LA - テニス

07-08 携帯短編
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俺のシアワセ



……眠い。ヤベ、マジで寝れなかった。
携帯持ってどのくらい居たんだろう。結局、何も出来てねえ辺り最低だな。
こんなの侑士以下だろ。ウジウジしちまって俺らしくねえつーか、なあ!
それでも電話もメールも出来なかった。そのまま朝が来て今があるのもまた事実。
深々とクマとか出来て、いかにも寝れてません!みたいな顔の俺…ヤバイ。
だけどよ…眠れないよな。で、確かめるとなると結構勇気いるよな。もし違ったら…とか、な。

それでも自信はあった。俺、それだけは見てたから。
俺が唯一自分から「欲しい」って言ったんだ。だから、それだけは確実に見てたんだ。
"Happy Valentiine's"の文字入りのもの。この包装紙だけは間違いなく覚えてるんだ。
志月が、他の子と混じって俺にくれたもの。その時開けてれば…聞けたのに。

くそ、義理とか言うから落ち込んだんだぜ。義理とか言わずにいたなら、いや、義理、なのか?
頭の中はそればっかで、どうしようもねえくらいゴチャついてて、俺らしくもねえ。


「向日ー」

あ?誰だよ、人が真剣に考え事してる時に。
珍しく頭悩ませてるんだ。今はちょっと考えさせろよ。考えは…まとまんねえけどよ。

「おはよ…ってうわ、何そのクマ!」
「ああ?よく眠れねえで…おわ!」

志月だ、志月が、志月だ、志月が…ヤベ、何気に遭遇すんな。バコッて心臓鳴った。
お前、何きょとんって顔してんだよ。何普通に登場して挨拶なんざしてんだよ。
お前…だよな、あのチョコくれたの。そう頭の中で疑問は浮かんで期待はして、それなのに。
コイツが物凄い普通に此処にいるもんだから読めねえ。うわ、跡部のインサイド、マジ習得してえ。

「何よ、その反応」
「あ…いや、悪い、俺、考え事…」
「随分珍しいね。考え事とか」

……お前の所為だろ!とは突っ込めない。
侑士には確実に突っ込み出来るけど、流石に志月には突っ込み出来ないだろ。
この様子だと…追求されかねなくて。あ、いや、追求してもらってアレのことを逆に追求して…
うが!何だ俺!侑士以上にウジウジじゃねえか!最低だ、最低!ここは勇気搾り出して――…

「昨日チョコ食べた?」
「うお!お、おう…」
「……イチイチ驚くことなくないかい?」

ああ、驚くことねえな。うん、ないのは分かってる。けどよ、何たってお前ストレートなんだよ!
これもまた突っ込みたいとこだけど無理。何かこう…どうすればいいのか分かんねえ。
「義理チョコ」だと宣言されて貰って、でも開けたら「本命だよ」って文字があって…
あ、でも…もしかしたらアレは志月のヤツじゃなくて…いや、アレは絶対志月のだけど…

「……うがあー!」
「な、何、どうしたの向日!何か変なもの――…」
「志月!」
「は、はい」

俺らしくねえだろ!こんなにウジウジかますのは侑士だけで十分だろ!
毎度毎度ウジウジされて迷惑して、どんくらい俺が怒鳴り散らしたことか…それを思い出せ!
そしたら…言えるんじゃねえか?聞けるんじゃねえか?色々、本当に、聞きたかったこと。
夜が明けるのが怖くて、でも楽しみで、色々思うところがあったってのに侑士みたくなるなよ俺!

「チョコは食った!」
「は、はあ…」
「甘かった!」
「そ、だろうね…」
「俺、1個だけしか食ってなくて…」
「へ?」

昨日、穴が空くほど眺めた包装紙。それを畳んでポケットに入れて来た。
チョコは食ったし、もう他に証明するものとかなくて、だから突き付けれるものはこれだけ。

「……コレ、お前がくれたヤツ、だよな?」

大きなハート型したストロベリーチョコに、黒のチョコペンで「本命だよ」と書かれたもの。
それを包んでいた包装紙は今、志月の目の前に突き出したもので…なあ、そうだよな?
どう聞いていいのか、どうしていいのか、本当に分からなくなって、だけど聞きたくて。
その所為でクマが出来るくらい起きてて…むしろ寝ることが出来なくて朝日を見ることになった。
正月の初日の出くらいじゃねえか?俺が出始めの太陽を見るとか、そういうのは…

「……そうだよ」

穏やかに微笑む志月の顔があった。くそ、何か余裕あって悔しいじゃねえか。
だけど、少しだけ顔赤くね?て頭の隅で誰かが囁いたから…それを確認する自分がいて。
確定…でいいんだよな?そんな風に思う自分が表へと出始める。

「……ストロベリーチョコ、だよな」
「うん。ハート型の」
「文字、入れたやつ」
「うん…それ」

確定から確実へ。いや、意味は変わらねえと思うけど、やっぱ間違いじゃなくて。
突き出してた包装紙をまたポケットに入れて志月を見れば、少し笑ってた。

「……んだよ」
「ソレ、わざわざ持って来たの?」
「悪いか」
「メール、くれればすぐに言ったのに」

それが出来たら苦労はしてねえし、クマも作ってねえ。
つくづく男ってのは勇気ねえなーなんて思われても仕方ないけどシャイなんだ、多分。
男の方が純情で、色々こう…悩んで考えてする生き物なんだ。俺も、そんな生き物だったんだ。

「冗談とか――…」
「言わない。私も嬉しかったから」
「へ?」
「向日、私だけに言ってくれたんでしょ?」

……ああ、なるほど確信犯か。
俺が自分から「チョコくれ」って言ったのは志月だけで、後には誰にも言ってない。
そんなこと…誰かに言えば、聞けば、確実に俺の気持ちなんて…筒抜けるわけで。
ああ、だからお前の方が余裕とかあるわけなんだな。なるほど、今頃それに気付いた。

「……好きだから、欲しかった」
「……有難う」
「……お前も、好き、とか、言えよ」

何の催促だよって話だけど、やっぱ聞きたくて。だから…催促する。
そしたら志月は少し恥ずかしそうにして俺の耳元、小さくその言葉を囁いてくれた。



-俺のシアワセ-
御題配布元 taskmaster


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