LA - テニス

07-08 携帯短編
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---最後の葉。



「ハッピーバレンタイン」

部室にノックもなく乱入して来たと思えば、俺たちが着替えの途中でもお構いなしにズカズカと。
確かに前からそんなカンジの人ではありましたが、引退後も変わらずにいるとは思いませんでした。

「優しい先輩からチョコのプレゼントだよ」
「……」
「おんや…ノリの悪い後輩ですこと」

えっと…こういう時、何か若者の流行語で何とかって言うんでしたよね。
まさに今の彼女はそれそのものだと思うのですが、敢えて誰も何も言えないのは先輩だからでしょうか。
今となっては2年のみとなった部室で、こうして顔を出してくれる先輩は相変わらず先輩で。
タテ社会と言いますか、そういった仕来り的な要素は今もずっと残されていることで…

「はい、若ー」
「……有難う御座います」

上半身裸の日吉が先輩から何とも言えない表情でプレゼントを受け取っている。
隣で樺地はもうプレゼントを受け取っていて…でも、下は可哀想に下着姿なんですが。
他の部員たちにも花粉のように散布させるかの如く先輩はチョコをバラ撒いている。
本当にこの先輩は…もう少し状況などを読んでも良いかと思うのですが…
むしろ、恥らしいなどは存在しないのでしょうか。色々と謎が多いです。

「はい、チョタも」
「あ、有難う御座います」
「チョタの分だけは毎年恒例で特別製だよ」

その台詞、去年も聞きました。今日が俺の誕生日ということで特別製なんですよね。
去年はそんなことも知らずにドキドキした自分が居ましたが、今年は分かりきったことですので平気です。
平気…ですけど、来年はこの台詞を聞くことが出来ないんだと思うと…寂しいなんて。

「じゃ、練習頑張ってね!」

結構、あっさりと出て行かれました。人の気も知らないで…
まるで嵐のような女性です。周りの様子を気にすることはない。しない。
1年以上、そんな彼女を見てきたわけですが…来年は確実に、此処にはいないんですよね。
あまりにも当たり前のことなのですが、それが返って気になるだなんて言ったら変ですか?
今となってはそう顔を出すことも少ない先輩で、でも、大事な時は必ず近くに居て。
後輩になるマネージャーの指導をされている時もある。手助けをされている時もある。
だけど、もうすぐソレが無くなると思うと寂しいだなんて…やっぱり変でしょうか。

「何だよ鳳」
「え?」
「随分、切なそうな顔してんな」
「せ、せつな…!」

そんな顔は決してしていない…と断言しようにも出来ないことに気付く。
事実、俺の中には何処か寂しさがあって悲しさがあって切なさも…あるのだから。

「……日吉」
「あ?」
「俺…病気でしょうか」

……思いっきり「バーカ」と言われてしまいました。
どうやら、ウジウジしそうな俺に苛立ちを覚えているような気がします。

「ま、元からお前は病気だ」
「……そう、かな」
「ノーコンだしな」
「それは関係ないだろ!」
「ま、精々ホワイトデーまでには動くことだな」

チッと舌打ちしながら日吉は冷たくも部室を出てってしまいました。
けど…ホワイトデーっていったらもう先輩は卒業しちゃってるんですよね。
去年は居たのに今年は居ない。それが卒業。
あーふと思いました。アレです。俺思ったよりもアレなんですね。

「俺、あの人のこと好きだったんだ…」

言葉にすればそれが虚しくも痛感させられる。
別れを目の前に気付いたこと、それは良いことなのか悪いことなのか。


(大体、あの人が神出鬼没なのが悪い)



-最後の言葉-
御題配布元 taskmaster


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