LA - テニス

07-08 PC短編
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---音楽を鳴らす

普段から真面目な日吉に、更に火が付いた。
休み時間も教科書なんか広げて、お勉強一本ってカンジ。
私は私で、そんな日吉の背中を眺めていた。

下克上(げこくじょう)
意味:下位の者が上位の者を政治的、軍事的に打倒して身分秩序を侵す行為をさす。


期末テストまで、あと5日に迫った頃…



若、下克上日誌 〜Act.2〜



テスト期間に入ったから、全ての部活動が停止。
別にこんな時間から勉強しなくても、家で出来るって話。
それなのに、なんでこうも真剣に取り組んでいらっしゃるのかな?

「頑張ってんね。日吉」
「おわッ」
「何よ、そのベタな驚き方は…」

余程集中していたのか、目の前で慌てる日吉。
意味もなくテキストを閉じたり、ノートを隠してみたり…
別に勉強風景を覗いているだけで、貴方のノートは覗きません。
勉強に真剣に打ち込むのが見られたくないのかな?

「な、何です?」
「いや、頑張ってるなーって思って声掛けただけ」

別に邪魔がしたかったわけじゃないよ?うん。
ただ、あまりにも真剣すぎて気になっただけ。
息抜きしている様子もなければ、ただ黙々と鉛筆を動かして…

「……え、鉛筆デスカッ」

机の端に並べられたるは、よく尖った鉛筆。
HBという文字がやけに神々しく光っていらっしゃる。
発達した文明の中、シャープペンという素晴らしき筆記用具があるというのに。
シャコシャコ鉛筆削りなんか使ってまで、鉛筆を使用するとは…

「鉛筆ですが、何か?」

そんなに"何か?"を強調しなくても…
別に使って悪いコトはないし、ただ鉛筆に反応しただけですから。

「いや…素敵なモノをご使用で」
「勉強って言ったら、まず鉛筆でしょう?」

いやいや、そんな疑問文で聞かれても知りませんよ。
私はもう数年使ってないし。部屋でカビてるかも。

「それにしても余裕ですね」
「何が?」
「勉強、している風味ではないですよね」
「…失礼な」

験勉っていうのは基本的に家に帰ってからするモノでしょう。
学校ではその時間の授業があって、それを覚えることが大事ですよ。
それに、ココで勉強してないからって験勉してないとは限らないし。
若くん…まだまだツメが甘いんじゃない?

「心配ご無用。負けやしないんだから」
「貴方のその自信、跡部さんを思い出しますよ」
「ああ…あのお方も自信満々って、私は彼ほど自信ないわよ」

氷帝学園イチ、自信深げなお方…跡部景吾さん。
何をするにも自信が溢れていらっしゃって、時として笑いすら出る。
廊下を颯爽と歩いている時ですら自信有り気で、薔薇なんか背負ってそうなカンジ。
いくら何でも、彼ほどの自信は常人にはつきませんから。間違いなくね。

「じゃあ聞きますけど、その自信はどこから来るんです?」
「……腹の底から?」



――しばし沈黙。



「はぁ…貴方は本当に跡部さん系なんですね」
「ちょっと!私はあの方みたいに芸達者じゃないわよ」

いきなり指をパチーンと鳴らして決め台詞なんて吐かないし、そんな芸当見せたこともないわ。
どう見てもその属性には所属してないわよ。絶対、本気で!
勝手な解釈で私をソッチ方面の人だと認識するのは止めてよ。

「芸達者って…随分な言い方ですね」
「だって、本当のことじゃない」

私がそう言った瞬間、日吉がくすくすと笑い出した。
いつも怒ってばかりで基本は無表情で、そんな日吉が笑っている。
笑い方は微妙だけど…初めて見たかもしれない。

「笑うと結構可愛いじゃん。エリンギくん」
「な、何ですか。いきなり…それに俺はエリンギではないです」
「鉄仮面なんてやめてナチュラルにすればいいのに」
「人を鉄仮面扱いしないで下さい」

結局のところ、何を言っても気に食わないんじゃない。
キノコな鉄仮面…我ながら素敵なネーミングだと思ったのに。
大体、少しレトロチックな日吉が悪いと思う。絶対。
人より頭はカチカチだし、そのくせに変な髪形なんかしちゃってさ。
そんなんだから突っ込まれるんだって自覚をすればいいのに――…



「余計なコトは考えて頂かなくて結構ですから」



……エスパー?
キノコな鉄仮面のくせに生意気な機能付きとは…
世の中、色々とハイテク化した賜物というヤツなのかな。



「とりあえず、勉強の邪魔です。どっか行って下さい」



シッシッと動物を寄せ付けないかの如く、手払いされてしまいました。
生意気なキノコをジットリ見た後、私は席に戻る。
鉛筆をクルクルと回しながら考える日吉の姿が遠目に見えた。
参考書をペラペラめくって、一生懸命、解読に挑んでいるような姿。
あまりにも必死な光景で少し、少しだけ可愛らしく思えた。



生意気なキノコを眺め、私もまた机の上に教科書を並べた。
黒板の横に掛けられたカレンダー、×と○の印が目立つ。
期末テストまであと5日。



「…同じスタンスに立ってやるかな?」




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