LA - テニス

08-09 短編
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今日も下らないことで喧嘩が始まった。


「捨てなさい」
「嫌。まだ着れるし」
「もう一年以上着てるとこを見てませんが?」
「それでもまだ着れるのよ」

そんな勿体無いこと出来ない、と強く主張すれば顔色も変えずそれを否定する男が居る。
此処、私の部屋なんですけど。決して目の前に居る観月の部屋じゃない。
それなのに何たってこの男は自分がまるで家督のような言い方をするんだろう。

「この調子じゃいつまで経っても散らかったままですよ」
「いいじゃないそれで」
「貴女ねえ…」

誰かを此処へ招き入れるわけでもなし、観月は勝手に此処に来るだけのこと。
だから観月は散らかった部屋にも慣れてるじゃない。だったらそれでいいと思うわけで。
ただ、そんな私の部屋に来ては片付けをしていく彼に溜め息は出てくるんだけど…

「少しくらい掃除しなさいな」
「観月がしてるじゃない」
「僕は家政夫ではありませんよ」
「でも観月がいつも勝手にするから」
「だからって家主がしないのはどうかと思います」

なら勝手にどうかと思っておけばいい。
そう言いたかったけど烈火の如く観月を怒らせたくないから口にはしないでおいて。
掃除をするしないの押し問答、捨てる捨てないの押し問答は続く。
どうしてこうも性格が違うかな…でもそれは、長年の付き合いで十分承知してることだけど。

「もう埒が明きません。分別していきますよ」
「え?ちょっ…」
「これは…随分前に一度だけ着てましたね。これは捨て」
「ええ?勝手に決めないでよ!」

観月が持つ服を奪い返して畳み直して自分の近くへ。
片っ端から観月が手にしていくものを奪い続ければ、彼は溜め息を吐きながら私を見る。
諦めてくれたのだろうか、脱力した彼を私も見ていれば…予期せぬ一言を言ってのけた。

「僕と一緒になったらこうはいきませんよ」



-価値観-
観月編(090305)


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