LA - テニス

07-08 携帯短編
66ページ/80ページ


あーもう分からん。ほんまによう分からん。
イライラしてしもて髪をガシガシ掻くけど全然スッキリせえへんのな。
ちゅうか、大体何やねん。ちょお俺がミスって約束忘れてしもたくらいでプリプリしてからに。
いや…そこは俺が悪いねんけど、せやから慌てて電話したったら「もういい」で切られてしもた。
俺が悪いんは分かる。せやけど一方的に済ますっちゅうんはどないやねん。しかも連絡返さんし。

「オーイ侑士……って何キレてんだよ」
「ああ?何や岳人かいな、ちゅうか聞いてんか!」
「お、おう…何だよ珍しいじゃん」

珍しい、せやね珍しいかもしれへんな。俺が不機嫌なのは珍しゅうないけど岳人に話すんは珍しいわ。
大抵、愚痴とかってのは自分ん中で消化しとって、岳人に言うても意味あれへんし…て思うて言わんかったけど、
今日は言いたい気分やねん。誰かに言うて「ソレ、志月も悪いな」て言うて欲しい。

ちゅうわけで、本日のイライラの原因を岳人に分かりやすう話してみる。
昨日、彼女のデートの予定やったんを自分が忘れてしもうてて…待ち合わせ2時間後に気付いて電話して。
ほしたら当然、彼女はキレとってそんまま電話はプッツン。その後の電話も出えへん、メールも返ってけーへん。
俺が確かに悪いとは思うんやけど…ゆいも悪うないか?って話したら、岳人はうんうん言いながら頷いとって。

「で、侑士は結局待ち合わせ場所に行ってねえの?」
「は?そら…行ってへんけど…」
「だったら侑士が悪い」
「な、何でやのん!」

てっきり同調してくれとるもんて思うとったんに…岳人、きっぱり俺を切り捨てた。
せやけどな、「もういい」って言われてんで。「もういい」言われてしもたら行っても意味ないやんて話で。

「お前さ…ずっとテニスばっかで彼女放置してたわけじゃん」
「……そら、ま、そうなんやけど」
「ようやく解放されて、久しぶりのデートだってのに忘れてたこと自体が最低」
「そ、そら…最低、やんな…」
「もっと悪いのはその後、何言われても待ち合わせ場所に行かなかったことだな」

うんうん、て何一人納得して話しよんねん。俺にはお前の話が全然理解出来てへんっちゅうねん!
大体、待ち人おれんのに待ち合わせ場所に行く必要あるか?行き損やんか、意味あれへんやんか。

「多分待ってたと思うぜ。それでも侑士が来るて信じて」
「……え?」
「何だかんだでさ、志月って辛抱強いじゃん。色々言うけど結局は相手に従うカンジでさ」

逆に言えば…ちょっとした我儘だったのかもな、て岳人は言うて溜め息吐いた。
せや…俺、何だかんだで自分のことはお願いしとって、それに文句言いながら付き合うゆいがおって。
文句ばっか言うんやけど…結局は付き合うてくれるんやん、くらいのことで全部終わらせとった気がする。
結局、何だかんだで折れとって、結局はそれで済んで…せやけど、俺はそないなことあったか?

「侑士がムカつくのも分かるけどよ、駆けつけて欲しかったじゃね?何を言われても…」

考えることが出来ひんかった、てことなんやろか。ゆいのこと、どないしたらええんやろ、てことを…
何やねん…よっぽど岳人の方がゆいのこと分かっとるみたいやんか。俺のが好きで、ずっと傍におんのに。
悔しい、悔しいんやけど。結局、ゆいの優しさに甘えとっただけなん?結局、気持ちとか分かっとらんかってん?

「あーもう!辛気臭え顔すんなって!今から謝れば――…」
「どないな面下げて謝れ言うんや」
「そんな面でいいんじゃね?」

……何気に酷い言い方しよるな、岳人のヤツ。普段やったら処刑やで処刑。
謝って、許してくれるんやろか…まだ怒っとるんやろか。もうそないなことばっか頭にあって、どうしてええか分からん。

「あー!なら願担ぎでもすっか?」
「……何やねんソレ」

願担ぎて…受験前にお守り買うんのとはワケがちゃうねんで今回んは。
そう岳人に溜め息吐きながら言うたったら、何やよう分からんけど取り出して来たんは…長方形の折り紙?

「ほれ、校門で配られてた短冊だ」
「……何なん」
「それに仲直りしたいって書けよ」

……阿呆ちゃうやろか、てほんまにストレートに思うてしもた。今時短冊に願いとか…
あ、せやけど、何となしに通って来た校門に何か笹の葉付いた竹があったような気すんなー…あんま気にしてへんかったけど。
ああ、それで短冊配って……って、岳人。もしかして何か願い事書く気やってんやろか…その年で。

「いーから黙って書けって!」



泣く泣く書かされた短冊片手に、わざわざ昼休みに校門行くとか阿呆らしいな。
せやけど、そないな時に限って色んなヤツと擦れ違う。鳳とか宍戸とか…跡部に会うたんが一番ビックリやわ。
まさか…皆短冊に願い事書いて付けたんとちゃう、よな。いくら何でも岳人やあるまいし…ちゅうか、岳人は書きすぎや。

「ほら、付けようぜ侑士!」

何がオモロイんか、むっちゃはしゃいで短冊を付けよる岳人の横。適当な場所にとりあえず付けたろーて思うて手を伸ばす。
上の方に付けたら逆に目立つかもしれへんから目線の下、灯台下暗しってやつな。それを実行しよう思うて…ふと気付いた。

薄いピンク色の短冊が一枚。ひらひらと舞う。
同じこと考える子もおるんやね、そう笑うたんも束の間。小さく隅に書かれた名前に反応して、それを無理やり引き抜いた。
さすがに岳人もビックリしたみたいやったけど、それに構わんと俺は校門から走り出した。校舎に、教室に向かって…

「オイ!ゆう――…」
「願い事叶えて来るさかい!」


――もっと素直になって、謝れますように。


俺の願い事を叶えられるんはゆいだけ。仲直りしてくれるかどうかはゆい次第やから。
逆に言うたならな、短冊に書かれたゆいの願いを叶えられるんは、俺だけなんや――…



---短冊の願い事(080706)


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ