LA - テニス

07-08 携帯短編
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---君にげよう。



朝、いつもより一時間早く起きた。ご飯も食べた。身支度は整ってる。
あとは大きく深呼吸をして学校出掛けるだけとなったけど…うん、勇気ナシ。
いい加減、毎日毎日迫り来るものに手を打たないといけないって思ってた。
手を打つべく日を決めて、決め込んで、意気込んで…
いざ、その日が来たら逃げたくなるっていうのはどういうことなんだろう。

いや…もういい加減、観念した方がいいだろう。
ヤツは諦めと言う言葉を知らない。人目と言う言葉もない。
何処までも真っ直ぐに直進して来る姿は何とも言えない男である。
怖いとかキモイとかで片付かないから余計に頭が痛かった。
でも…ふと気付けば隣に居るのが習慣で、やり取りをするのが当たり前で。
それに気付いた時、観念しようと思った自分が此処に居たんだ。
何だかんだで、いつの間にやら、気付いてしまったことがあるから。

……て。何だコレ。
めちゃくちゃ運送トラックが学園前に停車してます。
いや、何となく分かる。分かるんだけど…コレは凄くないですか?

「お。おはようさ――…」
「何事も無かったかのように挨拶すんな眼鏡」
「おわ、朝からキッツイな…」
「放るのか?コレに放るのか?」

多少、錯乱気味で忍足に挨拶などしつつ…目の前のトラックを見つめてみたり。
すげえ…何処かのアイドルグループのチョコ輸送車なのだろうか…と言いたい。

「落ち着き志月」
「落ち着け言う方が無理」
「まあ、そうなんやけど…」

忍足曰く、このチョコ輸送車はそのまま海外ボランティアグループに引き渡すとか。
いやいや…いくら相手に許可を得ていたとしても、気持ちを無下にして欲しくないところ。
さすが、天下の跡部様。スケールでかいです。ヤバイ、何か余計に減ったよ、勇気とか。
何たってこの男はモテるんだ…?顔か?金か?性格は破天荒極まりないのに…

「で、志月は跡部に渡すん?」

はわ!そ、そうでした…渡すんでしたね、自分。
何か色々なものに気圧されてしまって忘れそうになりました。でも…

「ボランティアグループに引き渡すんだっけ?」
「おートラックのヤツはな」
「……なら止めておこ」

手作りじゃなくて市販で、わざわざ跡部に合わせてゴディバにしてみたのに。
食料援助に回されるくらいなら自分でご賞味あれ、ってカンジですよね。うん。
うわー…何か色々さめて来た。目とか感情とか、もう全部の意味でさめたよ私は。
ちょっと揺らいだはずなのに、何かこう…ね。うん。気の迷いみたいな――…

「ゆい」

いやね、全部食べろとは言わないよ。この山積みになった膨大な数のチョコをさ。
鼻血を出すか、顔に無数の吹き出物が出るか、二者択一…いや両方喰らう可能性もあるか。
ちょっと見てみたいような、見たくないような。ブツブツ出来た跡部…笑えない気もするや。

「おい」

でも…誰かにあげちゃうくらいなら受け取らなければいいのに。
見るからに頑張ってるヤツもあって、コレ全部…跡部のためにあるわけでしょ?
「ボランティアに回されてもいいから受け取って下さい!」なんて私は言えないわ。
けなげ、だよね。本当に。それを考えると受け取らないっていうのも酷なのかな…

「おい、志月ゆい!」
「おわ!あ、跡部?」
「てめえトラック眺めて寝る趣味でもあんのかよ」

ないよ、そんなの。
確かに少しばかりトリップはした気はしたけどアレだ。目の前に光景に驚いただけ。
ついでに、アンタの残酷さを改めて知っただけです。残酷…だよね。

「お前…俺様にチョコ持って来たか?」
「んー…」
「寄越せよ」
「……ヤダよ」

跡部の眉間にピキーっとシワが濃く刻まれましたサンキュー。
てか、持って来たさ。持っては来たけど「食糧援助」に「寄越せ」でやるはずがない。
勿体無いじゃん。ゴディバだよ、ゴディバ。てか、どんだけ高飛車なんだ?コイツ…

「……もう一度言う」
「言うだけ無駄。絶対やらない」
「てめえ…」
「アンタ、本当に残酷主義者ね」
「んだと?」
「気持ちを込めたチョコを食糧援助に回すとか最低」
「だったら全部食えってか、貰うなってか?」

おー跡部の眉間のシワが更に濃くなりましたサンキュー。
だけどね、私は私で怯みません。だってそうでしょ?酷な優しさは要らない。

「貰うんだったら食べる。貰わないんだったら謝る。当然でしょ」
「当然かどうかは知るかよ。お前の分だけは俺が…」
「だからやらないって言ってんの」

大事なのは気持ち。跡部のチョコを受け取るっていうのが相手に対する気持ちならば、
私は逆に、跡部にはあげないっていうのが他の子に、自分に対する気持ち。
酷な優しさを解らせるために、私が自分でゴディバを食べるために、代弁しましょう。

「気持ちだけ貰うってことを噛み締めるといいわよ」

受け取るも受け取らないも跡部の自由だっていうのは分かってる。
貰ってあげるのも優しさ、付き返すのも優しさだという気がするのも確か。
物凄く難しいことだけど…そこら辺をもっと跡部にも考えて欲しい。考えて…って。
何か跡部が笑ってるんですが…物凄い笑ってるんですが!

「ようやく堕ちたか」
「は?」
「お前の気持ちを俺様に寄越すってことだろ?」

う、うーん…間違ってないんだけど、少し腑に落ちないような言い方するわね。
ついでに言えば、それがそんなに喜ぶようなことなのか?と聞くべきなのか?
イマイチ跡部の頭の中身が分からないんですが。やっぱり俺様だからかな。

「素直に好きだって言えよ」

悲鳴が上がる。いつもの黄色い悲鳴ではなく、断末魔に近い悲鳴が響く。
目を伏せた跡部の顔が見えて、それが妙に綺麗で色っぽくて…驚く自分と裏腹に、
次の瞬間、見たこともないような跡部の顔に見惚れた自分が確かにいて…

「俺様に片想いさせようなんざ、イイ度胸してたぜ。ゆい」

消え去ろうとしていた大きな気持ちが、また息を吹き返していた。



君に告げよう。

よくわからん話になった…
テーマに沿わないのが何とも言えないです。


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