LA - テニス

07-08 携帯短編
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いつにも増して活気付いている氷帝学園中等部、校門付近…
正直、ここを通過して景気よく校内へ入るのもなかなか勇気がいると思う。
同じ校内に生息する女子、それだけのことなのに…視線が痛い。
他校生からすれば、立ち入れる境界線はここまでらしい。
誰彼構わずに睨んで、羨ましがって、むしろ制服まで奪われそうな勢い。
10月4日、跡部景吾の誕生日。



全校生徒にぐ!



――ジジ…プツッ。
微妙な耳障りの音が聞こえる。また放送機材が故障し掛けてる…
この間の予算案で新しい機材を発注するよう要請したのに。
生徒会メンツときたら、この雑音なんか誰も気付かないとか言って却下。
特に声を高らかに却下をかましたのが、本日誕生日の跡部。
知と財の両方を持つ生徒会長…いや、確かに顔も悪くはないけど。
性格は破滅的な俺様主義で有名。なのに、ファンが多く親衛隊までいる。
その結果、コレ。活気溢れる校外と殺気立った校内。
色々と勘弁して欲しい…関係のない生徒にまで被害が及んでるから。

――ジジ…プツッ。
あーもう完全に機材が悪いのか、スピーカーがヤバイのかな?
私だけが気になる雑音。職業病かな?放送部なんてしてるから…
周囲の声だとか跡部コールだとか、そんなのよりもこの音が気になる。
教室に入る手前、廊下に設置されたスピーカーをふと眺めた。

――ジ…ジジ…ブツン!
ヤバイ。本格的に変な音がした!明らかに変な音!
やっぱりもう一回、生徒会に掛け合って予算出してもらわないと…
と、思えば、何だ。普通にアナウンスコールが鳴った。ピンポンパンポーンって。
あれ?でも今日は特に放送予定なんてなかったと思うんだけど…

  氷帝学園生徒会長の跡部景吾だ。

両耳全体、大音量の音楽をヘッドフォンで聴いたくらいの衝撃波。
何やってんだろ、あの俺様は!使用許可取ったの?私が文句言われるじゃん!
パチーン、と指を鳴らす音までわざわざマイクで拾わせて…
予算出しもしないくせに何勝手に機材全開でパフォーマンスしてんの!

  学園内外のメス猫…いや全校生徒に告ぐ。

メス猫って…アイツなりの優しさ?こんな言い回し聞いた事もないわ。
とりあえず、この放送は無視して教室に入れば…わお、凄い光景。
スピーカー前に跡部ファンの女子生徒諸君が陣取っていらっしゃる…
そ、そんなことしなくても放送は聞こえますけど…執念だわ。

  今日は俺様の記念すべき誕生日だ。

うわー…煽りか?この行為は煽りだろう。
跡部コールを拡張させて授業を潰す気なのか?近所迷惑…

  だからこうして挨拶だけはしてやる。感謝しろ。

「ちょっと…アンタたち」
「ああ、おはようさん」
「普通に挨拶交わしてる場合?そっちの部長…」
「ムリ。アイツ昨日からこの予定立ててたから」
「はあ?止めといてよ、馬鹿カッパ!」
「カッパだと?くそくそ志月め」

  でだ、今年はプレゼントを一切受け取らない。

「にしても派手だよなー」
「変な感心する前に止めて来てよ。私が怒られる!」
「あー志月は放送部の部長やってんなー」
「そうよ。だから止めて来てよ、忍足」
「無理やて。奴の誕生日やさかい。邪魔出来ひんわ」

  唯一の女の物だけ受け取ることにした。

「誕生日だからって何でも許すわけ?」
「だったらお前が行けよ」
「せやな、部長責任やろ?」
「ちょっくら行ってみそ」
「嫌よ!放送室が今、どんだけのことになってるか…」

  邪魔する奴、そいつに被害を与える奴は俺が潰す。

「まあ…少なくとも群がっとるやろな」
「でしょ?だから忍足派遣。宍戸でも向日でもいい!」
「だから俺らは行かへんて」
「そうそ。今、邪魔すんなって跡部も言っただろ?」
「人との会話中に放送に耳を傾けるな!」
「……それが放送部の台詞か?」
「うるさいわね宍戸。今はジャックされ――…」

  さて…今教室で慌ててる放送部の志月ゆい!

……最大音で、しかも校内外に私の名前、出た、わね?
しかも、ごっつ睨んでいらっしゃるんですけど…教室の女子の皆さんが…

  ホントにこの機材ボロだな。予算を考えてやってもいい。

「予算!機材予算出るの?」
「おいおい…反応するんはそこか?」
「前文聞いてなかったんだろ」
「跡部可哀想だな」

  今から条件を一つ出す。良く聞けよ志月。

「聞きます!」
「うわー返事したよ」
「あかんな…前文教えたれよ宍戸」
「はあ?俺がかよ」
「ちょっと黙ってて!予算掛かってんの!」

  俺様へのプレゼントを今すぐ持って来い。

「プレゼント?ないない!」
「あちゃ…それあかんて」
「ねえ、何かない?何でもいいんでしょ?」
「……やべ、跡部に同情しそうだ」
「俺も…昼にから揚げやろ…」

  3分以内、放送室までだ。過ぎれば予算は降りねえ。

ブツッ、という音と共に跡部のパフォーマンスは終了した。
予算…予算!こんなことなら、お菓子でも持って来れば良かった!
カバンの中も机の中も…捜したけれど見つからないのにーって、
いかん、頭の中で曲が流れた。

「ねえ、何もないんだけど!」
「あ、ああ…」
「どうしたらいいの?予算掛かってんの!」
「あ…そのまま行ってええんとちゃう?」
「プレゼントなしで?」
「祝いの言葉をプレゼントとする、とか?」
「プラスでスマイルをプレゼントにするんや」
「よし!それでいこう!」
「……馬鹿だ」

宍戸が後ろで何か言った気もしたけど、今はそれどころじゃない。
大体、3分以内って短すぎ。カップラーメンか、ウルトラマンか!
まさかこの学園の廊下を全力疾走なんてする日が来るとは思わなかったわ。
今はもう雑音も視線も何も感じない。目の前には機材予算だけ!



「跡部!」

息切れするまで全力で走った。髪も服もボロボロ。
動悸だって体育以上にしてるし、朝食で食べた物が出そうなくらい。
そんな私を見て、放送室ですましてる跡部…ちょっとムカつく。

「早かったな」
「当たり、前、予算……」
「その前にプレゼントは?」

……うん、あるわけないのを察してる目だな。
この場合の対処法はさっき、向日と忍足から心得てるわよ。
えっと…何だっけ?あ、アレだ。笑顔で祝いの言葉を!

「誕生日おめでとう」
「……で?」
「ん?今のがプレゼント…」
「予算欲しさの笑顔と適当な言葉がか?」

あ、バレてる。ま、バレバレだとは思ってたけど…でもプレゼントには間違いない。
今まで祝ったことなんて一度もないし。ま、迷惑は貰った気がするけど。

「でも、何もないし…」
「お前…ちゃんと放送聞いてたのか?」
「聞いてたわよ。いきなり人の名前呼んで…」
「その前は?」
「う……」

全然、聞いていませんでしたーなんて言えないよね。仮にも放送部員。しかも部長。
自分の放送を聞いてもらえなかったら、正直つらいとこもあるわけだし…

「き、聞いてたわよ」
「ならプレゼントは貰おう」

そう告げた跡部が不意に動いたかと思えば、私の体を…ギュッてした。
その瞬間に廊下で響いたのは悲鳴と悲鳴と悲鳴。
ちょっと待って。全力疾走した女の子に抱きつく趣味でもあんの?

「お前自身がプレゼントになれ、志月ゆい」



Happy birthday to Keigo. vol.1

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