LA - テニス

08-09 短編
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「好きな訳ないだろ」と口にする彼女は素直じゃないと思う。
口元を歪まして物凄い形相をしてるつもりなんだろうけど、俺にとってはそんなのへっちゃらで。
むしろ、その表情ですら可愛く思えるからマジ愛しちゃってるなーって思う。

初めからそうだったんだ。沢山の女の子が居て、色んな性格を持つ子が学校には居て、
その中でもダントツで気になった子は君。いきなし踵落とし喰らったんだもん、初めてだった。
「その辺の女と一緒にしないで」と言った君、確かにその通りだと思ったんだ。
ソレが始まり。別にMってわけでもないんだけど君に堕ちた瞬間――…



今日も今日とて、ストーカーよろしく彼女の傍に居るわけだけど…彼女は眉間にシワを寄せてた。
可愛い顔が台無し、と言いたいところだけど、これはこれで俺は好き。

「ねーねーどっか寄って帰らない?俺奢るよー」
「嫌。御免被り」

無理じゃなくて嫌、ノーサンキューと言わんばかりに振り返ることもなくただ真っ直ぐに歩く。
その凛とした後ろ姿は綺麗なもんだよ、ほんと。俺にとっては最上級に魅力的。
そう思えるからどんなに冷たくされても後ろを追っちゃうんだよね。俺は笑って、彼女はしかめっ面だけど。

「でもさー真っ直ぐ帰る気はなさそうだね」
「……本屋に寄るのよ」
「だったら俺も同伴しちゃうぞー」
「それを言うなら同行。嫌な言い方しないでよ」

「ついでに同行しないで」と言った君だけど、俺の扱いも完璧じゃん。適当なノリ突っ込みでも全然OK。
何度か「来るな」「嫌だ」「帰れ」「無理」なんてやり取りをしつつも、真横に並べば完璧なカップルじゃんとか思うわけで。
それを口にすればまた一層眉間にシワを寄せて…強烈な肘鉄が飛んで来そうになったから避けた。
俺もだんだん学習するんだよね。ここまで一緒に居れば彼女の次の行動くらい読めるようになる。

「……何で避けるかな」
「え、当たると痛いじゃん。最初の踵落としだって強烈だったよ?」
「あれは自業自得でしょ」
「そうかなー?」
「しつこく声掛けるからよ」

そう、こういうのって癖になるんだよ。可愛い女の子見つけたら声掛けちゃうって、そういう癖。
あの日もそういう癖が出て、いつものように声を掛けて掛けて掛けまくって…で、振り向きざまに見えたのは綺麗なおみ足。
残念だけどスカートのひらひら具合で膝よりちょい上くらいしか見えなかったんだけど、驚いたね。
あれ以来、その強烈な踵落としは掛けて来る様子もないのはちょっと残念、かな?

「今もしつこく声掛けてるけど?」
「……喰らいたいの?踵落とし」
「全然。でも、ちょーっとは気心知れてきたんじゃないかなーって」
「生憎様。気心なんて欠片も知れてないわ」
「ありゃま」

……とか何とか言って、最近は何か諦めたかのように俺が傍に居ても文句を言わなくなった。
そりゃ疲れたような大きな溜め息は吐くけど、前ほど酷く俺を拒絶しなくなったよね?それって気心が知れた証拠じゃない?
なーんて、自分から地雷を踏むようなことはしないけど。でもさ、本当にそんな気がするんだ。

「ねえ、本屋で何買うの?」
「本に決まってるじゃない」
「そうじゃなくて、何の本を買うの?」
「……何でもいいじゃない」

呆れたように溜め息を吐く君の横顔。嫌いじゃないよ。
彼女の顔を眺めながら歩いてれば視線を察知して彼女もこちらを向く。勿論、超マジメな顔で。

「……はあ」
「やだなー俺の顔見て溜め息とか」
「その割には嬉しそうね」

うん、ごめんね。まさにその通りだよ。どんなカタチであれ会話は成立してる、無視も拒絶もされてない。
最初の頃から比べたら飛躍的に何かが成り立とうとしてる気がするんだもん。嬉しくないわけがない。

「そだね。嬉しいかも」
「……変なの」
「うーん、変じゃないよ」

完全に嫌われてるならきっと彼女は俺を視界には入れないと思う。会話もしないと思う。
嫌いだったらわざわざハレものに触る必要なんかないし、ましてや突付くような行為も必要が無いわけで。

「ねえ」

そういうのを総合して考えた時に辿り着く答えは、彼女は俺を嫌いじゃないってこと。
もしかしたら…好きになってくれるんじゃないかっていうこと…なんて、俺らしくも無い考えなんだけどさ。
でも何だろう、とてつもなくアバウトなことだけど大事なこと。それを彼女の行動から読んでる。

「俺を好きになって来たんじゃない?」

そう言ったら彼女はピタリ、足を止めたから俺も止まって。

「好きな訳ないだろ」

と、何処かいつもの調子とは外れて口にする彼女はやっぱり素直じゃないと思う。
口元を歪まして物凄い形相をしてるつもりなんだろうけど、俺にとってはそんなのへっちゃらで。
むしろ、その表情ですら可愛く思えるからマジ愛しちゃってるなーって思う。

「早く好きになってくれないかなー?」

俺がくすくす笑いながら彼女にそう言えば、二度目の肘鉄が飛んで来たからまた避けて。
何処か悔しそうに唇を噛んでまた歩き出した彼女の後をまた追う。本当に軽くストーカーみたいに。

「……勝手に言ってろ」
「うん。そうする」

スタスタ歩く彼女を追いかけて、また横に並んで…ふと気付いた。
いつもの怒り顔、いつもの困り顔、嫌いじゃないよ。だけど、今日は耳が真っ赤になっていたことに気付いた。




5の好き
(好きな訳ないだろ)



2009.05.19.
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