LA - テニス

08-09 短編
22ページ/32ページ


理屈ではどうすることも出来ないことがあって、どんなに考えても纏まらないこともあって。
説明出来ないことに戸惑い、説明出来ないことだから納得も出来ない。
その割にはそうでなくては困るというか許せないというか…矛盾した考えを起こさせる。

――なんでこんなに好きなんだろう。

目の前で俺を警戒するわけでもなく大口開けてクッキーをほうばる彼女は幼馴染みだった。
蓮二と三人、仲良くテニススクールに通っていた仲だったのだが…ある時を境に何かが変わった気がする。
それからというもの、肩書きだけは幼馴染みで俺の感情だけ揺らいでる。止まることなく。

「どーした?貞治」
「……いや。それよりもっと上品に食べれないのか?」
「それは無理だわ。コレは上品に食べるものじゃないし」
「そういう問題か?」

俺の問い掛けに「そういう問題」とあっさり言い退けてまた大口開けてクッキーをほうばる。
屈託の無い昔のままの仕草、だがそれを妙に自分だけのものにしたくなってしまったのはいつだったろうか。
知らぬ間に変わる感情はあったがやはり何処か納得いかない自分が居て何とも言えない。
もし…彼女にそのことを告げたとして「いつから?」と聞かれたなら答えることが出来ない。
それはつまり、物凄い勢いでアバウトであり曖昧さを強調するだけの感情に…俺は思えてならないのだが。
どうだろう、この考えは間違っているのかどうかも自分自身では分からなくなってしまっている。

「ねえ貞治」
「何だい?」
「むーっと考えても答えなんか出ないよ」

細い人差し指、自分の眉間部分に触れながらもう一度「むーっとしてる」と言われて俺も触れてみる。
かすかな出っ張りが一山。シワが寄っているらしく撫でることで伸ばしてみれば彼女は笑う。

「そんなとこに気合い入れても意味ないでしょ」
「まあ…一理あるが」
「そんな顔してもさ、考えはまとまんないわけだからさ考えるの止めない?」
「……お前のことでも?」

ああ、驚いてる。目がいつもより0.5倍は開いているな。

「さっきからずっと…いや、ずっと前からお前のこと考えてるんだ」
「へ、へえ…」
「それで一つ、難関にぶち当たったわけだ」
「な、難関?」

そう。他所他所しくカウンセリングすれば俺の理想とは少し違ったタイプだが彼女はストライクゾーンだ。
少々言動は荒いが可愛らしい顔をしていてアッサリしていて俺のことも良く知る珍しい女の子。
だが…その条件でいくならば他に居ないわけでもない。多少は無理して捜すことにはなるが、な。
それでも何故か感情が揺れるのは彼女だけで、それを止める術も無く今も尚揺れ続けていて――…

「なんでこんなに、お前が好きなんだろうか」
「へ?」
「そのことを考えてたけど答えが見つからないんだ」

何かの拍子で考える、何かがきっかけで考える。自分の中に問い掛ける。
自分の中にある感情に自分自身が答えられないことがあるなんて思いもしなかったんだ。

「……見つからないで、欲しいな」
「え?」
「見つからなかったらずっと、私のこと考えてくれるんでしょ?」
「……それって」
「はい!この話は終わりー!」

これ以上は何も答えないよ、と言わんばかりに耳を塞ぎ小さく首を振る彼女。
そんな彼女の姿を見ているうちに何だかさっきまで考えてたことがどうでも良くなって…俺は笑った。


……何だ、誰も分からないんだ。
どういう理屈で何があって、いつ何処でどんなことがきっかけで人を好きになるか、なんて。
少なくとも俺たちは気付けばそうなっていたらしく、お互いに初めて、それに気付かされたんだ。



5の好き
(なんでこんなに好きなんだろう)



2009.05.25.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ