LA - テニス

07-08 携帯短編
32ページ/80ページ


俺のシアワセ



ムカつくのはこの教室の空気だけじゃねえ。雰囲気だけじゃねえ。
俺のクラスに来てはウジウジしてる侑士の所為だと気付くのに時間は掛からなかった。
ぶつぶつと訳分かんねえこと呟いては「どないしたらええんやろ」とか言ってる。
そんな侑士に腹を立ててる合間に色んな子が俺の机にチョコを笑顔で置いてって…
いや、嬉しいんだぜ?ベタに貰えるって期待とかしてたんだしさ。でも許せない点が一つ。

「なあ、岳――…」
「惚気は聞かねえ」

皆、持って来たチョコを義理義理義理義理言いやがること!
んだよソレ。言えば友チョコってヤツになんだよな?いや、食うんだけどさ。
一人くらい顔を赤らめて置いてくくらいの子はいねえのかって話だよ、コンチクショウ!
侑士とかそんな子に対して「いらん」とか突っぱねてるんだぜ?此処に居る間にも数回。
そんなヤツより俺の方が優しいと思う。ただ…応えることは出来ねえけど。

「どうせ笹川笹川言うんだろ。うぜえ」

俺なんか好きな子から貰うことすら出来ねえんだぞ、くそくそ侑士め!
一応…いつもの調子で「くれ」とかいうのは言っておいたけど…全然効果ねえし!
後にも先にもそんなこと言ったのはアイツだけなのに…それすら分かっちゃねえのな。

「いや、確かに祐希の話しよて思いよったけど…」
「知るか!」

あんまりウジウジしてやがるから一喝入れたら、そそくさと侑士は出て行った。
たく…アイツし贅沢なんだよ。仮でも何でも彼女いんだからな。くそくそ侑士。
俺だってな、彼女の一人や二人くらい欲しいさ。けど…やっぱりダメなんだ。
適当に寄って来た子なんかとは付き合えない。好きだと思う子はたった一人で…
その子じゃないとダメだし、でも、そのことを言う勇気はねえし…情けないよな。
くそくそ、アイツらみたいに自分に自信でもありゃ言えたのに。多分、おそらく、予定。
無駄にアイツらがきゃーきゃー言われるからベタに落ち込むんだろうが!

「がーくちゃん」

……また来た。明らかに複数で徒党を組んでやって来た女子の群れ。
くそくそ、義理義理言われながら貰うってのもキツいってことを知れよ。
いや…貰えないよりはいいんだけどな!嬉しくはあるんだけどな!くそくそ!

「岳ちゃんにチョコ持って来たよ」
「あ…さんきゅな」

って!何気ににこにこした志月が混じってる!
俺が唯一、チョコを強請った子。複数の女子に混じって居るってことは…

「義理チョコだけどお返しは3倍で」
「……そりゃねえよ」

本音。ぶっちゃけ本音、だよな。
義理チョコ宣告受けて貰ったチョコの中に、俺が欲しかった志月のが混じった。
確かに俺が欲しかったものではあるけど…これはこれで残酷なものだと知る。

侑士に八つ当たりすべきだろうか。
それとも屋上で叫ぶべきだろうか。

頭に浮かぶ選択肢は二つ出て、それをどちらも選択するって手もある、と心で俺が呟く。
愕然とうな垂れた俺の机の上に置かれたチョコを紙袋にしまいつつ、心で叫ぶ。

――バレンタインなんて無くなっちまっても構わねえ、と。



あれから義理チョコの数は増えに増えて、跡部とか侑士とか鳳とかには及ばないにしても大漁。
家に帰ればソレを待ち構えてたかのように姉貴と弟が玄関先にスタンバイしてた。
甘いもんには目がないってヤツ。俺が貰って来るのを期待してる辺り何とも言えねえな。

「さすが私の弟、でかしたわね」
「……うっせえよ」
「半分貰っていい?兄ちゃん」
「……お返し分の金取るぞ」

もうマジへこむ。いや、確かにチョコ強請った。強請ったさ。
だけど他の子と一緒に渡されて、義理チョコとか言われた日にはどうすりゃいいんだ?
少しは勘ぐればいいのにさ。俺、他のヤツには何も言ってないんだぜ?くそくそ。
放課後になる頃には侑士の浮かれた姿まで見せられてまた腹が立ってしょうがねえし。
へこむ…へこむよな。飛び蹴りぐらいじゃ収まらねえんだけど。

「がーくーと」
「んだよ姉貴」
「このチョコは自分で食べな」
「はあ?」

何だよ急に…ニヤニヤしてる姉貴が気持ち悪い、とは言えねえけど。怖いし。
手当たり次第、ラッピングを外して中身食べてるくせにその一つだけ俺に突き出してる。
てか、これは俺の戦利品だっつーに。全部二人で食べちまうのかよ。
お前らなんざ明日、ブツブツ沢山出来て表出れないような顔になっちまえよ。マジで。

「ホレ」

一度は箱を開けたっぽいものを突き出されたから受け取って中身を確認。
そこにはピンク色の大きなハートのチョコに黒のチョコペンで書かれた四文字の言葉。

「……どのラッピングに入ってた?」
「んーあ、コレコレ」

物凄い適当に開けたと思われる包装紙の残骸の中から取り出されたのは…
"Happy Valentiine's"の文字入りのもの。この包装紙だけ、これだけには見覚えがあった。

「岳人みたいなのでも好きって子いるのね」
「……うっせえよ」

まだ決まったわけじゃねえ。だけど顔が自然と綻んでいく。
このチョコを手に持っていたのは明らかに志月だって自信はあるけど分からねえ。
嘘かもしれない。冗談かもしれない。見間違えただけかもしれない。
それでも…期待している自分の方が上で…ヤバイくらいテイションが上がっていく。


――本命だよ


ヤバイ。コレどうしたらいいんだ?
とりあえず…そのチョコを持って部屋までの距離を走り抜ける。
勘違いだと恥ずかしいことになる。絶対、馬鹿にされることは分かってる。
分かってる分かってる…それを分かっていながら、自分の携帯を強く握り締めていた。



-俺のシアワセ-
御題配布元 taskmaster


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ