LA - テニス

07-08 携帯短編
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振り向いて



「木ー手」
「そのテには引っ掛かりませんよ」

貴女には学習能力というものが付いてないんでしょうか…俺には分からないですね。同じことを何度となく他の人にも繰り返していましたよね?何度となくその現場に出くわした俺としては同じことをされる可能性を考慮してなかったわけではありません。微妙に軽やかなステップで背後に立って俺を呼んだならば…ソレをしないとは言えないでしょう?頭を抱える。彼女はあまりにも子供っぽくてどうしようもない。

「うわ。その言葉は振り向いて言え」
「お断りします」
「そんな風に親から育てられたわけ?」
「そう受け取って頂いて結構です」

振り向いた瞬間に貴女は人差し指を立てるのでしょう?
随分昔に流行ったと思われる意味も何も為さない悪戯。友達の肩を叩いて振り返るだろう方向に指を立てて…単に頬を突くだけの悪戯。もうすぐ高校に上がろうというのにまだそんな低レベルな悪戯をしているようではいけませんね。少しは成長しましょうよ。貴女だけじゃないですか?昔と何一つ変わらない人っていうのは…

「木手様ご乱心ー」
「様付けはやめなさいよ」
「だったら振り向いて?」
「お断りします」

振り返ることをしないまま繰り広げられる会話に少し癇癪を起こしているのか、彼女はその場で地団駄を踏み始めた。相手が知念くんや甲斐くんであったなら振り返ってくれたでしょうけど、俺はそんなに優しい人間ではありません。その辺を認識した上でそういう悪戯は仕掛けた方が良いかと思いますけど…所詮は低レベルな悪戯。助言する余地もありませんけどね。と、いうことで…出来れば真後ろから離れて頂きたいのですが。前に出たところで差を埋めて来るんですよ…勘弁して下さいな。

「……何処まで付いて来るんです?」
「木手が振り返るまで」
「俺は振り返りませんよ」

軽くストーカーみたいになってますよ?そう言えば、彼女は特に反論もせず逆に肯定。そうまでして俺の頬を突きたいんでしょうか…謎ですね。貴女の考えていることが俺には分かりませんよ。全くもって。

「木ー手ーさーまー」
「その呼び方はやめなさいよ」

繰り返される会話。どうせ貴女はまた「振り向いて」と言うのでしょう?

「振り向かないなら回り込むわよ」
「……は?」
「回り込みます!」

……どんな宣言なのですか?
そう言い掛かった時にはすでに彼女は俺の目の前で口元を吊り上げて笑っていた。何処か…してやったり風味な表情で誇らしげに俺の目の前に立つ彼女。よく考えたら今日初めて貴女の顔を正面から見ることになるんですね。なんて、不意にそんなことに気付かされた。

「木ー手」
「な、何です?」

どうしてでしょうか。物凄く気恥ずかしい気持ちが出てくるのですが。でも彼女にとってはそんなことはないらしく、お構いなしにまた至近距離。背中で感じる気配と正面、目の前で感じる気配がこうも違うとは… どうしてでしょう。どうなっているのでしょう。目の前の貴女に照れる自分が、います。

「やっと顔が見れたね」
「な…」
「とう!」

……前言撤回します。
結局は正面から堂々と俺の頬を突くとは思いませんでした。そして、そんな貴女に照れた自分が恥ずかしい。そんな貴女に…少しだけ胸が高鳴ってしまった自分が情けないです。

「……私、やりました!」
「……」
「木手の頬突きクエストクリアー」



御題配布元 CouleuR 可愛い人5のお題「振り向いて」

頬突きクエストって…ねえ。
真正面からマジマジ見られるのは苦手です。
その割に自分は人の顔をマジマジ見ます(080315)


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