LA - テニス

07-08 携帯短編
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魅惑的な罰



感情の読み取れない表情、プラスして無口。神経質な指で持つシャープペン。
いやもう、何をしてても傍にいなくても見てるだけでドキドキするっていうのに近い…近すぎる。
ちょっと風邪で寝込んだ自分に歓喜、馬鹿な弟から譲り受けた風邪に感謝したくなった。

「……分からないところがあれば聞いて下さい」

普段、会話も成立しないような私に木手くんからこの優しいお言葉、歓喜でしょう!
でも…迷惑は迷惑だろうな。ただ単に委員長って役割なだけに残されて劣等生に勉強を教えるとか。
もう一人の委員長は何処で何やってるんだろう…木手くんに押し付けたのかな?
てか、むしろ…こういう場合は普通に、先生が指導に付くもんじゃないのかな?うーん、分からん。

「ご、ごめん…ね」
「何がです?」
「放課後の貴重なお時間を…」
「ああ…いいんですよ」

無表情のまま「夏も終わりましたから」と言って頬杖を付いて視線を逸らす彼は綺麗だと思う。
基本的にクールな要素が多いからかな。そのクールさが溜まらなく好きで、さっぱりで綺麗だと思う。
そんな話を友にしてみれば「変わってるわね」て言われるけど、でもやっぱり素敵。近づき難いけども。
何だろうな、本当に同級生なんだろうか木手くんは。物凄く落ち着いてて冷静で大人っぽい。
それに引きかえ私は…落ち着きはない。今となっては落ち着くどころの話でもなくて。
心臓はひたすらに高鳴って、何処まで勢い付いていくんだろう、くらいまでバクバクしてる。もうずっと。

「そんなこと気にせずに解きなさいな」
「あ…はい」

ある程度の解き方を教わって…いやもう木手くんに分かりやすいというか丁寧に教えてもらったんだけど。
それがきちんと理解出来たかどうかを兼ねて問題を解いている途中でありまして。
うん。解き方は理解した。問題も解けるには解ける。だけど、緊張しすぎて計算がうまくいかない。
12-7って何?くらいの勢い。情けないくらいに単純計算が出来なくなってる。

廊下で騒いでいた人たちがどんどん居なくなって、周囲の音という音が消えていってる。
それと比例して外が騒がしくなって、後輩たちが部活頑張ってるのかな?そんな声がする。
そんなことを呑気な私は思いながらも心臓の音はバクバクバクバク、静まる様子なんかない。
聞こえたりしないよね…?とか有りもしないことを考えすぎて本当に集中出来てない。
うーん…バクバクする心臓って、本当は耳元にあるんだね。

「志月さん?」
「わ、は、はい!」
「集中しているところだと思いましたが…ペンが止まってますよ」

眼鏡を上げながら「何処が分からないんです?」て、言われましても…ですね。
いや、理解はしてます多分。冷静になれさえすれば解けるかと思います。ただこう、ね。ねえ。

「……もう一度説明しましょうか?」
「い、いや、大丈夫、なん、ですが」

バクバクバクバク。ああ、もう何か死ぬんじゃないだろうか。心臓の音に殺されそうです。
言葉もうまいこと出て来なくて恥ずかしい。今、色々話せと言われたなら間違いなく舌噛む。で、死ぬ。
舌とか考えとかもう纏まらなくて本当に挙動不審者みたい。変、だよね。変に思われるよね。

「……分かりました」

木手くん、それだけ言うと持っていたペンを自分のケースにしまって…片付け始めた。
相変わらずの無表情で、だけどホンの少し呆れたような部分も含みつつ、小さく溜め息も零したような。
な、何か怒らせてしまったような予感。あ、呆れられる分には仕方ないけど怒らせた…っぽい気が。
でも…かと言って謝るとかするべきなのかな。いや、謝るべきだとは思うんだけど言葉が…出ない。
落ち着こう。ちょっと落ち着こう。冷静に冷静に…ってしている間も木手くんは片付けてて。

「……今日は帰りましょう」
「え、あ、あの…」
「どうも俺が居るとダメみたいですからね」

……ば、バレてましたか。
どうしようもない緊張と心臓の音が邪魔してて集中とか本当に無理だってこと…バレたかな。
私が木手くんのことを…っていうのも、何か勘付かれたかな。どうしよう、何かどうしよう。

「志月さん」
「は、はい」

頭の中がごちゃごちゃで、何か声を掛けられる度に耳元で響く音が本当に煩くて。何だろうコレ。
返事をするのが精一杯で今なんかも…無意識に席を立って、授業で当てられましたーみたいになってる。
しかも、全く授業を聞いてなくて当てられちゃった時のカンジと同じだ…ヤバイ、本当に頭真っ白。
そんなシドロモドロな私に多分気付いてるよね。木手くんが少し笑って顔を背けた。

「……ぷっ」
「わ、笑った、っ」
「すみません…でも可笑しくて」

顔を背けたまま笑う木手くん。うーん…こんな風に笑う人だったなんて知らなかった。
ちょっと新たな発見ではあるけど、こっちを向いてはまた吹き出して俯いてってされると、ねえ。
意外だなー笑い上戸のかな。そんな風には見えないけど、実際まだ笑ってるし…どうしろと。

「志月さん」
「は、はい…」
「貴女、物凄く緊張されてましたよね?」
「……は、恥ずかしながら」

くく…と口元に手を当てて笑いながら質問を投げ掛けて来る木手くんにとりあえず返事をする。
結構、精一杯なところなんだけど、うん、最初よりは舌を噛まずにしゃべれそうな気がする。うん。

「それは俺が怖いから、もありますよね」
「へ?」

こ、怖い…そ、それはナイとは言わないけど、でも、何かちょっと誤解されてるっぽい。いや、ちょっとじゃないな。
確かに木手くんは無表情で怖いっていう人もいるけどさ、そうじゃなくて私は…好き、だから緊張するわけでして。
それを弁明したら、告白、に、なるから言えないけど。告白…する雰囲気とかじゃ、ないし。

「慣れて下さい」
「は?」
「少なくとも俺は君に勉強を教える義務が出来ました」
「えっと…」
「今から少し寄り道でもして…そうですね、お茶でも奢りますよ」
「は、はいい?」

お茶、お茶、お茶…麦茶ですか!個人的には玄米茶が好きです!
い、いかん。何か混乱してるんですが、何か理解し難い誘いの言葉を頂いたのですが!

「普通に接してもらわないと義務が全う出来そうもないですし」
「君を笑った罰だと思って俺にコーヒーでも奢らせて下さいな」

コーヒー…缶、缶、缶コーヒーならボスが好きです!
い、いや、この思考も口に出すには適切じゃない気がする。むしろ、もう何をどうしていいのか…!

頭が真っ白というよりも真っ黒で文字も書けないほどに混乱する私の私物を木手くんが片付ける。
その様子が見ているはずなのに動けなくて、ハッと気付いた時には「行きましょう」と強引に促す彼が居て。
ど、どんな罰なんだろう。むしろ、私にとっては罰にもならない罰。願ってもない罰で。

「き、木手くんって、こんな人、だったの?」

突拍子もなく出てしまった言葉に木手くんは眼鏡を上げつつ口元を歪ませてた。
「俺がどんな人だと思っているのか、聞かせてもらわないと、ですね」そう、少し意地悪そうに笑って言った。



Thanks for the sixth anniversary. for ミサ from 来砂.

-魅惑的な罰-
御題配布元 taskmaster

放課後、委員長(木手)に勉強を見てもらう(←テーマ)
お任せ設定ということで片想い風味で。
でも、本当に片想いをしてるのは木手だったりして。
そんな雰囲気で書かせて頂きました(080413)


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