LA - テニス

07-08 携帯短編
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---からのチョコ。



えードキドキしてます。ガラにもなくドキドキしとります。
やって今日バレンタインやで?好きな子からチョコ貰える日やで?
全国大会も終わってしもて、部活は完全に引退してもうた今、
ゆいからの差し入れは激変して、ほんまに口寂しい言うか何ちゅうか。
いや、それでも一緒に帰る時とかに寄り道とかすることはあんねんけど…
何て言うたらええんやろ。俺らはちゃんと付き合うとるん…よな?みたいな。
俺はまだ「好き」とか、そないな言葉は貰うてへんままなんや。

これが一方通行のまんまやったら、俺は壊れるやろ。
俺はゆいが好きや。もうずっと好きで、ただホンマに好きで。
せやけどゆいは「知ることから始めさせて下さい」のまま。
なあ、もうそろそろ俺を知ることは出来たんやないか?て、言いたい。

「なあ、岳――…」
「惚気は聞かねえ」

おわ…めっちゃ冷たいやん岳ちゃん。
ちょい話くらい聞いてくれてもええやんけ。と全力で突っ込み。
せやけどホンマ冷たいわ。物凄い形相で睨まれとります俺。

「どうせ志月志月言うんだろ。うぜえ」
「いや、確かにゆいの話しよて思いよったけど…」
「知るか!」

……今日は不機嫌やね。何や生理かいな、いや、んなことあれへんか。
それとも義理チョコやー宣言されまくりで貰うとるチョコが腹立つんやろか。
触らぬ神にたたりなし。岳ちゃんには今日は触れんとこか…

どうも今日はええ日和ってわけやあれへんみたいや。
ゆいがチョコ持ってけーへん。
放課後、一緒に帰る予定にはしとるけど…それまで待てて言うんやろか。
ぼんやりそないなこと考えとる間にも俺の周りに要らん女が来る。
同じ言葉でチョコは受け取れへんのに…それでも寄ってくる。
……あかん。色んな意味で限界かもしれん。


なあ、俺はあかんやろか。
かりそめの彼氏から早う脱出したいて思うたりしよる。
好きになって、好きになって欲しい、て思いながらずっと合図は送っとった。
伝わっとるよな?それが嫌とかやってんかな?分からん。分からんねや。


「ゆい」
「あ、忍足くん」

彼女のクラス、教室で名前呼んだら…いつもの彼女がいた。
ふんわり笑うて…何かネジ飛んだ。さっきまで考えよったもんとか飛んだ。

「慌てて来たみたいけど、どうかした?」
「あ…いや」
「また逃げて来たんでしょ。今日は――…」

せや、バレンタインなんやで。
ちゃんとそのこと知っとって、何で来てくれへんの…とかワガママやろか。
友達以上、恋人未満なんて嫌や。それ、分かって欲しいとか、あかんやろか。

「ゆい」

後にも先にも、こないな気持ちになることはないやろ。
好きで、とにかく好きで、他が見えへんくなるとか、もう二度とない。

「俺の分の…ある?」
「あ、チョコ?ちゃんと――…」
「義理とかやったら要らへん」

言葉遮って俺が話したんに驚いたんか、いきなし要らんとか言うたんに驚いたんか。
ゆいの目は真ん丸や。ガラス細工みたいな綺麗な目、むっちゃ驚いとる。
俺が自分から告白した日と同じように…せやけど、すぐに表情は一変。
少し顔を赤らめて…それでも笑うた。俺が好きなゆいの笑顔。

「そういえば…言ってなかったね」

机の横に掛けとるバックから可愛らしくラッピングされたものを取り出して。
両手添えて、真っ直ぐ俺の目見て…俺の目の前に出す。

「好き、です。これからもよろしくお願いします」


俺の手は目の前のチョコよりも先にゆいに触れとった。
此処はゆいのクラスで、休み時間で、ゆいのクラスメイトも仰山おって。
それでも俺は構へんかった。やって、初めて聞いたんや。ずっと聞きたかった言葉。
やっと聞けた。やっと伝わった。やっと…捕まえた。俺の大事な子を。


「ゆい」
「は、はい…」
「おおきに、な」

きっと真っ赤な顔とかしとると思う。せやけど離したりはせえへん。
だって俺ずっと我慢しとったんやからな。微妙な関係のまんま、ずっとずっと。
せやから、もうちょい抱き締めさせて欲しい。今、めっちゃ幸せやから…

「……忍足」

て、誰や。今の声は…宍戸か?邪魔せんといてーな。
ちゅうか、ゆいて宍戸と同じクラスやったんやったな。忘れとったわ。

「忍足」
「何や邪魔せんとい…」

えらい静かな空間やと思う。視線も痛いし、誰も何も言えへんし。
ただ、俺の斜め下方向に着席した宍戸がおって「ばーか」て小さな声で言うた。
関西人に馬鹿とか言うたら絞められんで、て言いたいとこやけど今は無理。
あー俺はこんなん全然平気やけど…ゆいは堪えられるんやろか。

「私は無粋ではない方だが…このクラスで自習を任されている」
「ほな、ちょい見逃すとかあきまへんか?」
「……次の休み時間、職員室へ来なさい忍足」

あーあ、タロちゃんはホンマ冗談通じん人やな。
しゃーないからゆいの体、離したったら予想以上に真っ赤になっとる。
そないな姿もまた可愛えなーて思う俺をゆいは見ることなく、そのまま席に座る。

「嬉しかってん。堪忍な」

それだけ。たったそれだけ彼女の耳元で告げて。
彼女が渡そうとしたチョコを片手に俺は悪びれもなく教室を出た。
鼻歌混じりに、相当浮かれて廊下を歩けば、あの日からの俺が報われた気がした。



君からのチョコ。

微妙に何とも言えない忍足の続編にて。
半ばストーカーで変態な風味になった…


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