LA - テニス

07-08 携帯短編
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過激な時代



頭を悩ます。頭が痛い。
自分のことで頭を悩ませ、痛める分には構いはしない。自分のことだから。
だが、他人のことで痛めるようなことがあって良いのだろうか。いや、他人他人というものでもないが。
俺は今年3年となり考えること、悩まねばならんこと、山ほどあって余力という余力はないはず…

「……ゆい」
「はいはい。何でっしゃろ弦さん」

それなのに悩まされる。今、人の部屋に上がり込んで勝手にベットに転がり雑誌を読む幼馴染みに。
学年が一つ下でまだまだ子供だとはいえ…どうなんだ、その所業は。あって良い事か、良い事なのか…?

「5時以降、俺の部屋には来るな…そう言ったな?」
「言ったね。随分前に」
「勝手にベットに転がるな、これも言ったな?」
「同じ時期に聞いたと思うよ」

顔色を変えることもなく、自分の行動を改めることもなく。のほほんとイイ気なものだ。
いい加減、雑誌から目を離して俺を見るといい。温厚な俺が怒りの沸点に達しようとしている。
その様子に気付いて改めるがいい。さあ気付け、さあ気付くがいい。こっちを向け!

「ゆい!」
「はいはい、あんま叫ぶと血圧上がるよー」
「俺の血圧は正常値だ!」
「ついでに、あんま叫ぶと弦のママンが怒るよー」

ママン言うな。どうも食だけではなく語学もまた欧米化が進んで現代社会にいらぬ影響を与えているな。
この国に生まれておきながらまともに日本語を使えぬ女子など大和撫子になる資格はない。
根本からやり直し…根本からの見直しと更生が必要らしいな。奥ゆかしきこそ、日本の女子ではないか。
伝統、文化、その流れを従来より守り抜いてこそ大和魂たるものがこの身に宿り――…

「独り言がデカいよ弦」
「……口に出ていたか?」
「そりゃもう盛大に」

雑誌を静かに閉じて、ゴロンと転がりベットの淵に座るまでの動作は俊敏なものだった。
その間にその…腹部が微妙に見えたのは…その…見なかったことにしよう。ああ、俺は何も見ていない。

「あのさー」
「な、何だ?」
「今の時代、把握してる?」

……失敬な!朝刊・夕刊新聞を見るのが日課でニュースもまた欠かさない。
時勢と政治などに目を向け、この暗い世の中を明るいものへ変えるべく日夜情報を得るのが俺。
そこで得た情報よりどう変えるのかを思案し、自分自身で考えたことを吟味し、どう自活的に動くのか…
それを日々考えた上で行動していくのが俺の生活習慣として定着していることだぞ?
時代の把握など当然の如くしているわけで、そこから現代社会の乱れをどう修正すべきなのか…
そう、俺はそんな大きなところまで考えさせられている。無論、お前みたいな女子もいるからな!

「弦の言い分からするとさー」
「……語尾を伸ばすな」
「黙って聞け。問題は古き良き時代の女性を求めること自体にあるわ」
「……何?」

うむ。お前の意見を聞こう。ただ、お前のそのベットに足組み、手に顎を乗せての語りは気に食わんがな。
こういう場合は…そうだな、祖父との会話時に用いることの多い正座で臨ませてもらおう。
……上から視線でゆいから見られるのはなかなか遺憾なものだな。いや…ここは堪えよう。

「今の時代、男女間の隔たりは?」
「男女平等ゆえに隔たりなど存在しない」
「じゃあ、弦の好む時代の女性は平等だった?」
「そこは今の時代に合わせた上での在りか――…」
「黙れ。弦の言い方だと男子の後ろから出しゃばらず静かに付いて来いって言ってるようなもんなんだよ」

……ピシャリ、キツい口調で言われた、な。

「男女平等を掲げた上で大和撫子?それは出張るなって言ってるようなもの」
「いや、だから…だな…」
「言い訳すんな、聞け」

……ぐっ、何と言うことだ。いつの間に可愛げのない幼馴染みに。

「奥ゆかしいままで平等とか無理難題なんだよ。時には強く出て男を踏み付けて行くのも今の女性には必要。平等とか言うんなら奥ゆかしき大和撫子を捨てて男気溢れるものになっても決して悪くはないことでしょ。弦の言う大和魂が宿った女性が強くあって何が悪い。表に出て活躍して何が悪い。女性が自分の意志を主張出来る時代だからこそ、日本は発展し、新たな時代を作っていくんだろうが。弦の考えからいくと、男が時代を変えるみたいじゃん。あーそんなんダメダメだね。新たな風を吹き込むのは根底からずっと男性を支え続けて来た女性にあるわ。絶対」

――ノンブレス。
息継ぎもなく一気に自分の理論を主張するとは…ゆいも成長したものだな。
だがな、お前の主張には様々な誤解と俺の意見に対する解釈の違いと言うものが存在するぞ。

「ゆい、お前の意見は胸に留めよう」
「で?」
「ただな、少しお前の解釈に問題があるので指摘しよう」

俺がそう言ったならば、相変わらず遺憾な様子のまま「どうぞ」と掌を見せるゆい。
うむ、何か釈然としないものもあるが…ここは俺がまた堪えよう。ここまで向き合うこともそうないことだから。

「俺はだな、別に女性が社会に出て飛躍していくのに対し、悪いことだとは思っていない」
「それで?」
「ただ、その中でも女性として大和撫子たるものを持ち合わせて欲し――…」
「個々の性格批判なら論点から外れてる」

性格!この理論は性格批判に繋がるというのか!
しかも「色々女性に押し付けるな」とまでゆいが強く主張した言葉が耳に入る。
押し付け…押し付けなのか?いや、この場合は押しつけなどではなく、あくまで女性のあるべき姿を…

「持ち合わせるかどうかは個人の意思でしょ」
「だがな…」
「仁王先輩に現代女性の在り方を聞いて来い!」

命令口調!年は一つ下で女子で長いこと幼馴染みをして来たがこのような事態は…
しかも仁王、あの仁王に在り方を聞けだと?仁王の方が現代女性に詳しいとでも言うのか?

「差別ちっくなんだよ、弦の考えは」
「さ、差別…」
「私は主張する!弦の意見に反するところは指摘する!」
「差別…なのか」
「よって、5時以降にも乗り込むし、ベットも勝手に使う!」

……ん?ちょっと待て。今、さり気なく意味の分からない主張をされたような気がするのだが…
視線を向ければ、またも迅速にゴロンと人のベットに横になり、雑誌を読むゆいへと戻っていった。
いや、落ち着け。これこそ何処か論点の違うものではないか?何か、おかしなものではないか?

……どうやら、まだまだ彼女と話し合う必要が俺にはあるようだ。



Thanks for the sixth anniversary. for 名月 from 来砂.

-過激な時代-
御題配布元 taskmaster

設定として「笑いを…な風味」ということで(←テーマ)
年下、幼馴染み、振り回されてポンッ!みたいな。
過激な会話を盛り込もうかと思いましたが自粛す。
皇帝に強く主張をする彼女は女帝です(080420)


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