LA - テニス

07-08 携帯短編
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高いところ
昼休み、気まぐれに散歩しとったら不思議なもんを見つけた。

「……煙とナントカは高いとこが好きや言うけど」
「あ!忍足!」
「自分何やっとるん。そないなとこで…」

俺の通常の目線より上、中途半端な太さの木のかなり高い位置に志月がおるんを見つけた。
しかも制服姿、ちゅうか微妙に生足出とって…まあ俺としてはアレやな。ラッキーっちゅうてもええよな眺めや。
そないなことを思うとる時点で変態か!て言われても困るさかい、口には出さんと目細めて志月を見た。
ちゅうか…ほんま何しとるんやろ、こん子。木にしがみつかんと、さっさと降りればええのに。

「いや、猫が木に居たわけですよ」
「……ほんで?」
「切なそうに鳴いてて…」
「?猫おれんのやけど」
「裏切られて…降りれなくなっちゃったわけで…」
「はあ?」
「忍足助けて!!」

えっと…よう話が見えんのやけど。要は木に登ったんは良かってんけど降りることが出来ひんっちゅうこと。
もっと補足付けたら木におった猫が鳴いとって、それがめっちゃ気になって猫目線で近づいてって…裏切られた。
いや、この場合は裏切られたんとちゃうくて、警戒されて逃げられたっちゅうんが正解やな……て、
それは置いといて。え?何や俺は助けなあかんのかいな。ちょおめんどいんやけど、せやけど見捨てるんは…

「……ほな、俺が誘導したるさかいソレに従って」
「無理!私、高所恐怖症なんだよ!登るのは良くても降りるのは…!」

何やねん。がむしゃらに登っておきながら降りるん怖いとか…まあ、ようあるんかもしれへんけど計画性ないなあ。
ちゅうか無茶しすぎやろ。頑張り屋さんやなあ。俺やったら猫鳴いとっても気にもせんとこやのに。
感覚ちゃうっつーか、むしろ性格の問題なんやろか。あー…普段からちょお天然、ボケたカンジやもんな志月は。
しみじみそないなこと考えよったら、木の上から俺の名前連呼されて不意に我に返る。
せやなー…誘導があかんかったらハシゴとかがええんやろか。倉庫まで取りに行くんは面倒なんやけど…

「忍足、ハシゴ借りて来てよ」
「え?」
「ね、お願い!じゃないと降りれないよ」
「…………嫌や」

何やろ、必死に助け求めとる志月見よったら逆にオモロなって意地悪したくなって来たんやけど。
これでもか、っちゅうくらいに木抱き締めて、下見んのが嫌なんか俺の方見る度に足震えとるんが分かる。
ただでさえちっこいのに更に輪掛けてちっこくなる志月見んのは不思議と嫌やない。むしろ、もっと見たいわ。

「は?」
「嫌やって言うとんの。倉庫遠いやん」
「そ、そんな問題?人命救助は?」
「それ以外の方法で考えたるわ」
「はあ?」

困らせたなるとか人が悪いとは思うで?可哀想なことしよるなー自分、とか思いはすんねんで。
せやけど、この場合はアレや。志月が悪いて思う。俺がツボに嵌るようなことしよるんやから絶対志月が悪い。
ただでさえ足とか晒しとって、それ眺めるんも悪くないて思いよるんに…怯えよるとこも可愛えとかあかんやろ。
ちゅうか、ほんまええ足しとるんやなー全然気付かんかったわ。ちっこいもんやから見えへんかったんやろか今まで。

「さて…どないやって姫救出しよかな」
「救出言うな、救助にして!」
「どっちゃでもええやん。助けるんには変わりあれへんもん」

くすくす笑うて上眺めとったら恐る恐る下向いた志月がごっつ睨んで来る。勿論、足震わせながらや。
そないに可愛えとこがあるとか知らんかった…とか、口元を手で隠しながら笑うてまう自分はサディストなんやろか。

「ねえ忍足ーどうでもいいからハシゴー」
「嫌やっちゅうねん。倉庫遠いやん」
「借りはちゃんと返すって!ね?だからハシゴー」
「志月はアレやろ。恩を仇で返すタイプやろ?」
「忍足と一緒にすんな!」

失礼なヤツやな。俺は恩を仇で返したりはせえへんで。
せやね…受けた恩は二倍して返すタイプやで。女の子やったら三倍にしてもええくらいの恩で返したるわ。
ただ、その恩が恩として受け取られへん可能性があるっちゅうだけで…ほら、人って価値観ちゃうもんやろ?
そこら辺の擦れ違いはあるかもしれへんけどなあ。多少なりとも、少なからずとも、な。
さて、そろそろほんまに助けたらんと昼休み終わってまう。助けたらんといよいよ大変なことになるな。

「志月」
「何?ハシゴ持って来る気になった?」
「それは無理。とりあえず…飛べるか?」
「はあ?私、羽根の持ち合わせないんだけど!」

……そんなん俺かてないわ。

「俺が下で抱き止めてやるさかい、飛べ」
「嫌ー!忍足絶対受け止めないし!」
「受け止めるて。そうせんと殺人になるやん」
「それでも絶対受け止めないでしょ?しれっと授業とか出るんだ!」
「……どんだけ信用ないねん」

折角、俺が身を粉にしてやるって言うとんのに志月は「無理」と「嫌」と「死ぬ」を連呼する。
借りは返してくれるんやろ?恩は恩で返してくれるんやろ?せやったら大人しゅう抱き止めさせえって話。
……要は抱き締めたいだけなんやけど。何なんやろな、今までこんな気持ち抱いたこともあれへんのに。

「抱き止める。絶対抱き止めるさかい。木から手離して来いて」
「……本当?」
「男に二言はない」
「潰れても…文句は言わない?」
「志月に潰されるほどヤワやないで」

と、こんな問答を数回繰り返すことで意を決したのか。志月の表情が少し変わった。
志月が降りて来るだろう位置に俺も移動して、手を広げてスタンバイすれば頷く志月がよう見える。
ついでに言うたら足も見えとるし、どうかしたらスカートの中も見えんねんけど…まあ、そこはさておき。

「忍足…命預けたからね!」
「……んな大袈裟な。まあええ。俺目掛けて飛んで来い」

そう言うて志月だけ見て俺も集中する。
手が離れてスローモーションみたく見える落下してく志月は思いっきし目を固く閉じとって、俺はそれを見る。
真っ向落ちてくる志月に触れた途端、時間と重力は加速してもうて踏ん張ったんやけど…転倒してしもた。

「お、忍足!!大丈夫?生きてる?」
「……まあ、生きてはおるな」
「う、腕!あばら!脳ー!!」

……何なんその体の一部分のチョイスは。
せやけどまあ、えらいサービスええんやね志月て。首に手回してぎゅーって抱き付くとか、簡単にしてええん?
木から降りて来た志月はやっぱちっこい体で、重いとか潰れるとかいうもんには程遠い体しとって。
言うなら思うたより柔らかい。ええ香りもしよる。思うた以上に女の子なんやなーみたいなことを考えてしもた。
ちっこいけど一応胸もあって柔らかいしな。この構図もまた…悪いもんではないな。

「大丈夫。どっこも痛くあれへんさかい。志月は?」
「生きてる!何処も痛くないっぽい!」
「ほなら良かったわ」

とりあえず状況的に俺も志月の腰に手回してぎゅーとかしてみたり。
コレしたら流石に志月がハッとしたんか、首から手離そうしよったら阻止して離れんようにして。

「なっ、何して…っ」
「んー何しよるんやろなー」

心地ええ生き物発見したわ、て笑いながら言うたらジタバタもがき始めよるさかいもっとぎゅーってして。
こんな風に抱き締める癖とかあれへんのに不思議やなーくらいの感覚で今は、志月の体を抱き締めたった。



END
鈍感かつ変質な忍足。
やはりマイペースがテーマ。



(080727)
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