LA - テニス

08-09 短編
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あの瞬間、俺の姫さんときたら目を真ん丸にさせて呆然としよった。
今まで色んなテでアプローチ掛けてもすんなり交わしてきよるなーと思いよった俺が初めて気付いた事実。
交わしよったんやない、単に気付いてへんかっただけ。そう、彼女は鈍い子やったんや。


本来やったら大学受験やからてカテキョとかお断り。成績も悪ないさかい遊んで過ごしてもオーケーや思うとった。
どうせそんまま外部受けんと上がるつもりやったし、それやったら今のまんまでも問題あれへんわけやし。
それが一転したんは高1の秋。仲間内があんまり騒ぐもんやから姉貴の通う大学の学祭に行った時のことや。
岳人のヤツが「侑士の姉ちゃん、すっげー美人なんだぜ」とか大ホラ吹きよって……ってコレはええとして。

「え?先輩の弟さん、なんですか?」
「あ…ああ、この厚化粧の弟の侑士言います」
「誰が厚化粧よ!」

同じサークルの後輩やった彼女は随分可愛らしいエプロン着て模擬店のウエイトレスしとった。
考えたら何のサークルなんかは知らん。何で模擬店でケーキとか売りよったんか言うたらアレや。サークル費稼ぎなんやろけど。

「先輩にはお世話になってるの。よろしくね」

ふんわり、花の香りがした。よう考えんでも分かる一目惚れやったんや。
その年の差は3つ、当時の俺からすれば物凄い差にも思えたんを今でも覚えとるな。


そっからはすぐ姉貴に直談判するもしばらくはからかわれるだけの生活をし、ようやく取り次ぐも条件付。
「私に跡部くんを紹介するなら」とか抜かしおってな、しゃーないから跡部に一肌脱いでもろてん。
ちゅうか、何の文句も言わんとすんなりオーケーした跡部の様子を見れば…そっちはそっちで何かあるんやろうけど。
ほんで今がある。週2、決して多ない小遣いから彼女を呼んでカテキョしてもろて。

「……侑士くん」
「何でっか?」
「説明ちゃんと聞いてた?」
「聞いとったよ?姫さんの説明やもん。ちゃーんとな」
「……少なくとも今は先生と呼ぼうよ」

好きやなあ、て、こうして会う度に思うんや。しっかりしとる部分もあるけど天然で花のよな人。
一生懸命教えてくれよる姿とか、小首傾げて大丈夫やろかーって俺の様子窺う仕草とか、可愛らしいねん。
同じ参考書の中、可愛らしい字で沢山の補足が書いてある。これって俺のためやんなーみたいな。

「んー先生とか堅い呼び方しとないなー」
「……それじゃ示しつかないじゃない」
「そんなんいらんやろ」

最初っからそんなつもりはないんや。せやけど教え方はうまいから助かってんのも事実やけど。
そうやない。俺は異性として見てもらうために異性として近付いたただの男や。
色んな工作して色んな犠牲を払って、ほんで近付いとるっちゅう男やで。示しなんかいらん。

「俺、ゆいさんのとこ好きなんやもん」

せやから素直な生徒なんかしたないねん。真面目な生徒もあの日で終わりや。
チョコを渡したあの日にそんなんぜーんぶ止めてしもてん。

「……好きやで」
「ゆ、侑士くん!」
「あれ以来、めっちゃ意識してくれよるんが嬉しいんや」
「なっ」

顔を真っ赤にして動揺しよる彼女はほんま可愛い。
こんなこう言うたらからかい半分のように思われるかもしれへんけどな、俺は本気で惚れとんねん。
どない言うたら通じるやろか。それをこうしとる間もずっと考えとる。先に考えとけって話やけど。

「ほんまに好きやねん」
「わ、分かったから…」
「何?何を分かってくれたん?」
「わ、私を、好きだって、こと…」
「ほんなら付き合うてくれるか?男として」
「そ、それは…」

押しに弱い姫さんなんやね。ジッと顔を見つめれば目は泳がせてオロオロしよる。
あと一押し、なんやろか。それとも引くべきなんやろか。次の手を考えてくすくす笑うとったら不意に動き始めた。
自分の鞄の中、ちょお震えよるんか何回かボスッと何かを落としつつもようやく引き上げたもの…
お返しとかする習慣ないねんからすっかり忘れとったな。今日、ホワイトデーやん。

「志望校、合格したら…ね」
「言うたな」
「へ?」
「合格したら俺から絶対逃げられんで?」

言うてへんかったけど志望校は姫さんの通う大学やで?それでもそない言うてええんか?
そう俺が口にする前に彼女は少しだけ戸惑いながらもお返しを押し付けて「逃げも隠れもしない」と呟いた。

「合格するまでは、先生なんだからね」
「ほんなら…それまで待っとかなあかんよ?」
「……待ってる」



キミにあげる
(受験合格とか、先考えたらチョロいもんやろ)



(090520)
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