LA - テニス

08-09 短編
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口癖になるくらい「寒い」という言葉を連呼しながら歩く道。
冬に突入してるんだからそれは当然のことだけど我慢出来ないくらい冷え上がる今日この頃。
マフラーはしてるけど肩は上がりっぱなし、コートは着てるけど腰は少しだけ曲がって…結構情けない姿の私。

「今日は結構冷え込んだね」
「……その割に精市は元気だよね」
「うん。俺はそこまで冬が嫌いじゃないから」
「そういう問題かな?」

さすが精市。「冬の寒さを経ざれば春の暖かきを知らず」を座右の銘に掲げているだけあるわ。
装備は特に私と変わりないっていうのに堂々と歩いて…嫌でも女の子が振り返る。ついでに男も振り返ってるけど。
それは仕方ないことだよね。精市ってば無駄に美人なもんだからコート姿でいれば少しデカい女の子にも見えなくない。
うーん…何をどう間違えて私たちはこうなっちゃってるんだろ。恋人に…見えるか見えないかの瀬戸際だったりして。
そんなこと地味に歩きながら考えてたらズーンと落ち込んじゃう。何だかなー釣り合ってない気がする。

「何?何か凄く難しい顔してるけど」
「いやー…精市ってば無駄に美人だなーと思って」
「無駄に、は余計じゃない?」
「突っ込むところが少しズレてるよ」

……前から気付いてはいたけど…精市は天然だ。
今だってズレてるって言われても「そう?」くらいの反応でにこにこ微笑んでるだけ。しかも「女装とか似合うかな?」とか。
に、似合うと思うよ。いや、そりゃもうビックリするくらい似合ってどうしようかってカンジにはなると思うけど…そこ、ですか?

「いや、女装は似合うと思うけ――…」
「あれ?今日は手袋してないね」
「……スルー?」
「珍しいね。だから余計に寒いんでしょ?」
「……はい」

一切合切の話題をスルーして精市は鞄を持つ私の手をマジマジと見つめています…
テニスしてる時の精市とはかなりギャップがあるというもんで…どんだけおっとりしてるんだろ。マイペースすぎっしょ。
こういう風じゃ間違いなく、「道を教えて下さい」とか言っときながら逆ナンに違いないお姉様のターゲットになりかねないわ。
と、会話の噛み合わせの悪さに言葉を無くしていれば、彼がスーッと私の手を取って…みゃ、脈を計ってる…?

「脈拍数も少し下がり気味かもね。指先は凄く冷たいし…」

う、うん。よく分かんない言ってるんですが…うん、確かに指先は冷たいね、くらいしか私は返答出来ないですよ。
凄く真面目な顔してそう言われたら突っ込んでいいのか悪いのかも分からなくなっちゃうわ。てか、私の通常脈拍値知ってるの?

「そうだ。俺の手袋半分貸してあげる」
「え?」
「お互い荷物持ってる方に手袋すれば大丈夫」

「ねっ」て笑い掛けて来る精市を横目で見ていた男性が…少しクラッとしていました。
そんなことに気付くことの無い彼はいそいそと自分の手袋を外して、わざわざ私の手にそれを付けてくれて。
「これであったかいでしょ?」と手袋をしていない方の手を取って「ねっ」とか言ってまた微笑み掛けた。
……今度は横を通り掛かった女子高生が精市を見てキャッてなっていました。気付いてないだろうけど。

「……精市」
「ん?」
「も少し…周りを見た方がいいよ」
「あ…ちょっとイチャイチャしすぎた?」
「いや…そうじゃなくてやね」
「俺の方が好きで好きでしょうがないんだ、て周りに伝わればいいと思う」
「……はい?」
「だって皆ゆいの方見てるんだもん。気付かない?」

――そ、それは何か見方が間違っていますよ精市さん!!
と、そこを正そうと必死になって説明をしていくけれども彼は天然の割には頑固なところもあって納得しない。
逆に「自覚ないの?」って言われた日には「どっちが!」と激しくも突っ込みを入れないわけがなくて。
彼に見えてる世界に物凄く興味があるわ…と溜め息を吐いた私に精市は「溜め息は良くないよ」とかまた論点はズレる。

「精市って…本当に天然よね」
「かもね。だからこそ――…ゆいが俺には必要なんだ」

彼は笑って強く手を握って来た。私は恥ずかしくなって…少し顔を伏せた。
気付けば私の体温は異様なくらい上昇していて、寒さは何処かへ吹っ飛んで跡形もなく消えていた。





-スペシャリスト-
笑顔でそう言われちゃったら…ねえ(090118)


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