LA - テニス

07-08 携帯短編
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何の答えも出ないままに、彼女は此処を卒業する日。
俺は未だにモヤモヤする気持ちを隠し切れず、でも何も言うことも出来ず。
日吉の言っていた答えはきっと、俺の中では出ているというのに。



---最後の葉。



見送る側として参加する卒業式は特に感動もなければ涙もない。
俺たちはあくまで見送る方であって、見送られる方ではないからそんなもの。
だけど、少しだけ切なくて泣いている先輩たちを見れば…もらい泣きをしなくもない。

「おわ!な、泣くなよ長太郎」
「な、泣いてません」

これから先輩たちを送り出すために部室で恒例の送別会があるというのに。
結構、グズグズな先輩たちと何故か俺。あ、跡部さんと忍足さんとジロー先輩は泣いてませんが。
4月が来れば…そんな先輩たちがいないという事実が込み上げて、やはり寂しいものと知る。

「おーおー気持ち悪い図やな」
「男同士抱き合って泣いてタチが悪いな」
「ふ、二人とも――…」
「のわ!寄るな鳳!」
「俺に鼻水とか付けんなや!」
「お、おい忍足!俺様を盾に――…」

どんなに怒鳴られても叫ばれても、先輩は先輩でいないと寂しい。
来年になれば追い掛けてまた同じような生活になるにしても寂しいことは寂しい。
抱きつかずにはいられなくて、少しの距離が切なくて、それが涙となって流れていく気がする。

「……そういえば、志月先輩は?」
「あ、何か職員室に行ってから来るって言ってたぜ」
「職員室…?」
「先生たちと写真撮るってはしゃいでたCー」

きょろきょろと周囲を見渡して先輩が一人足りないことに気付いた日吉は偉い。
俺は涙でもう目の前の人しか見えなくて、そんな余裕なんて何処にも無かったというのに。
……で、皆が涙するなか、はしゃいで職員室で写真撮影だなんて彼女らしい。

「鳳、迎えに行って来い」
「……はい?」

諦めて背中やら頭やらを軽く叩いていた跡部さんが急に俺を引き剥がしたかと思えばそう言う。
こんな最悪の状態で職員室に行けと言うのだろうか…そう思って顔を見れば、うん、怖い顔してる。
「言うこと聞かねえと殺す」そう言い兼ねないような表情で。

「さっさと行け。部長命令だ」
「……はい」

俺から解放されたくて命令して来たのか、とにかく俺から離れなれた跡部さんは溜め息を吐いてた。
そこに樺地がすかさずタオルを跡部さんに渡してて…ああ、俺の涙がブレザーに染み込んでる。
微妙に舌打ちした様子だったけど、そのブレザーはもう着ることもなくて。それがまた切なく思える。

「行って来ます」

そう言って部室から出ようとした時、無表情な日吉が俺にタオルを渡してくれて。
「今日がラストチャンスじゃねえか?」とか何とか言って背中を叩いた。
そうか…本当に今日が最後の最後になってしまう。何とも言えない気持ちしかない。


顔をゴシゴシ拭きながら職員室へ向かう途中、色んな人が色んな表情で誰かと居た。
泣いている人も居た、笑っている人も居た。先輩なのか、後輩なのか、同級生なのか…
卒業とは…こういうことなんだろうか。笑って、泣いて、感情を剥き出しにして見送って、見送られて…


「あ、チョタロー!」

職員室目前、花を抱えた先輩は俺とは対照的な笑顔で明るく手を振っていた。
涙なんて無縁の人でしたか。何となく、感情が冷静になってきて…少し呆れてしまった。

「……迎えに来ました」
「ああ。ごめんごめん。一応、遅れるとは言ってたんだけど」

拍子抜けするほど明るく振舞う彼女は、涙とは本当に無縁の人みたいで。
此処を離れることに未練も無さそうで、本当に嬉しそうに笑っている。目も…赤くはない。
何か個人的に複雑な気持ちがあるんだけど、先輩は気にした様子もなく笑ってる。
いつものように、いつものように。明日になれば…此処から彼女はいなくなる。

「あーあ、チョタは向こうで泣いてきたな」

ケタケタ笑いながら、俺の目元まで手を伸ばして。ひんやりとした手の感覚。
何か色んなことを話しているみたいだけど俺の耳には届かない。聞こえて来ない。
いなくなるって何だろう。卒業していくって何だろう。その答えは分かっているから切なくなる。
明日からは此処では会えなくなることが悲しくて切なくて。でも先輩は違うのだろうか。俺は…

「先輩が、明日からいないのは、寂しい、です」
「え?」
「寂しい…です」

それはきっと当たり前になりすぎて気付かなかったこと。
引退を期に接触が少なくなって…その時に気付かされて、今なら理由がハッキリ言える。

「好きだから…来年も特別製のチョコ、欲しいです」

卒業するのは彼女で、在校生は俺で。でも笑っているのは彼女で、泣いているのは俺で。
涙ながらに言う台詞でもなければ、許可もなく彼女を抱き締めるのは反則行為かもしれない。
彼女が抱えていた花も一緒に、職員室前の廊下でただ泣きながら抱き締めた。

「……チョタ?」
「卒業、しないで、下さい」
「そんな無茶な…」
「4月からも此処に、居て下さい」
「き、キャラ変わってるよチョタ!」

泣いて縋る自分はハッキリ言って情けないものだと思います。
廊下を歩く人たちが確実にクスクス言ってるのが聞こえて、それでも縋らざるを得なくて。
ただ、そんな最中に今度は彼女が呆れたかのように笑いながら一言、言葉をくれた。

「来年も…特別製持ってくるから、今年のお返し用意しときなさいよ」

これが彼女から貰った中学最後の言葉だった。



-最後の言葉-
御題配布元 taskmaster


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