんだもん。ズパー当てはめたら正解正解間違いなしだもん!」
「そうじゃなくて、もうちょい理論的な説明とかしろよ!」
「数学に理論もクソもあるか!公式暗記して当てはめたらいいんじゃい!」



――しばしお待ち下さい。



「わかった…わかったわよ。日吉が納得するまで説明しちゃりましょう」
「理論的にわかりやすくだぞ?変な擬音語はいらねえぞ?」

討論に討論を重ねて出た結果、私が折れた。
クラスメイトの鳳くんまで引っ張り出して、私の素晴らしい説明を聞かせたのに…
結果的に鳳くんが下した判断は…"わかりづらいね"だったから。

「放課後、放課後にツラ貸しなさいよ」
「え…昼休みじゃなくて、か?」
「そうよ。昼休みにベストな解説をマスターするから!」

文句も言えなくなるくらい理論的かつシンプルな解説。
数学が苦手なキノコでもわかるくらいの解説法を探すんだから!
負けず嫌いな性格が炸裂。やる気が倍以上に膨れ上がる。

「何よ。放課後に彼女とデート、なんて言うんだったら人間辞めちまえ!」
「べ、別にそんな予定なんか…」
「だったらツラ貸せ、ツラ。逃げずにツラ貸せ!」

ガンガンに騒いだせいか、教室内がシーンと静まり返る。
当然、私たちが注目の的となり…エリンギは小さく頷いて席へと帰った。



奮起した私に怖いものなんかない。
教科書と参考書を交互に見つめながら、数学理論に打ち込む。
期末テスト直前、敵である日吉を相手にまずは戦う。
実力の差をとくと見せつけ、戦意喪失を謀る。




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