LA - テニス

07-08 携帯短編
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僕の癖



「その癖、嫌いよ」
「……え?」
「だから、その癖が大嫌い」

……雷に打たれた人って、こんな衝撃が走るんでしょうか。
いや、雷でなくてもいい。鈍器で殴られたり鋭利な刃物で切り付けられたり…この衝撃はそれに等しくないでしょうか。
それを俺は受けたこともないけど、想像する限りそれくらいの衝撃が俺には走って、泣かなかったのが凄いくらい。

俺は何を言われているのかが全く分からなくて、ゆいがどうして此処まで怒っているのかも分からなくて。
ただ、物凄く泣きそうな気持ちを抱えたままに疑問を聞こうとしたけど、言い放った彼女の方が冷静な目をしてて怖かった。
こんな彼女の表情…見たことなかったわけじゃないけど、だけど言葉としてぶつけられたのは初めてだと思う。

「いや…あの…」

こんな時ってどうすればいいんだろうか。冷静に、だけど無言で責めてるような彼女。
跡部さんみたく逆ギレするべき…いや違う。非は確実に俺にあるからゆいは怒っているわけで彼女は責められない。
だったら忍足さんみたく平伏して謝る…も違うな。俺に非はあるかもしれないけど原因が分からないのに謝ることは出来ない。
ここは宍戸さんみたいに堂々と男らしく…男らしく!彼女に聞くべきなんだ。そう心で気合は入れたものの…
……問い質すまでの勇気が出ない、とか、本当に俺は情けない、な。背ばっか伸びて…ああ、それだけみたいだ。

「俺、何か…した、かな?」
「自覚ゼロ、それが長所で短所なのよね」
「長所で短所?」

きっぱりと自覚が無いと言われた日には…俺はどうすればいいんでしょうか。確かに、何の自覚もないんですが。
長所であり短所でもある俺の癖って何だろう。頭の中でぐるぐるその言葉が回って一生懸命考える。
無駄に伸びた身長…これは長所であり短所だと思う。だけど、コレは彼女の怒りを買うようなものじゃない、多分。
ノーコンなサーブ…これは短所であり長所、だろうか。でもコレもまた彼女の怒りを買うようなものじゃないか、間違いなく。
だったら何だろう。アレかな、ピアノを弾く時の癖。無駄に猫背になる分、弾くときに繊細さが欠けて…ってコレでもないか。
その癖には長所はないし短所のみで…ってもう全く分からない。何だろう、今のは全部自覚はあるから違う、よな。

何だろう、と必死に考えてはみるけど頭の中には自覚している癖しか当然出て来ないわけで…
でも、彼女が嫌いな俺の癖があるのは突き付けられた事実で、出来れば…いや、全力で直したい、て、思うわけで。
未だ謎を抱えたままでいる俺の向かい、まだ、らしくない表情でいるゆい。そんな顔…させたくないのに。

「ねえ…」
「長所でも…私は嫌い」

……胸が痛い。ここまでキッパリ言われるとやっぱり痛い。
体は頑丈なもので打撃には強いかもしれないけど…精神はどうやら頑丈ではないみたいで、痛い。

「あの…」

こんな時に限って俺ってどうして男らしくなれないんだろう。一生懸命言葉を探して、頭の中がゴチャゴチャ。
胸の中のゴチャゴチャも言葉に出せずにただ…どうしていいか分からなくなって、ゴチャゴチャなのに真っ白、とか。

「……この間、重い荷物を持ってた子、助けたでしょ」
「あ…うん、俺も、その方向に用があった、から」
「その次は女テニでホームランボールを打った子のボール探しを手伝った」
「うん…実は俺も場外に打って…しまって…」

な、何で知ってるんだろう。物凄く焦った。
成績下がって職員室に呼ばれた時の話か、場外ホームランで宍戸さんに怒られた話とか。
あまりにも格好悪くてゆいには話してなかったはずなのに…う、噂になるほどのレベル、じゃないよな。
場外に打つのは確かに俺くらいだけど、成績が下がったりするのは誰だってあるわけで…向日さんなんか結構赤点で…

「それが長太郎の癖よ」
「なっ……は、恥を、敢えて話さないことが?」
「……はあ?」

成績が下がって順位もガクッて下がれば…やっぱり格好悪くて言えない。
場外にボールを打ち出したことも格好悪ければ、コートの隅で宍戸さんに怒られてしまったことも格好悪い。
プラスして跡部さんにも説教されて…部室で正座とかさせられた、とか、恥ずかしすぎて言えるはずがないのに…

「ごめん!俺、どうしてもゆいには…」
「え?」
「格好悪い自分…とか、見せたくなくて」
「いや…あの…長太郎?」
「確かに…この間は先生に呼び出されたし、部活では宍戸さんに怒鳴られて、跡部さんには正座させられて…」

でも、これではっきりと分かりました。
第三者から聞くよりは直接、聞いた方が良かった…ってことですよね?これが…俺の悪い癖なんですね。

「分かった。これからはちゃんと恥もゆいに…」
「いや、長太郎…私それが言いたかったわけじゃ…」
「ま、まだあるの?」

ショックです。今度は更に輪を掛けて胸が痛い。そこまでダメな癖を自覚していないとか最低、だ。
鈍器で殴られた挙句に雷に打たれたくらいの打撃、いや、それよりも酷い打撃を受けたような気分。
だけど…どうしてだろうか。彼女の表情が少し和らいで…というよりも困っているような、そんな風に見える。

「……ゆい?」
「……無意識って本当に怖いよね」
「え?」
「今の聞いて…無意識なんだって気付いたから、も、いいや」

え?何が?って聞き返す前に、ふわっとした空気と共に…ゆいが俺の腰に手を回してた。
身長差があるから背中に…とはいかないのは分かってて、俺が無意識に手を回した場所もまた彼女の頭で。

「最初の言葉、撤回するね」
「え、えっと…」
「その長所を嫌う私の感情が…短所みたいだから」

彼女が言わんとしていることが良く分からなくて腕の力を緩めれば、はにかんだように笑って俺を見上げる彼女。
今の空気だったら、きちんと男らしく聞ける気がしたから…聞いた。「俺の長所で短所は何だったの?」と。
すると彼女はゆっくりと口を開いて答えてくれた。でも、俺には全くピンッとも来ない。「人に優しすぎるとこ」だと言われても。

「優しすぎる…かな?」
「ほら、やっぱり無意識なんだね」

成立しているようで成立していないような会話の中、また新たな疑問が浮上して首を傾げる。
無意識だとしても、人に優しいということは決して悪いことではないと思う。まあ、甘やかしていると捕らえれば別だけど。
頭の中でまた色んな思考が巡り始めて、さっきと同じように彼女に問い質せば…そう考えていたら先回りされた。

「単なる嫉妬なんだから…これ以上は聞かないで」



Thanks for the sixth anniversary. for 千里 from 来砂.

-僕の癖-
御題配布元 taskmaster

ちょたの長所(?)が気に入らない彼女(←テーマ)
誰にでも優しそうなイメージでの構成。白ちょた。
彼女の嫉妬が可愛く思えたなら良いのですが…ねえ。
今回(私が考えた)長太郎の本当の癖は、
彼女に良く見られるために頑張りすぎる、です。


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