LA - テニス

08-09 短編
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「ホラよ」
「……何よコレ」

コイツ、踵の高いヒールなんか履いてた日にはカツカツと華麗な音を立てて歩くと思われる。
下手したらモデル歩きで腰に手なんか当てて……ってそんなことはどうだっていい話。
今はただ考える。目の前に置かれた箱の正体を、無造作に置かれた箱の中身を――…




あなたへ




何とも可愛げのない箱だと思う。むしろ、コレ、梱包とか無視した単なる段ボール箱じゃないって言いたい。
んなもん集める趣味もなければ貰ったところでリサイクルの文字しか浮かばずに眉を顰めることしか出来ない。
中身を透視しろって言われても…そんな能力も備わってないもんだから困る。てか、コレほんとに段ボール――…

「受け取れ」
「だから何よコレ」
「見て分からねえのかよ」
「天下の跡部様ではありませんからね。透視は無理」
「……透視じゃねえよ、眼力だ。喧嘩売ってんのか?」

別に。単なる記憶違いの間違いだわ。だって、本当に透視能力だと思っていたんだもの。
どの道同じことを意味してるんでしょ?なんて聞いた日には彼もブチ切れかねないから伏せておいて。
とりあえず黙って受け取れと言わんばかりに置かれたそっけない箱はどう眺めてもただの箱。
本当に単なる箱で開け口はセロハンテープで留めてあるような代物ですよ。
それを「見て分かれ」とか言われた日には「お前じゃねえから分からねえよ!」としか言いようがない。

「何、コレ私が開けていいわけ?」
「お前にって言ったの聞こえなかったのかよ」
「あー…そうだったわね」

すっかり箱の外見であっけに取られてた所為でソレが自分宛だったことを忘れてた私。
当然、跡部様のシワは二割増して「ちっ」と言わんばかりの表情になってて…とりあえず「ごめん」とだけ言っておく。
にしても…本当に簡素な梱包をされた箱。開けるの何も楽しみのないセロハンテープなわけで――…

「……何コレ」
「まだ言うか」
「言うに決まってんでしょ!何で箱の中に更に箱があるわけ?」
「そんな梱包だ」
「んなことあるか!ロシア土産の――…」
「マトリョーシカ、か?」
「そう。それじゃあるまいし!」

何とも可愛げのない箱の中、開けてよし!な許可を得たからわざわざ爪を使ってセロハンテープを剥いでみりゃ中身はまた箱。
それもまた可愛げのないただの箱で手作りのマトリョー…か?みたいな。箱だよ、中身が更に箱とか絶対に分かんないし。
そう言いたげに跡部を睨めば「次を開けろ」みたいな顔をしてて。私、敢えて振っちゃったわよ。出て来た箱を。
もしかしたら中身が空って可能性も否定出来ないって思ったから。そしたら…箱からはカタカタ音がした。

「中身確認すんなよ」
「……空かと思ったのよ」
「ちゃんと入ってるから開けろ」
「……」

何で命令口調なんだ?とか口には出さずに心で思っておく程度にしておくけど、何かスッキリしない。
だけど威圧感を与えながら私が取り出した箱の中の箱を開けるのを待つ跡部が居て…開けないわけにはいかなくて。
とりあえず箱の中の箱に付けられているセロハンテープをまた爪を使ってきちんと剥がしていって――…

「……跡部」
「何だ?」
「また箱、ですけど?」
「くっ…そのようだな」

……笑いやがった、ね。
可愛げのない箱の中に更に箱が入ってて、その箱を促されるがままに開ければまた可愛げのない箱が入ってて。
やっぱり手作りのマトリョー…何とかってヤツじゃん!と今度は嫌でも口から言葉が放たれてて跡部は更に笑い出した。
てか何なのよ!こんな箱をわざわざ押し付けといて少なくとも私の机の上には無駄な箱が3箱に増えてるじゃない!
最初に頭の中を過ぎったリサイクルって言葉が間違ってなかった。むしろ、速攻火で燃やすべきかしら。

「大体何なのよコレ!」
「見て分からねえのかよ、アーン?」
「分かるわけないって最初にも言ったでしょ」
「プレゼントだ、プレゼント」
「無駄に箱だけとか要らないんですけど!てか、私の誕生日はとうに――…」
「過ぎちまったからな。だから…ソレ相応のものを用意した」
「は?」

何?天下の跡部様がわざわざ私のためにプレゼント…?
ソレ相応のものとか言いながら増えていくのは明らかに空箱だっていうのに、それの何処がプレゼントなんだっていうのよ。
相応もクソもありゃしない。だけど…こんなに中身が気になるのは、その、マトリョー…何とかの所為、かしら。

「……」

箱から出てきた箱の中の箱、それを更に開ければまた箱。
その箱から出てきた箱の中の箱を更に開けた箱の中の箱はまた箱。
ムカッとしながらも更に出てきた小さくなった箱を開けた時、今度は箱じゃなくて封筒が出てきた。

「……箱の次は封筒なわけ?」
「それがプレゼントだ」

跡部が笑いながらそう言うもんだから私は対照的な表情をしてその封筒をジッと眺める。
これで中身が普通に商品券だの映画のチケットだのだったら絶対にキレる。んなもん箱に詰め込む神経を疑いながら。
てか、この封筒を箱に詰め込んだ時点でお金持ちの神経を疑っているわけだけど、そんな私の気持ちなんか跡部は知らない。
その所為かどうかは分からないけど…また目で威圧感を与えつつも開けろと促してる。

「……何コレ」

今回で五回目になる台詞。流石の私も怒りとかそんなんじゃなくて呆れだ。
真っ白な封筒を開ければ単なる招待状的なものが入っていて、偉そうにも英文的な文字がつらつら綴られていて。
ただ、読める文字は…と言うと「志月ゆい」と書かれたローマ字と「跡部景吾」と書かれたローマ字と、「birthday」の文字。

「招待状だ」
「何のよ」
「誕生日パーティーの、だ。勿論、俺様の」

くくっ、と笑いながら嫌味だと思われる一言を吐いた俺様に急に返す言葉なんて見つからなくて。
しばらくポカーンとしてたら「正装が基本だ」「ドレスの持ち合わせがなければ貸そう」とか、行くことが確定したような言葉が並べられてて。
てか、この箱は何のプレゼントだったんだよって話。途中で私への誕生日プレゼントだって言ったはずだったのに。

「食事は好きなだけ食べて構わないぜ」
「……言うほど大食いじゃないわ」
「だが珍しいもんが食えるだろうよ」

……セレブ発言かよ。
アンタもきっとカップラーメンの通常価格が400円くらいとか言うんでしょ?それ絶対、有り得ないんだから。
どうせ私は一般庶民でレベルで言うなら5段階の3さ(要は普通ってこと)。

「まだ行く、なんて言ってないわよ。そんなことしたら跡部にプレゼント持ってかなきゃいけないじゃない」
「必要ない」
「私、そこまで空気読めない人間じゃないわよ」
「その発言自体が愚かな発想だな」

……愚かな発想なんかじゃなくて、普通に生きて普通に生活している人としての常識だ!
何処までも自分本位でワケ分かんなくて、ついでもって常識の一部が欠落してて、相手の考えとか理解出来ないこの俺様。

「ゆいが正装して来るだけで最高のプレゼントになる…」
「……え?」
「って言えば通じるのか?」

語尾に余計な言葉がくっついて来たけど…それって、何か、意味を含んだような言葉に聞こえたのは私だけだろうか。
少しだけ深読みしすぎたような、少しだけ変なことを考えてしまったような…そんな私に勘付いてか、跡部は笑いながら耳元に唇を寄せて来た。

「続きの言葉は…当日の会場でしか聞けない」

……悔しいから、本気で何も持たずに私服で会場に乗り込んでやろうと心に決めた。決めたんだけど…
相手の方が少し上手で、その当日にわざわざご丁寧に車なんかを手配して下さって、正装して行くハメになることを私は知らなかった。



-あなたへ(081124)-
冴月さんへの御礼SS。誕生日から遥かに過ぎましたが…


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