LA - テニス

07-08 携帯短編
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全てが解決してみれば、パズルのようなものだと思いました。
ポコポコと空いた場所にピースを埋め込んでいって…完成すれば全てが解決。
非常にあっけないもので、納得せざるを得ないもので、お陰で色々とスッキリするものがありました。



パ ズ ル



彼女を知ったのはつい最近。そう、この学校へ入学してしばらく経ってからでした。
沖縄と言えども学校は沢山あって、学校内の生徒たちが全て知り合い・友達ではありません。
校区外からもこの比嘉中にやって来る人も居て…彼女もまたその一人でした。だから知らなかった。

「ゆい」
そう呼び始めたのは多分…平古場くんあたりが最初だったでしょうか。1年の時にクラスメイトでしたから。
気付けばどういうわけか、甲斐くんとも知念くんとも田仁志くんとも仲良くなっていた彼女は…当然俺の目にも留まった。

活発なんて可愛らしいものじゃない。短いスカートで廊下を走り、下手したら窓から外へと降り立っていく。
警察にこそ呼ばれるようなことはしていないにしても、教育指導の教師に生徒指導室に呼ばれる姿は見ました。
それでも彼女は常に笑って交わして、何度も同じことを繰り返して…とうとう教師の方が折れてしまった。
「アイツは…あのままでいい」と。言ってもダメだから…ではなくて、今だけでも自由にしとけ、という意の言葉だと思う。
そう、聞き訳の無い問題児ではなく、不良ってわけでもなく、ただ単純に純粋に…彼女は活発なだけなんだろう。

俺の見た彼女はそれだけの印象だった。
あくまでその時は、パズルがバラバラだった時の彼女への感情はそれだけだった。

それが一変したのはいつからなのかは分かりません。
ただ、特に何かをしたわけでもないのに俺を避ける彼女に腹が立った。まあ、彼らが余計なこと言ったからだと思いますが。
ついでにそんな彼女に無理にゴーヤを食べさせたのも原因でしょうか。とにかく彼女は異様に俺を避けるようになって。
女性に好かれることは特にありませんでしたが、アレほどまで避けられるのも初めてで気になった。
俺の前では決して笑ってはくれませんが、どうすればあの笑顔を俺に向けてくれるのか、考えるようになった。


「少し貴方と話がしたいんです」
「へ?」
「断りませんよね?」


そんな俺の気持ちを逸早く察知した彼らは…どうやら俺にチャンスを与えようと必死になったらしかった。
まあ、腹いせに八つ当たりも沢山して来ましたし、当然と言えば当然でしょうけど彼女は何も気付いていなかった。
俺のパズルのパーツはどんどん組み立って完成していくのに、そんなことも気付かない彼女は鈍感なのだろうか。

ねえ、君は勘ぐることを知らずに時間を過ごしていこうと思っているのですか?
俺のことを誤解したまま、何も無かったように避けて生きていくつもりですか?
そんなこと…他でもない俺が許さないと分からないんですか?


「……逃げずに待ってて下さったみたいですね」

正門横、校長先生が懸命に手入れをしている花壇のレンガで呆然としている彼女を見つけた。
「逃げたらゴーヤね」と釘を刺しておいて良かった。その言葉が無ければきっと…彼女は残っていなかったと思う。
俺の姿を見れば即座に逃げる人ですからね。それくらいの脅しは掛けておいて正解だったと思います。

「お待たせしてすみません」
「い、いや…あの…」

……どうして此処まで避けられるんでしょうかね。威圧感など与えているつもりはないのですが。
未だレンガに座ったままの彼女に手を伸ばして立ち上がらせれば、彼女の表情が少し強張っていた。

「予定は無いでしょう?軽いものでしたら奢りますよ」
「……断定されたよ」
「これは失礼。ですが無いものは無い。そうですよね?」

少し念を押してみれば彼女は少し唸ってはいたけれど素直に頷いた。これで用があったとしても…邪魔はします。
そんなことを思う自分に物凄く驚きはしますが、それもきっと彼女の所為に違いない。
パズルが完成した途端に込み上げて来るものがあって、それの所為で余裕など無くなってしまった自分が居て。
ああ、こんな自分が潜んでいたのか…などと冷静に思うあたり、何とも言えないのは言えないのだけど。

「き、木手?」

自分から握った手を、むしろ初めて触れた手を、離すつもりなんて無かった。
だから、彼女の手を引いたまま正門を抜けようとしたけど…彼女が立ち竦んでしまったようで進めなかった。

「……早く行かないと帰りが遅くなります」
「い、いや、分かってる、けど、手…」
「コンパスの長さが違うから並んで歩けないでしょう?」
「んな!」

どうやらカチンと来たらしい。多少、言い方が悪かったとは思いますが…今はまだ言えるはずが無い。
俺が離したくなくて手を引いていること、彼女が好きでその手を離すことが出来ないこと。
こんな場所で言うことも出来ないから…そう言うしかなくて、失礼でしたね。とりあえず心の中で謝っておく。

「死ぬほど嫌だと言うなら離しますが」
「……木手って変わってるんだね、色々」
「さあ、どうでしょう。少なくとも普通だと思いますよ」

好きな子に触れたくて、どうしようもなくて、散々嫉妬させられているわけだから制御する術はなくて。
少々鈍い君のために大胆な行動に出てみたり、色々と試行錯誤したりする自分は…自分で言うのも気持ち悪いくらいに、

――君に恋してる。

周囲が気付くくらいにソレが表に出ているのに、どうして彼女は気付かないのかが不思議でならない。
無言のままで彼女を見つめていれば…立ち竦んでいた足が一歩前に出たから俺も一歩前に進んでみた。
彼女の一歩と俺の一歩。やはりコンパスの差から俺が手を引くカタチになって、あながち失礼でないことに気付く。

「……な、何笑ってるのよ」

どうしたんだろう、こうしているだけでも結構幸せで嬉しいとか俺らしくもないな。
普段避けられている所為だろうか、こうして手を引いているだけで変な勘違いを引き起こしてしまうんだ。
もしかしたら…脈が全然ないというわけじゃないんじゃないか、死ぬほど嫌って避けているわけじゃないんじゃないか、と。

「いえ…何でもないですよ」

冷酷だと、残忍だと、第三者が何処を見てかヒソヒソとそんなことを話しているのは知っている。
あながち間違っていないと思うから敢えて否定もしなかったけれど、いつかは否定する日が来るみたいだ。
こうなってしまえば俺もまたただの人で、ただの男で、思うほど感情が無いわけでもない。

「で、俺は何を奢ればいいでしょう?」
「……ゴーヤ以外で」

すっかり大人しくなってしまった彼女に少し笑みが零れて、それを見られたくなくて前を向く。
俺の中にあったピースは全部埋まって大きなパズルが完成する。1000ピースなのか、2000ピースなのか…それは不明。
ただ、浮き彫りになったパズルの絵はきっと――…



-パズル-

次で完結すればいいなーと思う。
むしろ、ギャグ要素満載は書いてて楽しい(080510)


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