LA - テニス

07-08 携帯短編
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まぁ待てって



そう言われて待つ人など居ません。
ズバッとそう言ってやっても良かったけど、とりあえず今は追い付かれないように廊下を猛ダッシュするしかない。足は速い方じゃないし、追い付かれたら終わりだし、とにかくダッシュする。近場の女子トイレまで。そうすれば確実に逃げ切れるし、その後の対応なども出来るってわけで… よし、頭の中は真っ白だけど作戦は完璧だ。走りながらも小さくガッツポーズしてみたり。

「とーまーれー!」

そんなん断ります!逃げるために走ってるのに止まれとか無理言うな。お前が追って来なければ止まるし、逃げるのも止めれるんだけどな!とか振り返って言うことも出来ず私はまだダッシュを続ける。てか、こんなに遠かったっけな…女子トイレは。そんなことを考えながらも足は止めない。

「お前、今止まんねーと逃げ癖…」
「逃げ癖上等!」
「んな時だけ返答すんな!」

ヤバイな…どんどん足音が近づいてる気がする。でも、同じくらい女子トイレも近づいてる。大体ね、私は体育会系じゃないんだよ。確かに所属は運動部でもね、どちらかと言えば文化部系なのよ。それを無理矢理走らせる方に問題はあるし…てか、凛が全て悪い。もう全部凛が悪い!
事の始まりは本当についさっきのこと。何気なく屋上で「暑い暑い」言いながら凛とアイス食べてて。物凄くのんびりと授業をサボるかどうかを思案してて、何だろう…よく分からないけど凛がおかしくなった。本当に急にネジって外れるもんだねーて今は思う。突拍子もなく凛のネジ、外れたから逃げてるとこ。

「ちょっ…マジ止まれ!」

だから、そう言われて止まるヤツはいないって。
もう長いこと凛…だけじゃないけど、今いるメンバーとは付き合いがあって、仲良くしてて。一緒にも遊んだし、海にもよく泳ぎに行ったし、何げに家にも行ったりしてた。ああ、してたさ。それくらい仲がいいのは皆同じで、変わらなくて、それなのに…凛がネジ飛ばした。

「っにぎゃ!」
「やーっと捕まえたさー」

トイレ目前、本当に目の前まで来たっていうのに…何てこった、捕まった。

「お前、こういう時だけ足速いとか有り得ねえって」

捕まえられて立ち止まってしまったら…急に足に来るあたり運動不足だろうか、いや、運動部にいながら運動不足って、ねえ。だけど、同じくらい息を荒立ててる凛の様子をみれば、今までにないくらいの底力を私は見せ付けたらしい。これが部活に活かせたならば、レギュラーになってもおかしくないんだけど。うん、世の中うまくいかない。底力って底にあって隠れてて、突拍子もない時に登場するから底力って言うんだろうね。アバウトに。

「何で逃げる」
「いや…凛のネジ外れたみたいだから」
「俺のネジ勝手に外すな。んなことねえし」
「でも絶対外れてる!じゃないと…」

それ以上、言葉が出ない。
だって…本当に何気なく普通にアイスとか食べてたんだよ。「暑い暑い」言いながら何気ない会話としてて… 急に凛があんなこと言うから、逃げるしかなくて、他に方法が見つからなくて。

「好きなもんを好きって言って何が悪い」
「それがネジ…」
「だから飛んでねえって!俺はずっと――…」

言葉は響く、私の耳元で。
凛の馬鹿。二度も三度も同じことばっか言って、勝手に抱き締めたりすんな。心臓…馬鹿みたいに鳴って、これじゃまるで私も…みたいな感覚に陥るじゃん。つい数分前までそんな雰囲気でもなかったのに、こんな…ドキドキすることもなかったのに。どうしてくれるんだ、ホント。

「……お前が好きだ」

くそう、何かもうヤバイじゃん。

「仲間とか友達とかじゃ嫌だ」

さらさらの髪が触れて、触れられた場所が熱くて、体感温度が上昇する。ただでさえ、この地域は暑いっていうのに余計に暑くて熱くて、どうしてくれるんじゃ。

「俺はお前の特別になるんだ」



御題配布元 CouleuR この言葉で始まる5のお題「まぁ待てって」

ふとした瞬間にネジ外れそうな平古場。
ドキサバでは勇気が欲しいって言ってたな(080410)


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