LA - テニス

07-08 携帯短編
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ウブな唇



帰り際、不意に亮がギクシャクする瞬間があって、よく分からない空気が流れる瞬間がある。
それは日に日に多く見られるようになって、それが何なのか…最初は分からずにいた。
だけど、どうしてだろうか。理由もなく急に、本当に不意に自分の中で解することが出来た。
解したことが合う合わない、間違ってても私にとってはどうでもいいことで…だから自分から動いてた。
その時の亮の硬直っぷりが結構笑えて…でも、それ以上は照れて恥ずかしくて走り去っていた。


「おはよう、亮」

そんなことがあった翌日、何も考えることなどなく向日くんと居た亮に声を掛ければ…
物凄い挙動不審になって、しかも変な理由?用事?を呟いて逃走してった。私どころか向日くんまで置いて。

「……何だあ?」
「挙動不審者、でしょ」
「てか、志月が何かしたんだろ?」

何かしたって…していないとは言わないけど、逃げられるようなことは多分してないと思われ。
正直、あんなに過剰な反応を見せるようなことはしてないと思うんだけど…うん、亮だから重要だったのかもしれない。
初めて手を繋いだ時、加減が分からなかったのか物凄い力で握られて、お互い手に汗を掻いてた。
初めて抱き締められた時、私に分かるくらい心拍数が上がってて、回された腕が少し震えていたのも知ってる。

「……照れ屋だからなあ」
「は?」
「いや、こっちの話」

私もそりゃドキドキするし、こう…心拍数も上がってどうしようもないけど亮はそれ以上の反応をする。
何だろうか、順番をきちんと踏んで段取り良く過ごしていく。そう、微妙なモラリストだったりもするし。
だから今回ばかりは動揺してるのかもしれない。自分から踏むべき段階を私が打ち壊してしまったから。
……そりゃ動揺するし、硬直もするか。

「えー何だよ、俺に話せよ。俺ら友達だろー?」

何も知らない向日くんが何か聞きたげにしていたのを適度にスルーすれば「くそくそ」なんて言いながら向日くんはむくれて。
それをまたスルーして亮が逃走した方向へ歩き出せば…向日くんが付いて来そうだったから制して。
うーん…逃走した亮の居場所に検討が付かないけど、ちょっと今のまま昼休みが来ても困る。一緒にお弁当食べてるから。
絶対に会話が成立しないだろうし、相手もテンパって更に動揺するかもしれないし…うー純情ボーイめ。

男気溢れるヤツで、だけど照れ屋で可愛い面もあって、そんなギャップがあるから好きで。
何気なく告白された時は泣いてオロオロさせたっけ。あの時も可愛く見えたなーなんて不意に思い出す。

朝のホームルームまであと10分程度。とりあえず教室に戻っていない亮を確認して屋上へ。
いや、何となくの感覚で屋上に居そうな気がする。悩みとかある時、そこでうーんうーんして叫んだりするって。
コレはジロちゃんからの情報なんだけど、それを止めさせて欲しいらしい。昼寝の邪魔になるとかで。
今もまたうーんうーんしてる気がする。昨日の帰り、私が起こした行動の所為で…


「……あ、いたいた」

ドアを開けた先にやっぱり亮がいて…!マークが付きそうなくらいの勢いで振り返ったのが見えた。
一番奥のフェンス傍に居たのに、小さな声で存在確認したのに、よっぽど敏感になってたんだろうね。すぐ気付かれた。

「何で逃げるかなー」

風が少し冷たくて、もうすぐホームルームが始まるっていうのにまだ登校して来てる人の声がしてて。
亮の方へ近づいていけば、その真下の門前に太郎ちゃんが立っているのに気付いた。本日の門番らしい。

「べ、別に逃げてなんか…」
「部活の時、向日くんから集中攻撃受けるよ、アレじゃ」

亮の真横でフェンスを背もたれに空を仰げば空は青かった。雲一つない晴天で、今からの授業が馬鹿らしいくらい。
少しモゴってる亮をジッと見つめてあげたら可哀想だから天を仰いでるわけだけど今は隣にいるだけでも動揺するらしい。
180度の視野の中、亮の動きがまた挙動不審で…オロオロしてるカンジ。と、私は意外と冷静に解析。
何だろう…嫌だったのかな。あのギクシャクがそうだとしなくても、私はしたかったんだけど…亮は違ったのかな。

「……嫌、だった?」
「な、何、がだよ」
「私がキスしたの」

単刀直入にそう切り出せば、生唾飲み込みを失敗したのか、亮が物凄い勢いでむせた。
いやね、むせてもいいんだけど…こっちも結構勇気を振り絞って聞いてるんだよね。心臓、跳ねてるし。
多分…このまま亮がむせてて返事とか無くて、何の答えも返って来なかったらバクバクがドクドクに変わると思う。
嫌な音が響いて、それが自分の耳元でどんどん大きくなって…今度は私が逃げるかもしれない。
……そんな答えなんかじゃない、そんな答えをするわけがない、なんて思いたいけど。

「……」

あ、何か泣きそうになって来た。無駄に空が遠くて青い所為で、むせた咳が止まってのに言葉もない所為で。
解したことが合う合わない、間違ってても私にとってはどうでもいいことで…だから自分から動いてた。
後悔とかするわけでもないし、私がそうしたかっただけだったけど。それは亮にとっては全てが違っていたのなら…

「……ゆい」
「……ん?」

返事はしても顔を見ることだけは出来なくて、空を仰いだまま。

「こっち向け」
「……今は嫌」

ちょっとネガティブな気持ちが大きいから、向くことが出来ない。

「じゃ、しゃーない」

確かにその言葉が聞こえて、今度は本格的な打撃で涙が出そうになったけど…それ以上の衝撃を足に受けた。
情けなくも「へ?」って言葉が出た時には足は自分の体より前に払われてて、ガクンッと体がさっきいた位置より数段下がって。
空だったはずの視界に亮が映る。目を伏せて、物凄く近い位置にいる亮の顔だけが映る。

頬に手が添えられていたのは、微妙に崩れ落ちないようにもう片方の手が私を支えていたことに気付いたのは…
視界が亮だけでなく空が映り始めてしばらく経ってからのことで。言葉なんか出ない。心臓も、無駄に跳ねてる。

「嫌、とかじゃ、ねえんだよ」

ホームルームを告げるチャイムが響くなか、亮の声が体に響く。
「急にお前が仕掛けるもんだから」「俺が…しようって意気込んでたのに」「てかその後、逃げたし…」と、
途切れ途切れで文章にもなっていないような、まるで単語みたいな言葉をモゴモゴと告げる声だけ体に響く。

「……嫌とか、有り得ねえだろ」

その言葉が響いた時、また視野に空は無くなって光も薄れた中に亮だけが居て。
今度は私も感覚だけを味わうために目を伏せた。亮の頬に手を添えて。



Thanks for the sixth anniversary. for 閏 from 来砂.

-ウブな唇-
御題配布元 taskmaster

意外と段階を踏み切れない宍戸(←テーマ)
基本的に照れ屋な宍戸はモラリストですね。
彼女に触れるまでに時間を要するタイプ(笑)
タイトルと宍戸がマッチするなーと。
決めて頂いてナイス!と思ったものです(080420)


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