LA - テニス

07-08 携帯短編
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「少し貴方と話がしたいんです」
木手は相変わらずの仏頂面を引き下げて、尚且つ耽々とそんな一言を吐いて私を驚かせた。
コバー、チィ、カンユ、タニー…と何気にテニス部員と仲が良いだけの私。基本的に一度会ったら友達でーな私。
それでも極力、木手だけには近づかないようにして、木手だけは避けて通っていたのに。



試 練



「た、タニー!」
「おー?ゆい」
「死ぬ!私死ぬよ!今日が命日になるよ!泣いてくれるか?弔ってくれるかー?」
「何でさー」

昼休み、たまたま食堂で大食いチャレンジをしてる最中のタニーを発見。周囲の状況を見ながら声を掛けた。
多分、こんな時のタニーに声を掛けれるのは私とテニス部員だけで、周りは口元を押さえて食堂を後にすると思う。
いやいや…イイ食べっぷりだもんな、タニーは。ダイエット中に見れば食欲不振に陥って結構役に立つよ、うん。

「ゴーヤで撲殺、変死体になるんだ!今日は命――…」
「理由になってないぞ」
「タニー!今すぐ痩せて変装…女装して私とチェンジして!」
「嫌さ。俺、おかわりする」

食堂のテーブル一杯に並べられた料理を延々と食べ続けるタニーは物凄く活動的だ。普段の動きは鈍いのに。
あ、いや、訂正。テニスをしてる時も活発だね。動けるっていう事実が本当に凄くてそりゃもう感動を引き起こすくらいのもの。

「た、タニーは私が死んでも――…」
「おー此処に居たか」
「カンユ!あ、コバーもチィも…よくも私を見捨てたわね!」

何食わぬ顔してノコノコと!此処で会ったが100年目!積年…とは言ってもつい最近連続で引き起こした恨みを晴らすよ!
そう思って席から立ち上がろうとすれば、あっさりと肩を押されてその場にまた座らされた。
くそう…何気にコイツら力だけは並みじゃないんだよ。私も嫌々ながらでも武術くらい習っておけば良かった…と後悔するわ。

「やー無事で良かったさー」
「無事じゃないし!殺すぞコバー!」
「って、生きてるからいいじゃん」
「馬鹿!カンユがアイツ召喚したんだろ!」
「いや、してねえし」

MPKは禁止されてるっつーのがまだ分からんか!私は本気で死ぬかと…いや、放課後には死ぬんだった、な。
グッバイ私、まだ若いってのに死ぬとか薄命だね。特に美人でもないのに薄命とか笑っちゃうよ。先人の言葉は嘘だね、ホント。
あー…老い先だけは長いと信じてたのにな。つーか、親よりもジジババよりもその上のジジババよりも先とか不幸者だよ。
遺影の撮影しとくべきだった。アルバムにマシな写真は存在するんだろうか…入学時の個人写真だったら最低だ。

「木手は何か言って来たか?」
「お前らが逃げた所為で言って来たさ!こーれーぐーす飲ますぞ!」

「「「「何を言って来た?」」」」

わーお、見事なユニゾン。此処まで息ピッタリになるとか有り得ないね。てか、有り得なくなーい?みたいな。
あれ?本土語を真似て使ってみたら何か意味分からなくなった。と、とにかく、有り得ない事態が発生したわけですよ。
息ピッタリなお前らと同じく、有り得ない予定を作らされたんだよ!緊急事態で殺人予告をピシャリと本人に差し出されたんだよ!

「放課後、部活が終わるまで待ってろ…て。私、首洗わないと」
「おー永四郎が終止符打ちか」
「のお!私は撲殺じゃなくて手討ちなのか!」
「何か違う…てか嫌なら逃げればいい。お前逃げ足だけは速いだろ」
「黙れ。逃げたらゴーヤね、て言われたんだよ!」
「伏線張るなー木手は」
「アレ食わされた日には毒殺だよ毒殺!」

いつだっけかな。ゴーヤ食わされてるテニス部員たちがたまたま居て、本当にたまたま居合わせてしまった私もソレを食べたことがある。
ただでさえゴーヤも木手も苦手なのに「志月さんもどうです?」みたいに詰め寄られた日には…恐怖から食さないわけにはいかなくて。
……あんなに天国に一番近い場所に派遣されたのは初めてだった。シーサーが手招きしてて近場でマングースがチョロチョロしてた。
気が遠くなって意識が戻るまでの時間っていうのは結構長く感じられたわ。実際は数秒だったらしいけど。

「……皆、本当に今まで有難うね」
「お、おい…」
「辞世の句とか詠むなよ」
「あー?辞世の句て何?」

詠むよ、詠ませてよ辞世の句。じゃないと迂闊に死ぬことも出来ないじゃん。てか、遺書だと思え。
あー遺書も書くことが出来なかったわ。ん?待てよ。次の授業中に遺書は書けるか。よし、とりあえず書こう。
本日を以って、私は天界へと召されてゆきます。先立つ不幸をお許し下さい、とか、何気に格好良いものとか書こう。

「願はくは花の下にて春死なむ。そのきさらぎの望月の頃…」
「……は?」
「辞世の句。花咲く春先に死にたい。2月の満月の時がいいなーみたいな」
「つーか…今夏やし」
「我に小太刀の一本でもあれば討たれはせん、こっちに変えとけ」
「チィ…それは無理。小太刀じゃアレは倒せん」

てかチィは雑学王だね。辞世の句って言われて頼朝の句を出して来るとは…いや、私も雑学で知ってた句なんだけどね。
あーだから前回の百人一首大会の時、チィが上位に居たわけか。うむうむ、納得するものがありました。はい。余談で。

「あー…死にたいわ」
「つーか、別に永四郎はゆいの命が欲しいわけじゃないさ」
「そうそう。あ、でも…命っぽいのは欲しいんじゃね?」
「ぽいのって何さー!」


食堂で大絶叫すればオバちゃんたちがあまりの煩さに耳を塞いでた。ついでに先生に見つかって追い出されて…タニーが不服そう。
重い頭を下げて歩いてれば、それとは真逆な様子の4人が笑って次々に私の肩を叩いた。

「ゆい…これは試練だな」
「試練…」

あーもう何か全然意味が分かんないよ。確かに試練は試練さ。てか、殺されると分かって挑むんだし。
ただゲームと違うのはやり直しが利かないこと。で、当然だけどリセット機能もないこと。

「永四郎に勝てれば命はあるさー」
「でも命っぽいの取られたら終わる」
「終ボス前の選択肢、ミスんなよ」
「せ、選択肢?」

終ボス手前で選択肢とかあるか?と思ったけど、4人とも選択肢は存在すると言い張る。

「バッドエンドになんなよー」

どんなエンドだよ!やっぱソレしかないんじゃん!
そう叫んだら笑いながら走り去っていくヤツらが居て、私はただただ途方に暮れることとなった。



-試練-

木手、拍手短編連載の続編。
彼は何気に続編として引っ張りやすい(080510)


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