LA - テニス

07-08 PC短編
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---音楽を鳴らす



告白するのは相手から。別れを告げるのも相手から。
僕の何を買い被っているのか、どうしたかったのかは今となってはわからない。
大して話をしたこともないのに、自分から寄って来ているのに…
今日、この学院に入ってから何度目かの"サヨナラ"という言葉を聞いた。
簡単な言葉で終わる付き合いに、もう慣れてしまっている自分がいる。



「また観月がフラれただーね」
「別にショックそうでもないけどね」
当たり前です。もう何度もこんなコトが続いてるんですから、ショックなんか受けません。
むしろ、コレに慣れない方が不思議というもので、僕は誰よりも冷静に分析だって出来る。
その結果。僕に落ち度はありませんし…要は"女心と秋の空"というヤツですよ。
「アレだろ?お前冷たすぎんじゃね?」
「僕は彼女が望むようにしてきましたけど?」
休みが出来たら会って?夜には電話とメールを繰り返して?
ここまで半強制的にさせておいて、一体何に不満があるというのでしょう。
僕は僕なりに誠意を尽くしてお付き合いさせて頂きました。ですが…
「もうしばらくはお断りしますよ」
希望も夢もないです。今以上に現実というモノを見させて頂きますよ。
正直、もう女性は結構ですね。うんざりします。
「あーあ、言い切っちゃったよ」
「だーね」
誰が何を言おうとも、僕の耳には入らずにスーッと抜けていく。
そう。付き合う、という意味すら…今の僕には全く理解も出来ませんから。



Missing Heart



大体、中学生の僕たちの男女交際というモノはどんなモノでしょう。
毎日毎日毎日…そう常に会って、話して、一緒に居て、イチャイチャして?
大抵、そんなモノなんでしょう?学生のお付き合いというものは。
その先には何があるというんでしょう。明らかに未来などはありませんね。
人の気持ちは色が付きやすく、薄れやすい。ま、人によりけりではありますけど。
子供の恋は延長するようには僕には思えない。そう。"恋愛"とは認められないんです。

「……ん」

僕を「好き」だと言った人たちは、一体、僕の何を好きになり、幻滅していったのでしょう。
それなりに好きになろうと努力して、前向きに見つめて来た僕がいつも馬鹿を見る。

「……くん」

僕の何を見て来たというんですか?
存在しているようで存在していない架空の人物を、身勝手にも「好き」になっておいて…

「観月くん!」

こんな場所に人なんか立ち寄るんですね…僕以外にも。
突然の問い掛けに驚いた僕は、少し間抜けな表情をしていたかもしれない。
「……志月さん?」
「現実、戻って来た?」
「ええ、戻されましたよ」
旧校舎に残された、担当委員も教師もいない図書室。
ほぼ新館の図書室に本は移動してしまって、残された本たちは古びたモノばかり。
一人でモノを考えるのには最適にはなりましたけど…
「哀愁漂っていたけど、考え事?」
「そう思われたのであれば、声は掛けるべきではありませんでしたね」
不覚、とでも言いましょうか。僕以外に愛用者がいた事実を知りませんでした。
今まで一度たりとも人と接触することなどなく過ごして来ましたから。
「そうだけど…もう昼休みは終わってるよ?」
まさか、とは思いましたが…彼女が言った言葉は確認してみれば本当で…
旧図書室の時計の針はすでに授業開始時刻を過ぎていた。
「……はぁ」
「もっと早く言って欲しかった、って思ってるでしょ?」
「…よくお分かりで」
不敵に微笑んだ彼女、志月ゆいは僕の傍の席に座った。
彼女は今年、初めて同じクラスになった女子生徒の一人。
取り立てて話をしたわけでもないですが…全く知らないというわけでもない。
単なるクラスメイト、というだけでしか認識されていない存在。
まぁ、彼女としても同じことが言えるでしょうけども。
「で、観月くんは何を悩んでるの?」
「…そういう貴方は何をしておいでです?」
彼女からの質問、答える義理はなく質問で返す。
こんな埃っぽいところ、好き好んで来る人はそういない。
彼女がここへ通っていたというならば、過去に何度も会ったことがあったはず…
だけど今日、初めて彼女に会った。正確には気づいた、ですが。
「別に…特に用はなかったんだけど」
「そうなんですか?」
「そ。で、観月くんは?」

めげることを知らない、空気を読むことも知らない彼女はお構いナシの質問を投げ掛ける。
のらりくらりと交わすことも可能かもしれないですが、今の僕にはそれが出来そうもない。
溜め息混じりに彼女の質問に返答してみれば…何故か、彼女は笑っていた。

「かなり真剣な顔してたから一大事かと思って損した」
「な…!そこそこ真剣に考えていたんですよ!」
「頭の良い人って本当に理論だらけで困るよね」
笑いが止まらない様子の彼女、少し小馬鹿にされた気がして、気分を害した。
やはり、この年の女性というものは嫌だ。他人を愚弄することしか知らない。
平気で他人を傷つけて、それなのに悪気もなく平然としていて…
「好きになる努力をするっていうのは、相手に失礼じゃない?」
「良く知らないのにホイホイ好きだという人の方が失礼だと思いますけど?」
「好き、に定義はないでしょ。気付いたら好きになってたって思うことって失礼かな?」
理由はアバウトで、要は外見だけだったりする相手の好き、というもの。
それには型も定義も何も当てはまらず、感性のみで…だから幻滅もしていく。
「実際に付き合ってみて、観月くんが無理してるのがわかったから別れた人もいると思うよ?」
無理を、していなかったと言えば嘘になるでしょう。
半強制的だと思って付き合っていたことが何度となくあって…
それが面倒な時、億劫な時、嫌になる時だって多々あったのは事実。
「この人じゃない、って思う人と付き合うからダメなんだよ」
告白するのは相手から。別れを告げるのも相手から。
僕から他人を好きになるようなことはなく、僕からぶつかったこともない。
それに相応する感情を抱く人がいないから、告げる女性と付き合ってきた。
「自分から好きだと思える人と付き合えたら…彼女たちの気持ちもわかるんじゃない?」
そう。ハタから見たら僕は"誰とでも付き合う人"に見えたことだろう。
だけど、その時その時は真剣に「好きになる」努力をして来た。
発想の転換…最初から自分が好きだと思える人と付き合えたなら…
「偉そうに言ってみたけど、私もよくわかんない分野なんだよね」
彼女たちのようになっただろうか、それとも…何かを得られただろうか。
自分の納得出来るようなものが、手の中に残ったのだろうか。
「参考程度に聞き流して下さいませ」

理論じゃないし、理屈じゃないし、理由も何もない。
そこにあるのはどうしようもない感情で、相違すればまた移り変わる。
それの何処がいけないのか、いずれ辿り着けばカタチになる…

「要は頭で考えるな、と?」
「そう。で、自分から好きになった相手だけにした方がいいと思う」
正直、もう女性にはうんざりしていて、誰かと付き合うことを考えずにいようと思った。
そんなタイミングで頂いた助言、それに納得するには少し滑稽な気もしますが…
「そう、ですね。貴方の意見を前向きに検討しますよ」
「では採用を期待します」
彼女は話すだけ話して、笑顔のまま席を立った。
まだ授業の最中で、今更教室へと向かったところで意味などないのに。
「教室に戻られるんですか?」
「ううん。傷心癒しの旅に出ようと思って」
図書室の扉。開かれる直前に振り返った彼女は、何とも言えない表情を浮かべていた。
最後の最後に、本当の理由を的確に述べた。

「ホントは、観月くんに告白しようと思ってここに居たんだよ」

扉の閉まる音と同時に受けた衝撃は、何かを砕いた。
「さよなら」よりも大きなショックは見事に僕を貫通して行く。
知らずして傷つけた彼女に、教えられたこと。
不意に、誇らしくも咲いた大きな感情。
今更だけど、彼女の言葉の意味を思い知る…

――好き、に定義はないでしょ。気付いたら好きになってたって思うことって失礼かな?

理論じゃないし、理屈じゃないし、理由も何もない。
そこにあるのはどうしようもない感情で、相違すればまた移り変わる。
それの何処がいけないのか、いずれ辿り着けばカタチになる…

不意に込み上げた感情を持って、僕は走り出した。



◆Thank you for material offer せつない屋…

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