LA - テニス
□07-08 携帯短編
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意地っ張り
景吾は基本的に意地っ張りだと思う。
人に言われたことは確実に捻くれた言葉で返し、例え比が自分にあったとしても無駄に謝ることをしない。それが逆に可愛らしい部分か?と聞かれたならば私は首を横に振るし、そこは断固として改善を要請すると思う。出来ればもう少し素直になってほしい…ただ、それが叶わないのが跡部景吾という存在で…難しい。
「……ねえ」
「寒くねえ」
「嘘。絶対寒いでしょ?」
「寒くねえって言ってんだろ」
3月に近い2月の夕方。
あと少しで卒業式を迎える頃に私たちはいつものように、何事もなく一緒に肩を並べて歩く。いつもの習慣。景吾と付き合い始めて、お互いの部活が終わってからの大事な習慣。春からもまた同じ学校へ行くことにはなっているけども、今、こうしている時間はどんどん流れていく。少なくとも3月を過ぎたならば中学時代は思い出となって…この会話でさえも確実に思い出となる。
「そんなこと言って…首がカメみたいになってるのよ」
「しょうがねえだろ!」
「あ、やっぱ寒いんだ」
「んなこと言ってねえ!」
それが不思議と寂しいとは思わないけど、寒さからか感傷的になる自分。景吾にそう言ったならばきっと笑うだろうけど…今はどうもそれどころでは無さそうな雰囲気。ポケットに手を突っ込んで肩を上がることで首を外気から守ろうとしながら歩いている景吾は…ある意味、笑える。
でも、景吾がそうなっているのには理由があった。
朝、昨日の夜更かしが原因で私は遅刻スレスレで学校へと登校した。色々な物を忘れて、色々なものを身に付けて来るのも忘れた。その中にあったのが手袋とマフラー。かろうじてコートは着てきたものの慌てすぎて、最大の防寒具を忘れてしまったことから始まる。あ、朝はアレ。猛ダッシュしたもんだから寒さに気付かなかったんだよね。
「大体な、この時期にマフラーとかしねえヤツがあるか!」
「いや…それはそうなんだけど、さ」
「立春過ぎたら暖かくなるとかねえんだよ」
いや…それはごもっともで御座います。
夕方にもなると太陽が傾く所為か、冷え込み具合が明らかに変わっていく。そんな最中に景吾と待ち合わせをしてて…私の姿を見た途端に景吾は激怒しちゃいました。そりゃもう激怒に激怒。自分のことじゃないのに激怒して巻いてくれたのが景吾の香りのするマフラー。甘い香りだけどそれが嫌だとか思わない不思議な香りのする香水。凄く好きだなーとか…あ、いや、香水の話はどうでも良いんだけど。
要は私が景吾の装備品を取っちゃったわけです。この寒空の中、申し訳ないことに。
「いや、それは分かってるんだけど…」
お陰で私の首元はポカポカしてて、逆に景吾はカメになっちゃう有様。何と言うか…今回のことに関しては自業自得だから寒さも我慢するって言ったにも関わらず、景吾ってば絞め殺さんばかりの力を込めて巻いてくれて。それを外そうとしようもんなら、その綺麗な目でガンガン睨んで来て。
それが景吾なりの優しさだって分かる。分かるんだけど…ねえ。
「明日は忘れんなよ」
「……はーい」
素直に寒いなら寒いって言ったらいいのに。変なところで意地にならなくてもいいのに。この気候だもの、寒いものは寒い。そう言ってくれたならば明日は絶対忘れることはしないし、「ごめんね」くらい可愛らしく言えるのに。それをさせないのもまた…景吾なりの優しさなのかもしれない。
「風邪、ひかないようにね」
「ひいたらお前の所為だ」
「……やっぱ寒いんじゃん」
「そうは言ってねえ」
何度も繰り返すやり取り。ちょっとした誘導尋問なんか仕掛けながらも繰り返す同じ会話。それでも景吾は断固として「寒くない」と主張するもんだから少しだけ笑っちゃう。
「……何だよ」
「もう…意地にならなくてもいいのに」
「意地になんかなってねえよ」
「そんな景吾、可愛くて好きだよ」
御題配布元 CouleuR 可愛い人5のお題「意地っ張り」
まだまだ寒い2月の下旬。
イチャイチャすればいいと思って書く。
珍しく恋人設定(080228)
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