LA - テニス

08-09 短編
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に願いを…



なーんて。冗談交じりで乙女ちっくにもそんなことでもしてみようかなーとか話した時。
「君、馬鹿じゃないですか?」とか言っちゃうヤツは例え彼氏であっても「死ね」としか言いようがないわけで。
とりあえず現在のムードは最悪。イブの日にこれでもかっ!っていうくらい睨み合うカップルなんて居ないと思う。
そう、私たち以外では。絶対に。あ、でも世界規模でみれば何処かには居るかもしれないけど…まず沖縄には居ないだろう。

「その言葉、今すぐ撤回したら許してあげますよゆいサン」
「そっくりそのまま返すわよ、永四郎サン」

この火花…見える人には見えているらしく、そんな人たちは嫌でも私たちを避けて少しだけチラ見しながら通り過ぎてく。
それがお互いに分かっていながら引くことも無い、怯むことも無い、似た者同士とでも言うべきなのか。
少なくとも今みたいなやり取りの中で何故か「彼氏・彼女」という肩書きに変化したのは揺ぎ無いものであって…
謎だと言われてる。学校の七不思議に入るってしれっと甲斐がそう言ったことがあった。

「……そんなにお仕置きがお好きですか?」
「まさか。そういう永四郎こそ全料理にコーレーグス入れられたいわけ?」
「そんなわけないでしょう」
「だったらそっちが撤回しなさいよ、撤・回!」
「そっくりそのままお返ししますよ」

裏も表も無い、どちらかと言えば冷たいくらいに人を跳ね除けては飼い慣らすような術を持たない。
だけど、どうしてだろうか。山になるほどまでに敵を作ろうとも何故かそれに値しない味方もきちんと持っていて。
個人的には凄く不思議な男だと思っていたわけだけど…それはどうやら私にも共通したところはあるようで。
だから「似た者同士」これがしっくりくる私たちに共通する何からしかった。

「何よ、たまーに雰囲気に乗っかって冗談言っただけじゃない」
「冗談?そんな風には見えませんでしたよ」
「それは永四郎目線からでしょ?」
「ええそうですよ」
「それが間違いだって言ってんの」
「そんなことは無いでしょう。アナタ、確実に本気だったでしょう?」
「だから違うって言ってるじゃない」

頑として折れることを知らない私たち。ついに永四郎なんて腕組みをしちゃいましたよ。
こんな時の彼は誰もが知る鋼鉄の心で挑んで、絶対に折れないと私だけじゃなく皆が知ること。
いやね、別に「あーそう私が悪かったですー」って言えばいいのかもしれないけど、そんなことしたらしたでまた永四郎は怒るのよ。
「自分の言葉には責任を持ちなさい」とか何とか言って…本当に頭が堅くって困る。こんな口喧嘩は茶飯事的なものさ。

「いいえ、ゆいは確実に本気でしたよ。大体…何の願いがあるんです」
「……願い?」
「そうですよ。星に願いでも、と言ったでしょう?」

険しい表情でどんだけ上から目線で見てるんだろうか。無駄に背の高い永四郎はこういう時に困る。
強く言い返しても全然動じないような位置に目があるんだもの。これで本当に対等なら…勝てたかもしれない。

「星に願い…ねえ」
「……まさか本当に何も考えて無かったんですか?」

まあ…言えばそういうことになるね。だから最初に言ったじゃない、冗談で雰囲気に流されて言ったって。
大体、星に願いなんてするとしたら…「成績が上がりますように」とか「お小遣いが上がりますように」とか「懸賞当たりますように」とか。
そういう半ばどうでもいいような、叶ってもワーイくらいで済むようなことばかりじゃない?基本的には。
結構私は現実主義者で努力は…あんましないけど、それなりに願いは自分で叶えるタイプさ。それは永四郎も同じだろに。

「じゃ、とりあえず…永四郎が少し優しくなりますように、とでも願うわよ」
「……は?」
「嫌味が多いのよ。言葉は倍返しだし無自覚なわけ?」
「失礼な。嫌味を言った覚えはありません」

……それを無自覚と言わずして何と言う。
本当に一癖も二癖もある男だと思う。それなのに…なんで私はそんな人と付き合ってるのだろう。
色々と不思議にはなるけど何だかんだで合うんだろうとは思う。話も合うし、やっぱ何処か似てるわけだし…

「それにね、それが本当の願いであるならば馬鹿ですよ」
「馬鹿馬鹿言うな」
「だってそうでしょう?それこそ星に願うようなものじゃないです」

眼鏡を押し上げながら本当に上から目線で腕組みのポーズも結局変えずに物を言う永四郎。
ええ確かにその通りですよ。でも、最初から冗談で話を進めててコレが嫌味だってことにも気付きやがれって話で。
ふう、と溜め息吐いてまた「馬鹿ですよ」なんて言われた日には…カチーンと来ないわけがなくて。

「だから!最初から星なんかに願いなんてしてないって!」
「当たり前でしょう。願い事なんてね、俺に言えばいいんですよ」
「はあー?」
「俺が叶えますよ。星なんかよりも確実に叶えてあげます」
「永四郎が願いを叶え……って、は?」

勢い余って「じゃあ叶えろよ」って言うべきだったかもしれないけど、それ以上に驚かざるを得なかった。
途中に「はあ?」って言った時だって相当馬鹿にしたような相槌で、内容なんかほとんど理解してなかったんだけど…
あ…って、何となく今分かった。だって、クソ真面目な永四郎の顔が少しだけ歪んで、少しだけ視線を逸らしてるから。

「……叶えてくれるわけ?」
「……叶えられる範囲であれば」
「優しくなれって言ったら優しくなるわけ?」
「元よりアナタには優しくしてるつもりですけど?」

……要するに、どうでもいいものに願いなんか告げず、俺に言えよって言いたかっただけのこと?
それがうまく言えずに「君、馬鹿じゃないですか?」に繋がるのであれば、永四郎も相当な馬鹿だ。
最初から「願いがあるならば俺が聞きましょう」くらい言ってれば……うん、私は笑って終わってたか。なら言えないか。

「……永四郎ー」
「何です?」
「沢山の星が見える場所でケーキ食べたい」
「……は?」
「だーかーら、沢山の星が見える場所でケーキ食べたい!」

願い事、叶えてくれるって言ったでしょ?だったら有言実行で叶えてもらうしかない。
永四郎の家、部屋に隣接して取り付けてあるウッドデッキ仕様のサンルーム。あそこなら沢山の星が見えるはず。

「……外泊許可は?」
「貰った」
「ケーキの予約は?」
「自前で作ってココにある」

感じ取るものがあって、何が言いたいのか分かったらしい永四郎はその真意を再度確認して頷いた。
どうやら、この簡単な願いは叶えてもらえるらしく、どうぞと言わんばかりに手を伸ばして来たからそれに触れて。
あーんなに道中で激論を繰り広げていたのが嘘みたいにまた穏やかなものへと変化する。

「その願い、確実に叶えてあげます」
「……さんきゅう」
「その代わり…俺の願いも叶えてもらいますから」


自分の願いが叶った後、あの時に頷いてなかったら良かったと心底思った。
日付変更線の向こうに力なくベッドに沈んでしまった私は、嫌でも永四郎の抱き枕みたいになって。
色々と文句くらい言ってやれば良かったのかもしれないけど、眼鏡を外した永四郎の顔があまりにも穏やかで、
有り得ないくらいに幸せそうなものに見えたから…私は何も言わずにただ寄り添って目を閉じた。


  星じゃ願いは叶えられないね。

  当たり前ですよ。君、馬鹿じゃないですか?






-星に願いを-
クリスマス企画2008、第六作目。
リクエスト頂いた香結様へ捧げさせて頂きます。有難う御座いました(081215)

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