LA - テニス

07-08 携帯短編
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---返品否。



「宍戸」
「あ?何だよ」

……何か身に覚えのある流れだなオイ。
目の前に突きつけられたのは、またも無造作に包まれた代物。
てか、俺らって付き合い出して少なくとも4ヶ月は経ってねえか?
それなのに苗字呼び…いや、今はそんなことはどうでもいいけどよ。

「ほれ、バレチョコ」

うわー…何か可愛げもなければ色気もねえなオイ。
バレチョコ言うな、バレチョコって!中身は絶対、市販物だろ?
いや…それでも嬉しいんだけど、嬉しいんだけどな!
でも渡し方とか…もうちょっとこう…なかったのか?なあ。

「お、おう…サンキュ」
「……もうちょっと有難く受け取れ」
「お前が言うな!」

何つーか…色々と欠けたヤツだと思う。欠けた、つーか…
天然なのか?天然…天然としか言いようはねえな、コイツは。
じゃねえと俺の誕生日にあんなモン…寄越したりはしねえ、な。
未だに開封すらしてねえ、て言ったら激ギレしてたっけな。
「人が折角選んだってのに使わないとかどういうことよ!」って。
アレ、ゲームじゃねえか。使うとかいう表現すんなっつーの!
いや…人によっては、その、使うのかもしれねえけど…よ。

「言っとくけど」
「何だよ」
「ソレ、初の手作り品だから」

……手作り!
やべ、ナチュラルに喜んじまったじゃねえかよ。手作り、手作りだとよ。
明日は雨とか降るんじゃねえだろうな。いや、むしろ今すぐ雨とか雪とか嵐とか。
「面倒」が口癖で、結構堕落した生活をしていて、面倒あればすぐに人に頼る。
それが志月ゆいだと言わんばかりの彼女が、手作り、手作り…とか。

「……マジで作ったのか?」
「うん。相当面倒だった」
「面倒とか渡す相手に面と向かって言うな」
「でも事実だし」

あーもうマジで嫌味なくらいストレートだなオイ。
それが本当にストレートすぎて返って自分の方が女々しく見えるぜ。
男前と言うべきのか、むしろ男だったんじゃ…くらいの勢いがあるな、コイツ。

「そう問答すんなって。毒なんか入ってないからさ」
「んなこと考えてねえし」

何つーか…俺もて遊ばれてんのか、もしかして。軽くそんな気がすんだけど。
いや、そんな考えはヤメヤメ。折角、こうして彼女がチョコを作って来たんだ。
喜んでも落ち込む理由がねえ。そうだろ?前向きに前向きに考えるんだ俺。

「……何、嬉しくなかった?」
「な…」
「今の表情、市販の方が良か――…」
「そんなことねえよ!」

無表情で何言ってやがるんだよ。言葉はストレートでも表情は…読めねえぞ。
前よりも無表情さに輪が掛かってねえか?喜怒哀楽が表情から読めねえ…
いや、そういう面も含めて気になったヤツなんだが…って何に言い訳してんだ?

「マジで嬉しい。有難う」
「だったら今すぐ食べて」
「……今すぐ?」
「今すぐ」

……何だ?何か嫌な予感、すんだけど…な。

誕生日の時は俺が許可を得てその場で開けて…物凄いことになった。
今回はゆいが今すぐ食えって言ってて…この場合は惨事に至ったりは…な。
とりあえず、無造作に包まれた代物の梱包を解いて、中身を確認してみる。
うん。カタチも色も普通だ。ただ、かなり長方形だってのが気になるところなんだが。

「あ、型が無くて弁当箱で作ったんだ」
「べ、弁当箱…」

いらんカミングアウトはしなくていい。そこそこショックを受けるから。
だからアレか。無駄に分厚めなんだな。そうか…弁当箱で型抜き、か。

「……頂きます」

弁当で型抜きした何とも言えない分厚さの長方形のチョコレート。
とりあえずガブリと噛り付けば味は特別変わった様子もなくて…悪いな、安心した。

「美味しい?」
「ああ、甘くてうま――…」

――ガリリッ。
物凄い違和感のある感触した。奥歯で何か変なモン噛んだ気がする。

「……何か噛んだ」
「あ、もう見つけたんだ」
「……何だ?」

相変わらずの無表情で「意外と早く見つけたね」なんて言ってるけどよ。
何入れやがったんだ、チョコ以外に。ガリッとかいうものを意図的に入れたのか?

「宍戸が虫歯にならないようにキシリトール入れといた」


――んなもん入れんな!

そう叫んでやりたかったけど…俺はコイツに甘いらしい。
喉のそこまで出掛かっておきながら、彼女の顔を見た途端に何も言えなくなるとか。
きょとんとした彼女に頭を抱えて、ただ哀願した。「来年はガムとか入れるな」と。



返品拒否。

宍戸、彼女に振り回される…
微妙に天然素材でクールボケ彼女の続編にて。


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