LA - テニス

07-08 携帯短編
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強引やったかもしれへんけど、取り付けた約束を果たすために走る。
そしたら家庭科室の明かりはまだ点いとって、中で彼女が片付けしとるのが見えた。
思わず「ゆい」って声掛けたらめっさ驚いた表情で振り返りおった。
せやったな…「ゆい」て名前で呼ぶんは部内と心の中だけで本人は知らん。
勝手な片想いで、勝手な行動ばっかやったけど…今日だけは許したって、な?



口づけの意味



ずっと一方的な片想いやった。自分でも情けないくらいに、片想いやってん。
たまたま見てたグラウンドでめちゃめちゃ可愛らしい花を見つけた。
友達に差し入れする子、ふわりと微笑んで…美味いて言われたんか更に嬉しそうに笑うて。
俺らしゅうもない一目惚れやった。ホンの一瞬の出来事や。
ほんで嬉しそうに戻って来よる彼女はこんな俺に気付かんとスーッと通り過ぎた。
心臓はバクバク言うて…これはもう確信的やった、俺が恋に墜ちたていう――…



「あ…お疲れ様、です」
「ああ。ゆい…サンもお疲れ」

さっき呼んどいて何やけど、ホンマ今更やけど思わずサン付けしてもた。
俺は心で何度も呼んでんけど彼女からすれば急すぎな展開や。俺、まだ何も告げてへん。
鈍なかったなら、ちょい前の行動の時点で読めるとは思うねんけど…めっさ鈍そうやしな、この子。
てか、目…綺麗やな。俺を見る目、めちゃめちゃ綺麗なんやけど欲目かいな。

「さっきもろたクッキー、折角やし皆で食べた。おおきにな」
「え?み、皆?」
「おう。自慢がてらな。またお願いしたいて」

自慢、したかってん。勝手な片想いやって皆が馬鹿にしたさかい。特に跡部と宍戸な。
行動力なさすぎやて言われてんから…悔しゅうてな。ついつい自慢したったわ。
ほんなら皆、クッキーだけしか目がいっとらんで俺の話は聞いてへんかったわ。ムカつく。

「あ…あの…」
「また作ってくれへん?」
「でも、さっきは甘いの…」

嫌いや。嫌いやけど、ゆいのだけは特別なんや。
甘くても異様に辛くても全然味がのうてもええ。上手に出来てへんでもかまへんねん。
それが俺のために作られたもんやったら俺はなんぼでも食う。永遠に食うてもええ。

「暗なったな。送って帰るさかい」
「あ…はい」
「ほな。火元と戸締りしてき?校門で待っとるさかい」

窓の外から手を振れば、彼女はまだオドオドした様子やった。


いつも見とった。俺に気付かへんかなーて、目で追うんが恥ずかしいけど習慣やった。
で、今日初めて目が合うた。たまたま、たまたまやってんけど射抜かれた。
どうしょうもないくらい、好きになっとる自分に気付いて…わざと家庭科室に行ったんや。
そこに彼女がおることを知っとる上で、わざと行ったんや。初めて、自分から…

――あ…良かったら味見しますか?

彼女は折角の縁やからて、焼いたばっかのクッキーを差し出して…誕生日やからて。
心臓はバクバク言うた。手には汗掻いて、微妙に体中が緊張して震えそうになって…
あの時、ホンマは抱き締めたかった。めっちゃキツく抱き締めたかった。


「あの、お待たせしました。忍足…さん」


――むしろ、何で私の名前を?

彼女の中で芽生えた疑問、俺という存在の認識。それが嬉しゅうて…動いた体。
小さな唇、触れたかってん。そんなこと言うたら変質者とかセクハラとか言われとったやろか。
せやかて俺はゆいが好きで、ホンマに好きで…それだけは抑えられへんかった。

「ほな帰ろか。ゆい」
「あ…あの…」
「ん?」
「手、繋がなくても…子供じゃありませんし」

今も色々抑えられへん。ホンマに色々抑えられへんねや。
彼女にどう映っとるかは分かれへんけど、俺はずっと触れたかってん。話したりとかしたかってん。

「そんなん、分かっとるで」
「えっと…」
「ゆいの質問、答えとくな」

今、何も思うてないかもしれへん俺のこと。それでも俺はずっとゆいで頭はいっぱい。
いっぱいでむしろ、それしか頭にないもんやから…今度はゆいの頭ん中を俺だらけにしたい。

「1、ゆいの名前。調べたから知っとった」
「え?誰から…」
「差し入れ友達。んで2、何で家庭科室に来たか。ゆいがおるて知っとったから」
「……はい?」
「3、何でチュウしたか。体が勝手に動いたから」
「……はあ?」
「4、何でゆいに待っててもろたか…」

手を繋いで歩く。まだ付き合うてもないのにキスしてもうて、こうして手繋いで歩いて…
順番、色々違うてるけどそれでも今日だけは許して。俺、誕生日やねんから。

「告白、しよう思うたから」

あ、また驚いとる。ガラス細工みたいな綺麗な目が真ん丸になっとるで。
確かに順番間違うとるし、彼女からすれば急やし、驚かせてばかりやねんからな。
でも…気付いて欲しかった。見てるだけじゃ始まれへんて、目が合うたその時分かったから。

「5、手繋いだ理由。そういうわけやから」
「あ…あの…」
「ゆい、めっちゃ好き。今は何とも思うてなくても俺を好きになって欲しい」

コレ告白ちゃうな。俺の願望やんか。
何か情けないわ…うまいこと告白出来てへんやんな。一生懸命考えてんけど…

「好きやから、好きになって欲しい」
「あの、それは…」
「冗談やない。本気で、本気で…気付いたらめっちゃ好きになってん」

確かに話したことあれへんけど、ずっと見て過ごして来たんや。
もしも、ゆいの生活を追った映像があったとしたら…そこには必ず俺が映っとる。
軽く犯罪まがいの行為やけど、ずっとずっと目で追って、キッカケとか欲しゅうて…

「好き、です」

なあ、そこだけはわかって。好きやっちゅうことだけはホンマやから疑わんで。
こんななってもうたんはゆいの所為や。あの日の笑顔が、俺をそうさせてんから。

「あの…私、忍足さんのことまだ良く…」
「これから知って欲しい。付き合うていくうちでええ。好きにさせる自信は…ないねんけど」
「自信、ないの?」
「こればっかはゆいの心が決めることやし、な」
「……意外」

あ、笑うた。あの日に見たふんわりとした微笑み。
俺だけに向けて笑うてくれたんよな?今の笑顔、そうやろ?ゆい。

「今の笑顔のまま…」
「え?」
「今の笑顔、俺が絶対守るさかい。だから…」

あれ?俺…何言おうて思っとったんやけ?アカン、真っ白になってもた。
今の笑顔にやられてしもたんか?ほれ、はよ思い出せ。思い出さんかい俺。

「忍足さん」
「ん、あ、はい!」
「今日…忍足さんに興味出ました」

あ…めっちゃ可愛い顔しとる。笑顔やねんけどちょい赤うなっててめっちゃ可愛い。
あかん、これ以上バクバクさせんといて。そろそろ呼吸しづらなってきたわ。

「まず忍足さんを知ることから始めさせて下さい」


抱き締めたらあかんかったやろか。
でも抱き締められずにはおられんかった。
とりあえず今分かって欲しいことがあんねん。どうしてでも…
めっちゃゆいが好きなんやて事実。
分かって、分かって欲しい。


「あ…言い忘れてました」
「な、何をや」
「誕生日、おめでとう…ございます」
「……おおきに」


――最高の誕生日になったで。
そう告げたら、彼女は大袈裟だと言ってまた笑うてくれた。



御題配布元 taskmaster
Happy birthday to Y.Oshitari. vol.3

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