LA - テニス

07-08 携帯短編
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誰が何の断りも断りもなしに校門に無駄な竹を設置やがって、当然んなもん撤去してやろうと思ったけど…
「景吾!願い事書かなきゃ!」って、馬鹿みたいに喜んではしゃいでるヤツが居て…その考えは水に流れた。
運が良かったとしか言い切れねえよな、この竹。ゆいが居なかったらとっくに撤去されて燃やしてたとこだ。
つーか、誰だよ。こんなとこに馬鹿みたく竹なんか置いたヤツは…まさか太郎じゃねえだろうな。

「あ、短冊も用意してあるよー」
「……」
「はい、景吾の分」

……この場合、俺に与えられた選択肢はどっちだろうか。
1.嬉しそうにしてるゆいに気付かれねえように溜め息を吐いて、仕方ねえから短冊を受け取る。
2.とりあえず…このどうしようもなく可愛い生き物を抱き締めておく……って、後者を取った後なんだが。
くそ、何だこの生き物。無駄に可愛く思えるとか俺の欲目なんだろうか。とりあえずは気が済むまで抱き締めとく。

「景吾…くるし…っ」
「てめえが悪いんだろ」

くそ…俺の方がゆいを好きみてえで情けねえ。もっとこう…お前から詰め寄って来いよ。お前の方からもっと…
最初に言い出したのはゆいの方からで、告白された時は言わなかったが俺はそれより前からお前が気になってて、
ふんわりと笑う顔が好きで、どうしようもなく天然なくせに馬鹿みたいに真面目な面も持ってて…くそ!俺が惚れすぎてる。
ペースの掴めない恋をしてる、俺らしくもなく相手に翻弄されてばっかの――…

「ね、願い事書いて昼休みに一緒に飾ろう?」
「……ああ」

どうしてだろうか。俺の方がどんどん気持ちがデカくなって、手に入れてるはずなのに…どんどん平等でない気がする。
不安とかじゃねえ。大丈夫、コイツは俺に惚れて隣にいるんだって分かってて変な感覚が襲ってきやがる。
そんなこと考えてるいるとは露知らず、ゆいは短冊を持って俺の手をしっかり握って歩き始めていた。



願い事を書いといて、そう言われて眺めに眺めた短冊。
昼休みになって、もうすぐゆいが来るってのに…書く内容が全く浮かばない。つーか、願い事とか、書くもんじゃねえよ。
ここはやっぱりアレか。「世界征服」とか書くべきなんだろうか。それとも「健康第一」か?嫌だな、そんな願い事。

「おーい、跡部ー」

んなこと本気で考えてたら間抜けな声を出すヤツが居た。

「何だよ宍戸」
「いやな、英和辞書を借り…って何やってんだよ」
「……短冊に願い事書いてんだ。何か悪いのかよ!」

くそ、余計なこと知られちまった。俺様が馬鹿みてえに短冊に願い事とか…笑いモンだろ!笑ったら殺す、絶対。
そう目で威嚇はするものの、宍戸は微妙に笑いを噛み締めながら言う。「志月が言い出したんだろ」って。
……大方、ゆいは教室で嬉しそうに短冊に願い事でも書いてたんだろうよ。つーか、同じクラスだったな宍戸は。

「アイツ…書いてたのか?」
「ああ。チラッと見たけ――…」
「何書いてたんだ?」

よく考えたら…ゆいの願い事って何だろう。アイツ、何も欲しがらなければ強請ったり強要したりとかない。
ただ傍に居て、傍で笑って、いつもふわふわした笑顔を俺に向けてるだけで…他は何もねえ。言われた試しもなかったな。
誕生日だってそうだ。約一ヶ月前だった。その時に「プレゼント」って言い掛けただけで「何もいらない」って言われて…

「お前のことだったかな?」
「はあ?」
「つーわけでお前も志月のこと書けよ」
「ちょっと待て!俺のことって何だ、答えろ宍戸!」

つーか、勝手に人の机ん中から辞書奪って逃走してんじゃねえぞゴラ!肝心なこと教えねえで逃げるのかよ!
走って捕まえて叫んで吐かせても良かったが…時間がねえ。つーか、もうすぐゆいが弁当抱えて来る時間なんだよ。
願い事、願い事…でゆいのこと?何も不満もねえし、何も悪いこともねえし、ただ、俺が好きすぎてるだけで――…



「景吾、何書いたの?」

弁当を持って、それより前に短冊を付けたいってゆいが言うから校門に来て、短冊を取り付けた。
よっぽどコレが楽しかったか、付けることが嬉しいのか、朝と同じくらい嬉しそうにするゆいとは裏腹に俺は落ちてた。
そういうお前こそ…何書いたんだよ。俺のことって何だよ。そう言いたくてしょうがねえけど聞けなくて。

「勝手に見ちゃお。えっと――…」

――ゆいが俺以上に俺を愛せ。
何も不満もねえし、何も悪いこともねえし、ただ、俺が好きすぎてる。だから俺が望むのは…それを越えるもの。
だって悔しいだろ?俺ばかりがゆいを好きで、愛してて。悔しいからもっと俺に溺れればいいんだ。ゆいも。

「……景吾」

俺の短冊の内容を見て、はにかむように笑って見せてくれたゆいの短冊。
宍戸が言う通り、確かに俺のことが書いてあって…けどソレは俺が考えてたものとは違った。悪いことだと思ってたから。
でもよ、その願いは…すでにもう叶ってると思った。だから…また強く抱き締めることで知らしめようと決めた。

――景吾にもっと私を好きになって欲しい。



短冊の願い事(080706)


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