LA - テニス

08-09 短編
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ブン太はお菓子が好き。甘くてもちょっぴり辛くてもとにかくお菓子が好き。
それが市販品であろうと手作りであろうと嬉しそうに食べてて…時にはマズいのでも食べてる。
そう、手作りのマズいの。調理実習で作らされた、とにかくマズい私のクッキー。

「……そろそろ癌になるね」
「んあ?んなことねえし」
「癌にならなくてもお腹は壊すわ」
「そーか?」

物凄い音を立ててバリバリと香ばしすぎる代物を食べてるのは別に構わないんだけど…
真っ黒、真っ黒なんだよね。明らかにヤバい味もしたし、苦くて酷い代物になってるのを私は知ってる。
絶対に体に良くない、と作った本人が思っているものをバリバリと食べるブン太は兵だ。
お菓子が好きだってことは知ってるけど…これはナイでしょう。普通、普通ならね。

「俺の胃は丈夫だから平気だろぃ」
「いや、そういう問題ではなくて、だね」
「ん?」
「ソレ、物凄くマズいっしょ?」
「まあ…劇的に美味くはねえけど」

……ですよね。ソレ絶対美味しくはない。というよりマズいんだって。
それを分かっておきながら何故食べ続ける、こうしてる間にもバリバリと。

大体、コレが完成した時点で本当に処理に困ってたのは確か。自分で処分するのも考えただけで苦痛だったし。
それを見兼ねてなのか何なのか分からないんだけどブン太が「捨てるくらいならくれよ」って言い出した。
物凄く真っ黒なクッキー。見た目からして絶対にその味しかしないのは一目瞭然ってやつ。
だから最初は拒否して拒絶して、絶対にあげないと強く言えばそれ以上に強く懇願されて…今に至る。
バリバリと、特に嫌な顔をするでもなくブン太は食べてるわけなんだけど。

「……もしかして味オンチ?」

そう聞かずにはいられないよ。あんなの食べ物じゃないって。
それを食べてお腹壊して…そう、テニス出来ないくらいにまでなっちゃったりしたら一大事なんだよ。
真田くんあたりにその原因とか知られちゃった日には…私、どっかにぶっ飛ばされちゃう。例の強烈な平手で。
って…あげちゃってから何だけどさ。

「別に…俺が食べたいんだからいいだろ!」
「いや、そこまで食べてからで何だけどやっぱり体には…」
「平気だって」
「いや、でもさ…」

と、こんな会話中にも一つずつブン太の口の中にはクッキーが放り込まれていく。バリバリと音を立てて。
手を休めるという言葉は無いらしい。結構心配して遠回しに食べるなって言ってるんだけど分かっちゃない。
オロオロしてるうちにまた一つまた一つ…私の目の前から消えてく。

「ねえブン太…」
「んだよ、イチイチうるせえな」
「なっ、」
「好きなんだよ!だから食いたかったんだよ!どんなのでも!」
「……こんなクッキーでも?」

ブン太が声を荒立てると口の回り付いてた欠片がポロリと零れ落ちた。
ダメだ。まるで意地張った子供みたいだ。引っ込みが付かなくなっちったみたいに喚く…子供みたい。
そんなに意地になって食べなくてもいいのに。貰った手前?ううん、だったら最初から貰わないでも良かったはず。
捨てられる直前で可哀想だと思ったから?ううん、こんなの食べれないんだから同情は、しないよね。
見ただけですぐに味なんて分かる。こんなに真っ黒だとチョコクッキーとも偽れない。

「馬鹿か!」
「は?馬鹿とは何よ!」
「お前のだからに食いたいに決まってんだろ!俺は――…」




5の好き
(お前が、好きなんだよ)



2009.06.12
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